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炎の魔王の異世界進軍  作者: 紫木翼
1章
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ファーストコンタクト

 少女と別れた直後、ラシュプスは森の中にいた。

 周囲を見渡して自分のいる場所が完全に木々に囲まれた場所であることを確認したラシュプスはとりあえず新しい能力とやらを確認することにした。


 確かに自分の中にこれまで感じなかった何かを感じていたラシュプスはとりあえず近くの木に向けて手を伸ばして能力を発動しようとした。

 しかしラシュプスの手から出たのはただの火球で、その後何度試してもラシュプスはただの火球を出す事しかできなかった。


「ん?何だ?何も変わってないじゃねぇか」


 あれだけもったいぶられて何の変化も起きていなかったことにラシュプスはいらだちを隠せなかったが、とりあえず以前と同じ様に火属性の魔法は使えるのだからよしとしようと自分に言い聞かせた。

 そしてとりあえずここから移動しようと考えたラシュプスはため息をつきながら自分の腕に視線を向けた。


 この世界に来て最初に火球を創った時点で気づいていたが、今のラシュプスの見た目は元のものと比べて大きく変わっていた。

 まず手は形こそそこまで変わっていなかったが指の形が鋭利なものになっており、その上硬くなっていた。


 ラシュプスが近くの木で試したところ貫通こそしなかったものの木の表面を大きく削ることができたので、実際に試してみないと分からないがおそらくこの指なら人体程度ならたやすく貫けるだろう。

 その他にも頭部に違和感を覚えて手を伸ばせば頭部の左右に角が生えており、身長が伸びたのか微妙に目線も高くなっていた。


 さらにラシュプスの眼は紅くなっており、今のラシュプスは遠目ならまだしも近づけばはっきりと人間ではないと分かる姿をしていた。

 特に不自由があるというわけでもなかったがいきなり自分の体が変化したことを嘆きながらラシュプスはこれといった目的地も無いまま足を進めた。

 

 ラシュプスがいた森から出てすぐの街道沿いに二百人程の男たちの姿があった。

 彼らは全員が統一された装備を身に着けており、彼らのいる街道から奥に進んだ森の奥にはエルフと呼ばれる種族の死体十数体が転がっていた。


 簡素な衣服に身を包んだ彼らの死体はいずれも傷だらけでその半数以上には元の顔が分からなくなる程の打撲の痕があった。

 彼らの死体にある傷のほとんどが彼らの死後につけられたもので、この森に住むエルフを捕えに来た人間の兵士たちの試し切りによるものだった。


 兵士たちは最初から捕えたエルフの内男は皆殺しにして女、子どもだけを街に連れて行くつもりだったので男のエルフは容赦無く殺し、女、子どもを捕える際もそこまで気を遣うことなく危害を加えた。

 そして予定通りエルフ数十人を捕えた兵士たちは街道沿いで彼女たちを檻に閉じ込めるなどの作業を行っていた。


「あ、その三人は俺たち用だから入れなくていい」

「俺、このガキもらっていいか?」

「お前、……ちゃんと報告書は適当に誤魔化しとけよ?」


 今回捕えたエルフたちは彼らの所属するブファナ王国の軍による正式な任務の戦利品だったが、街に着く前に逃がさず殺せば数人自分たちの物にしても兵士たちがおとがめを受けることはなかった。

 実際今回森を襲撃した部隊の指揮官二人もこうした部下たちの会話を聞いても特にとがめず、今回の任務の苦労を口にしながら部下たちの仕事が終わるのを待っていた。


「魔獣が思ったより少なくて困ったな。今月中に後一回ぐらいは来ないといけないかも」

「めんどくせぇな。ギオ様も自分で来てくれればいいのに」


 今回彼らはエルフの他に魔獣と呼ばれる巨大な獣数体を捕えており、これは彼らの直属の上司の命令によるものだった。

 エルフと違い上司に献上するこれらの魔獣には怪我を負わせるわけにもいかなかったので兵士たちは魔獣たちの捕獲にはかなり苦労させられて数人だが死者も出ていた。


 こうした事情をふまえての彼らのぐちだったがそれでも被害は任務の内容を考えたら許容範囲内で、指揮官たち二人も今回の任務はすでに終わったと考えて街に帰ってからの予定を考えていた。

