第六十八話 風の噂
「……なぜか疲れが増したな」
「お疲れサマー」
結局のところ、一度ギルドに顔を出したが調査が終わっていなかったため、一日延泊し。
冒険者として再度発って、四日目になった。
休暇も兼ねてこいつに王都を見せようと色々見て回ったが、……あれらは休めたと言えるのか?
「──それにしても、お前のギルドカードの名は本名ではないのだな」
一度ギルドに行った際に、確認のためギルドカードを提示した訳だが。
やはりというか、『ヴァルハイト・ルース』での登録。
魔力は偽れないというのは、意外と信憑性の低い情報なのだろうか。
「虚偽じゃないし~。ちょっと音の変化つけただけだし~? 王位も継ぐ気ないし~」
「……ふむ。まるで、魔力に意思があるかのようだな」
まるで……、ヴァルハイトの意図を汲んだかのような。
それとも単に、こいつが特別というだけか? まさかな。
仮にそうだとして、こいつは一応。……一応、王族だ。
それも身に危険が及ぶほどの、重要人物。
もう少し、元の名を連想させないような偽名の方がいいのではないか?
「魔力の意思、か。ふむ……」
「世の中フシギなことだらけだね~♪」
「お前が言うな……」
のびのびと石畳の上を闊歩するヴァルハイトは、さきほど露店で入手した林檎を頬張っている。
「ん? ルカちゃんも、食べるー?」
「い、いや。僕はいい」
仮にも王族が林檎を歩きながら丸かじりするのを、僕は止めるべきなのか……?
わ、分からん。
しかし冒険者としてであれば、上品すぎるというのも目立ってしまうか。
こいつと共にいると感覚が狂ってしまう。
僕自身、貴族とも、そうでない者とも言えない……狭間の感覚だからな。
「あ。まーた難しいコト考えてるでしょ~?」
「まったく難しいことなど考えていないぞ」
「ふーん?」
嘘は言っていない。
「……あれ」
「どうした?」
「あれって、ライだよね?」
「……そのようだな」
ギルドへ向かう道のりであれば、必ず通る円形の広場。
レヴィ・ファーラントを模した像の元には、今日も優雅にリュートを奏でるエルフの姿が。
「――おや」
「また、会ったな」
「こんにちはー!」
やはり端麗で、逆らえない雰囲気を持つライことライゼンデの前に立つとどこか身が引き締まる。
「どうも。お二方はお散歩ですかい?」
「いや、ギルドに行こうと思ってな」
「そうそう。ランクアップする予定~」
「それはそれは、素晴らしいですねぇ」
「ライは、まだ王都に居たんだな」
「ええ。あたしは風の赴くまま、気の向くまま。特に、行き先は決めていませんから」
「おー! すごい!」
(……驚くところか?)
ヴァルハイトの感性は置いておくとして、ライの演奏も聴きたいところではあるものの。
「――そういえば、お二方はエクセリオンという者をご存知ですかぃ?」
「あぁ。先日丁度、会う機会があった。武勇に優れる者たちだと聞くが」
「やっぱエルフの人って、人間の美しさとはまたチガウというか!」
ここでエクセリオンの話が出るとは思わなかったが、やはりエルフの者であれば必然の話題なのだろう。
ライは少し目を見開いて、ほう、と唸った。
「おやおや、さすがですねぇ。……実は、風のうわさで耳にしたのですが、街の武具屋にもエクセリオンの方がいらしたそうですよ」
「……別の者か?」
「武具屋……なら、エリファスじゃなさそうだね?」
「なるほど。お会いしたのはナヴ家の方でしたか」
やはり同族からエリファスは良く知られた者のようだ。
「彼の銀剣は火のエクセリオンに打ってもらっていますから、別の方だと思いますがねぇ」
「詳しいのだな」
「それはもちろん」
さすがは英雄視される者だな、と納得していると妙に静かなヴァルハイトが気になった。
(こういう話には、一番食いつきそうなものだが……)
戦いを楽しむ様子が見てとれる彼は、剣といった武具にも興味があると思う。
エリファスの銀の双剣の話を聞いた瞬間、何やら考え込んでいる。
「どうした?」
「……ん?」
「なにか、気になることでもありましたかねぇ」
「い、いやっ。どんな人カナーって!」
「?」
興味がありすぎて、考え込んだということか。珍しい。
「ら、ライは、その人にあいさつしなくていいのー?」
「いえいえ、あたしなんぞ。ご挨拶するほどの者ではありませんからねぇ。
ただのしがない、旅のエルフですから」
「ふーん?」
エクセリオン……か。
ライも含め、話を聞きたいところではあるが。
(特にライは、……エリファスとはどことなく違う。そんな気がするな)
まだ、名乗りをあげるほどの距離を測れていない。とでも言おうか。
旅の者というし、そもそもエルフたちと同じ知識を有しているとも限らないからな。
様子を見る、……が正解だろう。
「では、あたしはそろそろ」
「あ、今度は唄って聴かせてね~!」
「えぇ、もちろん。では、また」
「ああ、またな」
一曲も披露せず去った吟遊詩人。緑の背中を見送る。
「……お客さんが少なかったのかな?」
「かもしれないな」
そう言われると、ライと会う時には丁度良く客がいない。
「まぁ、……また会える。そんな予感がする。僕たちは、ギルドへ行くか」
「おー!」
広場まで来ればすぐそこ。
慣れたように冒険者ギルドへと、早速向かった。
◇
『――!』
『~~っ、――!』
「「ん?」」
ギルドの扉を半分ほど開けると、いつもの喧噪とは別にがなり立った声が聞こえる。
中に入れば、皆互いの顔を見合うだけで、解決策がないように遠目で見ているようだ。
「どうしたんだろうね?」
「さあな」
恐らく、クレームの類いだろう。
他の冒険者が手を出せないのであれば、ギルドとその冒険者間の問題。
何もなく、ただ暴れまわるような輩ならば、他の者が加勢するはずだ。
「ちょっと内容、聞いてみる?」
「……そうだな」
王都のギルドは広い。
大声で言い合う……というよりは、一人がかなり大きい声なのだが内容までは届かない。
僕らはもう少し近寄ってみた。
「――じゃから、もう解放していいと判断したなら、わし一人で充分じゃわい!」
「も、申し訳ございませんが、解放された方のランクアップが先で──」
「んなもん、後でよかろう!」
「で、ですが、その方が討伐した際の事情から、そういう訳にもいきませんで──」
「ならソイツはいつ来るんじゃ!」
「わっ、分かりかねます……!」
平行線。そんな言葉が相応しいだろう。
全く話が進まない。周りの冒険者の気持ちもよく分かるというもの。
しかし、受付のいつも毅然とした女性が対応する冒険者……かは分からないが。
その者には、多少興味がわいた。
「──ドワーフの、おっちゃん?」




