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炎の魔王の異世界進軍  作者: 紫木翼
1章
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初めての街

「さてと、どうだった?俺はお眼鏡に適ったか?」

「はい。魔王様の能力に加えてその炎の能力。実にすばらしいと思います。魔王様が人間だと知った時はかなり驚きましたが今回の戦いを見て忠誠を誓おうと思えました」


 ジオミスタは魔王の能力の一部なのでラシュプスの炎の能力が魔王由来のものではないことにすぐに気づき、このことを質問されたラシュプスはジオミスタに隠すことなく自分の事情を伝えた。

 魔王は魔族の人間への負の感情が集まって生まれた存在なのでジオミスタも人間には強い敵意を抱いていた。


 このためジオミスタは最初ラシュプスにも反感を持ったのだが、今回の戦いを見てその考えを改めた。

『騎士団』しか持っていない魔王と自分だけではこれ程早く人間と正面切って戦うことはできなかったと考えたからだ。


 またラシュプスがこの世界の人間ではないというのもジオミスタがラシュプスにそれ程反感を覚えなかった理由の一つで、これだけの力を示してくれたのだから今後ラシュプスについていこうとジオミスタは決意した。


「じゃあ、とりあえずトリカサとやらに行くか。街にいるエルフ全員探して助けるとなると一日や二日じゃ終わらないだろうな」

「兵士さえ貸していただければ私一人でやりますが?」


 魔王の能力が増える条件は助けた魔族の種族を増やすことなので、すでにエルフを助けている今エルフを助けてもラシュプスの能力は増えない。

 そのためラシュプスのトリカサにいるエルフ救出へのモチベーションは低く、このことはジオミスタも理解していた。

 このためのジオミスタの提案を聞きラシュプスは露骨に安堵した表情を浮かべ、その後二人は今後についての話をしながら馬に乗りトリカサへと向かった。


 ラシュプスたちが戦闘の現場となった場所を去ってから数分後、魔獣の陰に隠れて息を潜めていたギオは安堵のため息をついた。

 ギオが姿を隠すために利用したのはカメレオンの魔獣で、この魔獣は存在自体が軍の極一部でしか知られていないギオの切り札だった。


 時間が無かったので少しラシュプスが探し回ったら気づけるような形でしかギオは魔獣の陰に隠れられず、ラシュプスたちがこの場を去るまでギオは生きた心地がしなかった。

 距離があったためラシュプスたちの会話はほとんどギオに聞こえなかったが、ラシュプスたちがこれからトリカサに向かうことはギオにも察しがついた。


 このままギオがトリカサに向かっても悔しいがあの魔王には敵わないだろう。

 こうなったらトリカサの住民や兵士たちには悪いが彼らには犠牲になってもらい、その間に自分は今持っている魔王の情報を首都まで持ち帰らないといけない。


 街一つを見捨てるのだから必ずトリカサの犠牲は無駄にしない。

 こう決意したギオは近くにいた馬を捕まえると弔いもせずにこの場を離れることを死んでいった兵士たちに謝りながら急ぎ首都へと向かった。


 ラシュプスがギオの率いる兵士たちと戦った翌日の昼にはラシュプスとジオミスタは無事トリカサにたどり着いた。

 トリカサは国境から一番離れた街でエルフを狩る兵士たちの支援以外に戦略的な役割は持っていない街だった。


 このためトリカサにはあまり多くの兵士が配置されていなかったので、ラシュプスたちの討伐に向かった兵士たちが負けた結果トリカサにはほとんど兵士が残っていなかった。

 自国の兵士たちの敗北を知る前にラシュプスに乗り込まれたトリカサの兵士たちは抵抗らしい抵抗もできないまま城壁の門を破壊された。


「やみくもにエルフ探すのは効率が悪いからとりあえずお偉いさん探そうぜ。びびらせるために適当に街焼いてもいいけどそこにエルフがいるとまずいからな。慎重にいこう」


 魔王の能力の獲得条件は魔族に感謝されることだが、能力を獲得した後にこの魔族が死亡、もしくはラシュプスに失望した場合ラシュプスは能力を失ってしまう。

 極端な話エルフ一人にだけ感謝されていれば能力は消えないがラシュプスがうっかりエルフを殺してしまうと助け出したエルフたちが森にいるエルフたちと合流した際にエルフたちのラシュプスへの評価が下がる可能性があった。


