仮面の悪役令嬢(2)
「なっ……なんでここがバレて……誰も……わたひしか知らないはずっ……あっあっああああああ!!」
サレンは、見たこともないような慌てふためいた顔でその小さい部屋をのたうち回る。
混乱しているのか、呂律も回っていない。
「だめだ! だめぇ! はやっ早く仮面付けなきゃ!!」
ブルブルと震えた手で、棚にある仮面を取ろうとする彼女だったが、震えすぎてその仮面を床に落とした。
そして、それを拾おうと近づくも足が痺れていたのか、上手く立てずにすっ転んでしまう。
見事に顔面から床に叩きつけられた彼女は、今にも泣き出しそうな顔になっていた。
「うっ……ううっ……」
「うえぇぇぇぇん!! もうやだぁ! おうちかえるぅ!!」
俺は、その一連の流れに驚き過ぎて固まってしまっていた。
だってこの子が、あのクールで毒舌な悪役令嬢なんだぜ?
さっきまでとは、別人どころの話じゃねぇだろう。
まるで赤ん坊みたいだ。
「なんだ? さっきの声は」
「確か裏庭から聞こえたました!」
「よし、行くぞ」
「はい!」
彼女の叫び声がグレイクリア家の使用人達に聞こえたようだ。
ま、まずい事になった。
こんな状況誰かに見られたら、貴族のお偉い人に完全に殺されかねない。
周りから慌ただしい足音がどんどん大きくなってきた。
やべぇ、どうしよう?
落ち着け考えろ。
ーーーーーー
「お嬢様! いらっしゃいますか!」
使用人達がぞろぞろと裏庭に駆けつけてきた。
しかし、そこには誰も居なかった。
「あれ? 誰も居ませんね」
「おかしいな、確かに聞こえたはずなんだが……」
「とりあえず、探してみましょう」
「そうだな、みんなここは私達で探すから、他を当たってくれるか」
「分かりました」
「了解です」
使用人達の内5人ほど残り裏庭の捜索を開始した。
そして数時間後、隈なく探してもなにも見つからなかった。
「やっぱり居ないですね」
「……気のせいだったか?」
「まぁ、こんなに探しても見つからないなら考えても仕方ないか、違う場所を探すか」
「そうですね」
使用人の5人は、裏庭から去っていった。
すると、なんの変哲もない壁が、まるで扉のように微かに開いた。
「……ふぅ〜なんとかやり過ごせたな」
「むぐっ! むぐぅぅ!!」
「お、おう、ごめんな、今離すから」
ダリスは、手で押さえてたサレンの口から手を離した。
あの時、咄嗟にダリスは、サレンの居た部屋に入り、隠れたのだ。
サレンは、顔を真っ赤にさせてこちらを睨みつけている。
「ぐぅぅぅ、はぁ……今日は厄日かな……なんか適当に濡れ衣着せられて婚約破棄されちゃうし、泣いている所を見られるし、拘束されるし……」
「いや……まぁ、なんかごめん……それじゃ!」
ダリスは、その空気に耐えきれず一目散にその場を出て行こうとした。
しかし、ダリスの肩をサレンの手でガシッと掴まれる。
「こんな泣き崩れてる女の子見て逃げるんだ?」
「……いや、あの……」
「そうだよね、こんな面倒くさい女なんて、どうでもいいよね」
「……」
「ごめんね、こんな婚約破棄された価値の無い私なんて、構う必要ないもんね……」
徐々にに肩を掴んだサレンの手から力が抜けていく。
そして、するんと肩から手が落ちた。
「……うん、止めてごめんなさい、行っていいよ」
「……いや、重いよ! 出てけるか!」
ダリスが、重い空気に耐えきれずに勢いよくツッコんでしまった。
サレンは、突然の大声に体がビクッとなる。
「はぁ〜仕方ねぇな、これも何かの縁だ、話ぐらいなら聞くぞ」
「……いいの?」
「おう、俺は誰にも言ったりしないから、溜まってること思う存分吐けや」
「う……うん」
サレンは、ぐしゃぐしゃになった顔で微笑みを浮かべた。