王立魔導学園(2)
揺られながら10分ほどすると、緩やかに馬車の動きが止まった。
セレンは、慌てた様子で外した仮面を被る。
すると、コンコンコンと外からノックの音が聞こえた。
「お嬢様、学園にご到着しました」
「分かりました、今行きます」
使用人の声に返事するサレン。
その時にはもう、しっかりと仮面を被ったサレンは、またキリッとした様子になっていた。
「どうしました? 行きますよ?」
「あ、いや、貴族って怖いなぁと思っただけだよ」
「フフッ、私で怖いなんて言ってたら、この先持ちませんよ?」
「……まじか」
そんな話をしながら、馬車の扉を開けて待つ俺。
サレンは、軽く会釈して馬車の外で出た。
俺も続いて外に出ると、そこには一面埋め尽くすほどの大豪邸が広がっていた。
今いる所は、馬車を乗り降りする駐車場で、辺りに何台か馬車が停まっていた。
「すげぇ……まじでここ学園なんか?」
「ダリス様、ここでは言葉にお気をつけて」
「ああ、すんませ……すみません」
使用人のおっちゃんに注意されてしまった。
気をつけないと……。
「セバス、運転ご苦労様でした」
「いえいえ、また授業が終わり次第参ります」
「ダリス様、この先の護衛をよろしくお願いします」
「はい、分かりました」
「それでは、いってらっしゃいませ」
俺達は、そこでセバスさんと別れて学園に入って行った。
駐車場からしばらく歩いて、大通りに入ると、大勢の学生達が校舎へ向かっている。
何やら周りの視線を集めているような気がする。
とりあえず、辺りを警戒しておこう。
「きゃああ!!」
後ろで誰かの叫び声が聞こえた。
振り向くと、とある女子生徒がつまづいて、開けかけの水筒を落としてしまう瞬間だった。
俺は、咄嗟にサレンを庇い、思いっきり水筒の中身が背中にかかった。
「ああ、ごめんなさい!」
そのつまづいた女子生徒は、気弱そうな感じで、三つ編みメガネのいかにも絵に描いたような優等生だった。
「セレン様、大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫」
「良かった、君も大丈夫ですか?」
「え!? いや、その……だ、大丈夫です」
セレンに水はついてなかったようで安心した。
その後俺は、つまづいた三つ編みちゃんにフォローを入れた。
よしよし、いい感じで護衛出来てるよ俺。
「あら〜すみませんねぇ」
俺が、自画自賛していると三つ編みちゃんの後ろから、いかにも面倒臭そうな金髪縦ロールのザ・貴族と言わんばかりの令嬢が現れた。
言葉では、謝っているが顔が明らかに薄ら笑っていて胡散臭い。
「この子、ドジばかりでね〜ほら貴方も謝りなさい」
「あ、はい! すみません!」
縦ロールが三つ編みちゃんの頭を持っていた扇子で引っ叩いた。
三つ編みは、可哀想なくらいペコペコと頭を下げていた。
「……カルナさん、以後気を付けてください」
「ふふっ、それは勿論、強く言い聞かせておきます」
縦ロールとサレンが、大通りでバチバチに睨み合う。
いやはや、サレンが言ってた通り、貴族ってめっちゃ怖わぁ…….。
「それでは、また教室で」
「すみません! すみません!」
「行きますよ」
「は、はい!」
縦ロールは、三つ編みちゃんを連れて去っていった。
「まるで、嵐のようだったな」
「……大丈夫ですか?」
サレンは、心配してポケットからハンカチを取り出して、濡れた制服を拭いてくれた。
「ああ、あんがと、いい護衛だったろ?」
「フフッ、敬語忘れてますよ」
「あっ、失礼しました!」
さっきまでの顔を強張りが消えたサレン。
けれども、どこか不安を隠しきれてないそんな表情をしていた。