 そんな彼らの耳にまだ森に残っていた兵士の悲鳴が届き、指揮官二人、アークとディカはすぐに気を引き締めて森に視線を向けた。


 アークとディカだけでなく周囲の兵士たちも緊張した表情で森に視線を向ける中、森の奥から姿を現したのは彼らが見たこともない魔族で、この魔族、ラシュプスはようやくまとまった数の人間が見つかったことに安堵しながら彼らに話しかけた。


「先に言っておくけど俺がここに来るまでに殺した兵士たちはあっちから攻撃してきたんだぜ?何度言っても落ち着かなかったから殺しただけで俺にあんたらと戦うつもりは無い。とりあえず話を聞いてくれないか?」


 この国に住むいずれの魔族でもない未知の魔族の登場にアークとディカは驚いたが、魔族、それも大人の男など生かしておいても敵になるだけだ。

 こう考えた二人の内、最初にラシュプスに攻撃を仕掛けたのはアークだった。


 これまで会った兵士同様、問答無用で攻撃を仕掛けてきたアークの繰り出す蹴りを回避しながらラシュプスはこれ見よがしにため息をついた。

 ここに来るまでにラシュプスは兵士を四人殺しており、彼らはいずれもラシュプスの姿を見てまともに会話をしようとはしなかった。


 それでもラシュプスは彼らがこの国の兵士でこの森にエルフと呼ばれる種族をさらいに来たことぐらいは把握していた。

 今後どのように振る舞うにしろ一人でできることには限界があるのでラシュプスはどこかの国なり団体になり所属するつもりだった。


 このためラシュプスはとりあえずここにいる兵士とは友好的に接触するつもりだったのだが、これまでの兵士たちの反応を見る限り当初の目論見はうまくいきそうにないと感じていた。

 人間と他の種族のどちらと手を組むかはラシュプスの自由と言っておきながら自分の体をこんな姿に変えた少女にラシュプスは怒りを覚えたが、居場所も分からない相手のことをいつまでも考えていてもしかたがない。


 こう考えたラシュプスはとりあえずこの場の兵士をある程度殺すことにした。

 迫害されている少数民族に所属する気などラシュプスには無かったが、おそらくこの場でこれ以上下手に出ても目の前の兵士たちは自分と話し合おうとはしないだろうとラシュプスは考えていた。


 このためラシュプスはこの場の兵士たちを半数以上殺すことで自分の力を示して彼らの上司を交渉の席に着けるつもりだった。

 兵士の数が予想以上に多かったことだけは痛かったが、後ろが森なのでいざとなったら逃げるぐらいは何とかなるだろうと考えてラシュプスは兵士たちとの戦いを始めた。


 ラシュプスが腰に帯びていた剣を抜いてアークに斬りかかるとアークはそれを蹴りで受け止め、剣での攻撃を足で受け止めようとしたアークの動きにラシュプスは驚いたもののそれならそれで脚を斬り裂いてやるだけだと考えながら剣を振り抜こうとした。


 しかしラシュプスの予想に反してラシュプスの剣はアークの足を斬り裂くことはできず、靴底に鉄でも仕込んでいるのかと予想したラシュプスに横からディカが襲い掛かってきた。

 アークが後ろに退がる中ラシュプスに襲い掛かってきたディカは丸腰で、自分に掴みかかろうとしているディカの突進をラシュプスは腕で防ごうとした。


 しかし突然ディカの両腕が金属に変化したのを見てラシュプスは慌てて自分とディカの間に剣を割り込ませ、自分の剣と目の前の敵の手がぶつかった瞬間金属音が響いたのを聞いて驚いた。