 このため将来のことも考えるとラシュプスは魔族に優しい魔王を演じる必要があったのでエルフの救出も自ら行うことにした。

 一度上空に飛び大きな屋敷が多い区画を見つけたラシュプスはそのまま火炎を噴き出しての飛行を続けて、一分とかからずに適当な屋敷の敷地内に着地した。

 着地の際に足下のきれいに整えられた芝生が焼けたがラシュプスはそれを気にせずにジオミスタを呼び寄せた。


「兵士たち呼べないのは不便だな。……かといってあいつらの足に合わせてとろとろ移動するのも面倒だし。……結局人手が足りないってことで終わるか」


 魔族たちを一人でも多く助けて最低限の組織を作り上げなくては落ち着いて戦うこともできないのでしばらくは大人しく魔王業に努めよう。

 こう考えながらラシュプスが屋敷に入ると使用人らしき男女と出くわした。


「なっ、どうしてここに魔族が?」

「旦那様!奥様!お逃げ下さい!屋敷に魔族が、」

「お逃げされたら困るんだよ」


 自分を見るなり大声をあげた男女二人をラシュプスはためらうことなく焼き殺し、その後屋敷の主を探すために二階へと向かった。

 二階に上がってから使用人らしき人間四人を殺した後、明らかに使用人ではない身なりをした夫婦らしき男女が部屋から出てきたのを見てラシュプスは嬉しそう笑った。


「ようやく偉そうな奴見つけられたぜ。お前がこの屋敷の主か?」

「お前は何者だ?」


 明らかに人間ではない存在が目の前にいることに男、トリカサの領主、ルキドムは恐怖を感じたが、それでも相手に弱みを見せまいと何とか虚勢を張った。

 そんなルキドムを見てラシュプスは少し話しやすくしてやった方がいいと考え、左腕を伸ばすとその先から巨大な棒状の炎を創り出した。

 これにより近くの部屋が完全に焼失したのを見てルキドムとその隣にいた妻は言葉を失い、そんなルキドムの怯え切った表情を見てラシュプスは再びルキドムに話しかけた。


「お前が俺の質問に答えないって言うならお前をこの屋敷ごと燃やして次の屋敷に行くだけだ。どうする?俺の質問に答えるか?踏ん切りがつかないっていうならその女殺してやってもいいんだぜ?」

「分かった。質問には答えるから乱暴は止めてくれ」


 このルキドムの発言を聞きラシュプスはルキドムとの距離を詰め、その後ルキドムの右頬を焼いた。


「うわあぁぁ!」


 突然の痛みに右頬を押さえながら倒れ込んだルキドムからラシュプスは視線を外し、困ったものだと言いた気な表情をルキドムの妻に向けた。


「止めてくれだってよ。どっちの立場が上かぐらいちょっと考えれば分かりそうなもんだけど。なあ?」

「すみません!夫の非礼は謝ります!どうかお許しを!」

「ああ、いいぜ。俺も別に事を荒立てるつもりはない。でもこれからは口のきき方に気をつけるんだな」


 こう言うとラシュプスはルキドムたちの案内で応接室に向かい、とりあえずトリカサにいる全てのエルフを解放するように命じた。


「……もちろんあなたの命令には従いますが兵士たちがいない以上エルフ全てを回収するのには少々時間がかかります」


 ラシュプスが魔王を名乗った瞬間ルキドムたちは顔をこわばらせ、ラシュプスからギオを含むトリカサの兵士が全滅したと聞いた時点でラシュプスに刃向かうつもりなど完全に消え失せた。

 しかし今トリカサには治安維持用の最低限の兵士しかおらず、ルキドムの意思とは関係無くエルフ解放のための人手が足りなかった。

 このためルキドムはラシュプスにエルフ解放のためには時間が必要だと伝え、これを聞いたラシュプスが席を立つとルキドムたちは恐怖に表情を硬くした。


「心配するな。殺しゃしねぇよ。お前が仕事しやすいように手伝ってやるだけだ。今からこの街を俺の炎で囲む。二日以上俺を待たせたらそのまま街を焼き尽くすって街の連中には伝えろ。これなら街の連中も素直に従うだろ?」


 魔族が『奇跡』を使えるというだけでも信じがたいというのに炎で街全体を包むなどとラシュプスに言われ、ルキドムは恐怖を感じながらも領主としての責任感から口を開いた。


「少しお待ち下さい。せめて四日いただければ、」


 何とか少しでも穏便に済ませようとしたルキドムの前でラシュプスはルキドムの妻目掛けて小さな火を撃ち出し、この火はルキドムの妻の髪を少し燃やしただけに終わったがこれによりルキドムはラシュプスに反論できなくなった。


「お前が領主だってことで利用価値があるからこんなに穏便に済ませてやってるんだぞ?俺は相談してるんじゃない。命令してるんだ。次に俺の命令にはい以外の返事したらお前の見てる前でこの女焼き殺してやるからそのつもりでいろ」


