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三話 王子の闇(1)


 映像をよく見ると、背景が煌びやかなパーティ会場で、サレンはあの時のドレスを着ていた。

 そう……婚約破棄された時の。


「君の悪行の数々を聞いて、婚約者として私の信頼を裏切られた気分だよ」

「ちがっ……」

「そうです!」

「私達がどれだけ耐えてきたことか……」


 映像は、移り変わり壇上で見下ろす王子が大勢の令嬢と共にサレンを責め立てていた。


「あはははっ、まじで最高ですねガラナ様」

「そうだろう、この俺の名演技も際立っていて実に素晴らしい、アーサーもそう思うだろう?」

「……そうですね」


 3人の男の内、1人は、赤髪の軽薄そうな男でゲラゲラと笑っていた。

 もう1人は、金髪の偉そうな男で映像を見ながら、馬鹿にするように鼻で笑っていた。

 最後の1人は、黒髪で所々に傷を負っている仏頂面の男だった。 


 俺は、赤髪が放った言葉に一瞬思考が止まった。

 ガラナ? まさか……それって。

 その言葉を聞いてアンナの言っていた事を思い出した。


「お嬢様とガラナ王子を近づけないこと」


 俺は、急いでサレンにこの状況を見せないようにしようと、振り向いた。

 しかし、もう遅かった。

 サレンは、俺のすぐ後ろにいて、全部見てしまった後だったからだ。


「……え」


 俺は、今にも叫び出しそうなサレンを抱きしめて、体で彼女の口と目を塞いだ。

 サレンの表情からして、そんなに長く堪えられないだろうな……仕方ねぇ。

 そのまま体を持ち上げて、この場所から遠ざかろうとしたその時。


「あいつは、思ってもないだろうな、この婚約破棄が俺が考えたお遊びだって」

「あはははっ! まじでざま〜みろってやつですよね!」


 その一言を聞いた瞬間、バキッと何かが割れたような音がした。

 俺は、サレンを抱えたまま急いで屋上から飛び降りた。 

 落ちながら周りに着地できる場所がないか探す。

 すると、校舎の裏手が森となっていたのが見えた。

 あそこなら、派手に着地しても騒ぎにはならないな。

 校舎の壁を駆け下りながらググッと蹴り上げ、その森へ向けて飛んだ。

 なんとか、ぎりぎり森の中に勢いよく着地に成功した。

 

「あああああああああああああああ!!!」


 着地した瞬間、堰き止めていた物が外れたかのように、サレンが絶叫した。

 サレンの顔を見ると、被った仮面がボロボロに割れており、目から大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 俺は、そんな彼女を見て、ただただ彼女の絶叫があいつらに聞こえないように抱きしめることしかできなかった。


 しばらくして、サレンは落ち着いたものの、その顔は、あの時よりも酷い有様だった。

 そんな状態にも関わらず、


「授業を受けるわ」


 なんて、ガラッガラの枯れた声で言うもんだ。


「やめとけ! そんな状態で受けれる訳ねぇだろ!」

「……た、大丈夫、大丈夫だから」


 サレンは、ブルブルと体を震わせて、なんとか立ち上がるが、すぐにつまづいて転んでしまう。


「はぁ……もういい」


 俺は、サレンをひょいと持ち上げた。


「な、何するの!?」

「こうなったら、力ずくでも帰らせる」

「え、ちょ、ちょっと!」

「しっかり捕まっとけよ」


 サレンを右肩に抱いた状態で、俺は学園を走り出した。



 俺達は、学園から出て大体5分くらいでグレイクリア家の本邸に帰ってきた。

 騒ぎになるのを気にして、2階のベランダからアンナに呼びかけて、窓を開けてもらいそこから入った。

 事情を話して、アンナは当主にサレンが体調不良で授業を受けようとしたので、俺が力ずくで帰らせたという旨で伝えてもらった。

 俺は、部屋にサレンを連れて行き、ベットに寝かせた。

 すると、サレンは布団を被ってしまった。


「ごめんなさい……1人にして……」

「……わかりました」


 俺は、彼女の部屋を出て行った。

 その後、俺は自分の部屋に戻ってソファーに腰をかけた。


「はぁ〜やっちまった」

「一体、何やらかしたの」

「え?」


 いつの間にかアンナが部屋にいた。

 ジトっとした目で俺を睨む。


「とりあえず、旦那様と学園には連絡したわ」

「おう、ありがとう」

「それで、何をやらかしたの! あんなお嬢様見た事ないわ!」


 声を荒げるアンナ。

 俺は、落ち着かせてから屋上の出来事を話した。


「……それは、タイミングが悪いわね」

「気づいた時には、もうサレンは見ちまったんだ……もう少し早く気づければ」

「はぁ……」


 アンナは、深くため息をついた。

 俺は、その時思った。

 何故、アンナはあの忠告をしたのか?

 もしかして、知っていたのか?


「アンナ、あの時の忠告……サレンの婚約破棄の事実を知ってたのか?」

「いえ、知らないわ」

「じゃあ、なんであんな事言ったんだよ?」

「……」


 アンナは、苦い顔をしながら顔を俯いた。

 

「……私が」

「私が……あのクソ王子の元奴隷だからよ」


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