仮面の悪役令嬢(5)
「それじゃあ、はじめましょうか」
サレンがそう言って、パチンと手を叩く。
すると、サレンの後ろからぞろぞろとメイド達が現れて、1人ずつ大量の本を客室の大きなテーブルに乗せていく。
「こ、これは……?」
「今日中に覚えてもらう教材です」
「これを全部? いやいや、人間の出来ることじゃ無いって」
「それに、護衛って俺魔法とか使えないよ? 流石に無理があるんじゃ……」
「それは、ダンゼル男爵からお聴きしています、なんでもそれが原因で学園に入学出来なかったと」
「まぁ、そうだけど……」
「だけど貴方は、教官を倒したとも聞きました」
「うぐっ、そ、それは……」
あの教官、俺が魔法使えないことを散々煽ってきたから頭きてぶん殴ったんだよなぁ……。
「あれは、たまたま運が良かっただけだよ」
「では、私に勝ったのも運が良かっただけですか?」
アンナが不服そうに俺を睨む。
すると、サレンがこちらに近づいて俺の手を優しく握る。
「アンナも貴方の実力を認めています、ダンゼル男爵にも許可はいただきましたので、諦めてください」
とんでもない事を言いながらニコッと笑うサレン。
「……理不尽だよ」
俺は、観念して彼女の護衛になった。
〜翌日〜
「ほら、シャキッとして! これからずっとお嬢様の隣に居るんだから」
「いやいや、徹夜で勉強させといてシャキッとなんて無理だよ」
俺は、客室で学園の制服に着替えていた。
今は、椅子に座って髪をアンナに整えてもらっている。
昨日、戦ったり勉強教えてもらったりしたせいか少しアンナと打ち解けて自然に喋れるようになった。
「つーか、ここまでしなくても良いんだけど」
「何言ってんの、あんたが良くても周りが気にすんのよこういうのは、貴族なんだから少しは考えな」
「それに、護衛のあんたが不格好じゃ、グレイクリア家のイメージも悪くなるだろ」
「うーん、そういうもんかぁ……やっぱ貴族ってめんどくさい」
「貴族なんて、そんなもんさ」
「それメイドお前が言うんだ」
すると、俺の両肩をバシッとアンナが叩いた。
「はい、出来たよ! 多少平民臭さを隠せたわ」
「へいへい、あんがと」
「それじゃあ、お嬢様を迎えに行くよ」
「はーい」
俺は、立ち上がりアンナについて行く。
すると、アンナはいきなりピタッと止まり、振り向いて俺の方を向いた。
「ど、どうしたんだよ?」
「……一応、忠告しておくよ」
アンナは、先程までの気さくな態度とは一変して、真剣な顔をしていた。
「絶対、これだけは守って」
「なんだよ?」
「お嬢様とガラナ王子を近づけないこと」
「なんだ、そんな事か、そりゃ一昨日の件があるからなわかってるよ」
「いえ、それだけじゃないわ、たとえお嬢様がガラナ王子と話したいと言っても絶対近づけないで!」
アンナは、真剣に俺の目を真っ直ぐ見てそう言った。
その表情は、どこか悲しさを感じるさせられるような不思議な感じがした。
「……お願いね」
「わ、分かったよ」