死んだ母に会いたくて、量子力学をもとにあの世に行ける装置を開発した女の子の話
「鈴、ちょっといい?」
その声とほぼ同時に、父が部屋に入ってきた。
「…はーい。」
いつものことだがノックもなしに突然部屋に入るのはやめてほしい。
父の無神経さにため息をつきながら、母がいれば、こんな悩みも相談できたのにな…
と鈴はまた母のことを考えてしまっていた。
鈴の母は、数年前に病気で亡くなった。
まだ幼く、お母さんっ子だった鈴に母の死は耐えがたく、
その辛さから一時でも逃げ出すために一心不乱に勉強に打ち込むようになった。
そんなある日、授業で量子力学について知った鈴は、
そのある可能性に引き込まれ寝る間も惜しんで学習と研究を重ねた。
それからしばらくして。
鈴はなんとシュレディンガーの猫実験を基にした、
観測されるまで生きてもいるし死んでもいる箱を自室で再現してしまったのだった。
死後の世界に行けば母に会えるという突拍子も無い期待を胸に
さっそく装置を起動した鈴は、
気づくとどこかの浜辺に立っていた。
遠くでぼんやり人影が見える。あの後ろ姿は…!
「…鈴、ご飯だよ。」
聞きなれた父の声で、鈴はいつもの部屋に引き戻された。
感動もつかの間、
父がドアを開け自分が観測されたため、こちらに戻ってきたのだと分かった。
鈴は久しぶりの母の姿に感極まるとともに、
逆にあちらで観測されてしまった場合どうなるのだろうか、と少し怖くもなった。
それから鈴は何度も、装置を使って母に会いに行った。
最初の感動は次第に薄まってゆき、
会うたびに、ただ後ろ姿を見ることしかできない状況に
段々と寂しさを感じるようになっていった。
母の後ろ姿だけを見続け、数年が経過した。
何百回目の後ろ姿。
今日も母は後ろを向いて立っている。
せっかく会えたのに、こんなことなら遺影を見ているも同然だ。
もう、声をかけてしまおうか。
鈴がそう考えた時、
ずっと昔に聞いた優しい声が聞こえてきた。
「これはあくまで独り言だけど。
鈴。急がないで。
ゆっくり待ってるから、沢山人生を楽しんで。
またちゃんと会えたら、鈴のお話をたくさん聞かせて頂戴。」
…!!!
お母さん…!!!
鈴は喉まで出かかった言葉を、必死に飲み込んだ。
気づくと部屋にいた。
「鈴、ご飯が出来たから食べよう。」
父が呼びに来てくれて、私はどうやら部屋に戻ったらしい。
私は父に抱き着き、声の限り泣いた。
あれから装置は使っていない。
あの母の言葉通り、いつかちゃんと会えたその日まで、いっぱい人生を楽しもう。
鈴はそう心に決めたのだった。




