第五話 緑の羽根
「──お、お出ましかな」
川に沿って少し開けた場所を探索していると、討伐対象のグリュンバードが三体現れた。
空を飛んでいたり、地面を何やらつついていたりと、様々だ。
「なら、僕が引きつける。ヴァルハイトはなるべく傷付けないよう仕留めてくれ」
「りょーーかーーい」
「その前に」
くるりとヴァルハイトの方を振り返り、手をかざした。
「お? なになに」
わくわくした瞳に見られていると非常にやり辛い。
「──僕の風魔法を付与した。体の動きに合わせて風が動く。追い風になったように、動きが軽く感じるだろう」
「おおぉ、付与魔法ってそーいう使い方もあるのか!」
魔法の研究は僕の趣味であり、旅の目的でもある。
素直に感心されると正直、嬉しくもある。
「支援に長けた魔術師ならこういう使い方も、良く知っているはずだ。まぁ、僕自身にも掛けるから、ヴァルハイトの分は長く持たないが」
「いや~~、お兄さん感心したよ! サンキュー!」
「……っ。行くぞ」
グリュンバードの視界へと入る。
途端、ばらけていた三体が合流し、こちらを警戒するように睨みつけていた。
ヴァルハイトが戦いやすいよう、なるべく敵が上空に行かない様な動きをした方がいい。
相手に魔法を使わせるとそれこそ思う壺だ。
「こっちだ!」
注目を集めるよう、わざと当たらない様に弱めの風魔法を放ち。
それに気を取られた一体に向かって、腰に携えた短剣を抜き切りかかった。
もちろん簡単に上空へと逃げ、避けられる。
うまく敵意を集められたようで、ギャアギャア騒ぎながらそれぞれ僕に襲いかかろうとしている。
上空へと避けた一体が、急降下をして僕目掛け突っ込んできた。
「当たらん」
風魔法で動きを軽やかにしている僕には、攻撃は当たらなかった。
と、同時に別の一体から風の魔力を感じた。
「させん!」
避けた先に落ちていた石を手に取り、すぐ様投げつけた。
ぎゃぁっと鳴きながらそれを避け、魔法は不発に終わる。
もう一体は────。
「おおお、やっぱ体が軽く感じるな!」
「な」
高度的には一番上空にいたはずのもう一体は、早々にヴァルハイトに狩られていた。
首元を一閃。止めを刺されている。
「なんか、いつもより跳べたわ!」
少しは鍛えているとはいえ……。
もう一体の高さに合わせて跳躍し、その状態で綺麗に首元を真っ二つにするなど僕には出来ない芸当だ。
仮に出来たとして、グリュンバードの羽根に血がかかってしまうのがオチだ。
「何で、そんなに綺麗な状態なんだ……」
「やっぱオレだからかなぁ!」
わけも分からん理由で、首元から血が垂れ流れているようには見えなかった。
素材も無事でそれは良いことではあるのだが。
「あと二体」
とりあえずは、目の前の敵だ。
「おうおう」
◇
あれから同じ調子で、他のグリュンバードも見付け、目標数討伐した。
今回は僕が前衛になったため、ヴァルハイトの動きを直接見る機会は少なかった。
だが、それにしても手際が良い。
剣士を褒めるのはどこか抵抗があるが、作戦通りに事が運び、全てが上手く回っていた。
「はぁ~~。一丁上がり、ってやつだな!」
「ああ」
元のパーティーでは支援の魔術師が別に居たため、主に魔法で攻撃することに集中していた。
指示もリーダーに従っていた。それゆえ、上手くいかない事もままあったが。
……それにしたって、上手く回っている。
ヴァルハイトの、そもそもの身体能力が高いこともあるのだが。
「……で? 教えてもらおうか」
「んーー?」
「とぼけるな。いくら剣の達人とはいえ、切り口があんなに綺麗なわけないだろ」
いや、実際に達人を見たことがないのだから確証はないのだが。
恐らくヴァルハイトは──。
「またまた、ルカちゃんたら! 分かってるんでしょ? オレが火の付与魔法使ってたって」
そうなのだ。彼は魔法の扱いも長けている魔法剣士なのだ。
そして彼は器用に、斬りかかる際だけ火属性の魔力を付与し、一瞬で焼いて血が流れ出ないよう防いでいたのだ。
パーティーで剣士と魔術師が組む際。
基本的に剣士には身体能力を生かした戦術をとってもらい、魔法に関しては魔術師が一手に引き受ける。
それが定石だ。
だが、それだと今回のように属性の相性がわるい敵に当たると少し面倒なことになる。
おまけに素材が目的で傷つけないような依頼なら尚更だ。
なんなんだ、こいつは!
パーティーの経験が特別豊富なわけではないが、少なくとも今まで自分が見てきた中でも優れた剣士だ。
元のメンバーと違い、依頼に対する準備も抜かりはないし、組んだ相手の属性もきちんと把握した上で作戦を提案してきた。
そして、実戦でそれ以上の成果を出している。
剣士と、相性が良いだなんて認めたくもない。
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