 こう言うとラシュプスはジオミスタにルキドムたちの見張りを命じると街を囲む城壁へと向かった。

 今までしてきたことの延長とはいえ街一つを囲む程の炎を創り出すとなるとさすがにラシュプスも緊張し、これで失敗したらいい恥晒しだと考えながら能力を発動した。


 この時点でラシュプスたちがトリカサについてからまだ二十分も経っておらず、トリカサの住民のほとんどは今自分たちの街が魔王に攻め込まれていることを知らなかった。

 しかしラシュプスが創り出した炎の壁で一分とかからずに街が囲まれるとトリカサの住民たちもさすがに異変に気づき、住民たちの叫び声や怒号が聞こえてくる中ラシュプスは苦笑いを浮かべた。


「やべぇ、……早まったな」


 今回これまでとは比べ物にならない程巨大な炎を創り出したラシュプスは炎の壁を創り出した直後から魔力がみるみる内に減少していくのを感じ取った。

 この調子なら一時間や二時間なら持ちそうだがそれでもあまり長時間は持ちそうになかった。

 この炎の壁を見てトリカサの住民たちが大人しくエルフを解放してくれればいいのだがとラシュプスが考えているとジオミスタから連絡が入った。


(魔王様、領主と共にエルフの解放を住民たちに呼びかけていたのですが残っていた兵士の一部がエルフ数人を人質にして魔王様の創った壁を消すように求めています。どうしましょうか?)

(俺に連絡する手段が無いから直接伝えるように言え)


 この後ジオミスタから兵士たちと共にラシュプスのもとに向かうという連絡が入り、一時間もしない内にエルフを人質に取った兵士たちがジオミスタと共に現れた。

 ジオミスタは鎖数本で縛られており、悔し気な視線をラシュプスに向けてきた。


「このエルフたちを殺されたくなければ今すぐこの炎の壁を消せ!言っておくが私たちが帰らなければ私の仲間たちが別の場所で別のエルフたちを殺す!私たちを殺しても無駄だぞ!」

「……一度しか言わないぞ?そのエルフたちを解放しろ。そうすればお前らも街の人間も助けてやる」

「命令しているのはこっちだ!さっさとこの壁を消せ!」


 こう言って兵士たちの代表らしき男が人質となっているエルフの首に軽く剣を走らせたのを見てラシュプスは炎の壁を操作した。


「何をしている?さっさと壁を、」


 自分がエルフに傷をつけた後も炎の壁を消そうとしないラシュプスに業を煮やした兵士は見せしめにエルフを一人殺しても構わないぐらいの気持ちで再度ラシュプスを脅そうとした。

 しかし先程まで精々外壁を焦がす程度の距離にあった炎の壁が直接外壁を包み込んだのを見て思わず言葉を飲み込み、そんな兵士にラシュプスはつまらなそうな視線を向けた。


「多分後二時間ぐらいでこの壁が街を全部焼くと思うからエルフたち解放するなりこの街焼け野原にするなり好きにしてくれ。一つ言っておくけどそれ以上そのエルフたちに危害加えたら壁の速度速めるからな?」


 ラシュプスがこう言うと炎の壁は先程までとは比べ物にならない程の速さで内側に進み、外周部にある家屋を燃やし始めた。


「おい、止めろ!本当に殺すぞ!」


 こう叫んだ兵士にラシュプスは視線すら向けず、捕縛されていたジオミスタを近くに呼び寄せた。

 自分たちが捕えていた魔王の部下が突然解放されたことに兵士たちは浮き足立ち、そんな兵士たちの反応を見たラシュプスは上空に飛び上がると直径十メートル程の火球を三つ創り出してその全てを街目掛けて撃ち出した。

 ラシュプスが事も無げに創り出した火球の大きさと自分たちを全く交渉相手と見なしていないラシュプスの態度を前に兵士たちは虚勢すら張れなくなった。


「身の程わきまえてない馬鹿共につき合わされて死ぬ市民たちは気の毒だな。エルフ助ければこのまま帰るって言ってるのに」


 こう言ってラシュプスがこれ見よがしに両手を合わせると炎の壁の移動速度はさらに速まり、多くの家屋を焼きながら進んで来た炎の壁が自分たちまで迫ったところで兵士たちはエルフを解放した。

 その後エルフたちはラシュプスのもとに避難し、炎の壁を操作してエルフたちを迎え入れたラシュプスは近くにいた兵士たちの内、代表らしき兵士一人を火球で焼き払った。


「命令してるのがどっちか分かったか?それとも後これを百発ぐらい撃ち込まないと分からねぇのか?」


 こう言ってラシュプスが巨大な火球を創り出すと残された兵士たちは慌てて逃げ出し、エルフたちをジオミスタに任せるとラシュプスはかなり適当になり始めていた炎の壁の操作に意識を戻した。

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