 ラシュプスが元いた世界では人間の半数近くが魔法を使え、ラシュプスも火を創り出すことができた。


 このためこの世界の人間が何らかの異能を持っていてもラシュプスはそれ程驚かず、ディカに掴まれた剣をすぐに手放すとディカ目掛けて直径一メートル程の火球を撃ち出した。

 ラシュプスが突然撃ち出した火球をディカはよけ切れず、とっさに体を横に動かしたものの左肩から左の肘までに火傷を負ってしまった。


 この痛みによりディカは動きを止めた上にラシュプスから奪った剣を落としてしまい、そんなディカに追撃を仕掛けようとしたラシュプスに後ろからアークが襲い掛かった。

 このアークの攻撃はラシュプスを倒すというよりディカを助けるためのもので、実際わざとらしい叫び声と共にアークが繰り出した蹴りをラシュプスが右腕で防いでいる間にディカは左肩を押さえながら部下の兵士たちの後ろに隠れてしまった。


「どうして魔族が『奇跡』を使える?貴様、一体何者だ?」

「そりゃこっちのセリフだぜ。剣を足で防いだり腕を刃物に変えたり一体どうなってんだ?『奇跡』とやらがその答えらしいがそのあたりを詳しく話して、」


 もらおうかと言おうとしたラシュプスに対してアークはこれ以上会話をするつもりは無いらしく再び蹴りを繰り出した。

 幸い情報源は周りにいくらでもいたのでとりあえず目の前の敵は焼き殺そうと考えたラシュプスだったが、ラシュプスがアーク目掛けて撃ち出した火球は空中で動きを止めるとそのままラシュプスへと跳ね返ってきた。


「うおぉっ!」


 予想だにしていなかった反撃に驚きながらもラシュプスは火球をよけ、その後アークに視線を向けた。

 目の前の男が右脚を上げた姿勢を取っていたことから考えるとおそらく先程の火球の反射は目の前の男が火球を蹴り返してきたのだろうが、もしそうなら反射できない数の火球を撃ち出してやるだけだ。


 こう考えたラシュプスは追撃を仕掛けようとしていたアーク目掛けて火球を三発立て続けに撃ち出し、先程同様アークは一発目の火球を蹴り返した。

 その後蹴り返した火球が二発目の火球に当たり相殺されたがそこが限界だった。

 次の蹴りを繰り出す前に三発目の火球がアークの目前に迫り、何とか体を倒して即死だけは免れたアークだったがその直後に両脚に火球をまともに受けてしまった。


「がっ、……ぐっ」


 両脚を焼かれる痛みに耐えて声を押し殺すアークの近くに見下ろす形でラシュプスは立ち、地面に横たわるアークの様子を観察していた。


「脚に何か仕込んでたわけじゃないのか。どうやって俺の火蹴飛ばしたのか教えるなら楽にしてやるぞ?」

「魔族に話すことなど何も無い。拷問でも何でも好きにしろ」

「おーおー、かっこいいねぇ。俺あんま拷問とか好きじゃねぇし質問は他の奴にするさ。とりあえず死んどけ」


 こう言うとラシュプスはとどめの火球をアークに撃ち出し、この火球を受けて全身が炎に包まれたアークの死体を見て楽しそうに笑いながらラシュプスは周りの兵士たち目掛けて火球数発を撃ち出した。

 この攻撃で二十人以上が焼死してそれを見た兵士たちは一目散に逃げ出そうとしたがそんな兵士たちをディカが一喝した。


「どこに逃げるつもりだ!ここで逃げてもこの魔族は街まで追って来るぞ!今なら殺せる!弓を構えろ!」


 ディカのこの掛け声で統制を失っていた兵士たちは攻撃の準備を始め、先程から魔法を使う度に覚えていたある違和感の正体に気づいたラシュプス目掛けて一斉に兵士たちは矢を放った。

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