第六十五話 王都を探索③~武具屋にて~【別視点】
親から稼業を継いで、早二十年。
この道四十年の大ベテランの俺にかかれば、客の求めているものくらい見りゃ分かる。
今は細っこい双黒の坊主と、赤い髪が珍しい剣士の二人組が来店している。
十中八九、冒険者だろう。
剣士は……、そうだな。
手数を生かした流派。
屈強、とまでは形容できない体格は、盾職には到底見えない。
装備なんて、驚くほどに軽装。
むしろ、非番の騎士のそれに近い。
腰に携えた剣は見事なもんだが、突きや殴打の性能は備えていないように思う。
しかし、仮に二人組で旅をしていると想定するなら……。
──俺の見立ては、こうだ。
剣士には素早さを下げ過ぎない程度に、しかし性能が高い甲冑。
セント・メーレンスを離れることになったため、防御性能に不安を抱いて来店したに違いない。
恐らく魔術師であろう細っこい男には、自身に備わらない属性を帯びた魔物の素材。
付与魔術師が魔力をこめた素材。
それらをもとに作られた、装備。
水の鱗を生かした、軽い造りのスケイルメイル。
風を織り込んだローブ。
杖に、盾。
忍ばせる短剣。
はたまた、超高級、高性能な逸品。
さぁ……。
なんでも、来い!!!!
「ン? こんちはー!」
店内を一通り見て回ったであろう、彼らに忍び寄る。
お、思ったより早く気付かれたな……。
「い、いらっしゃい、お二方。……時に、剣士さん。……あんたの探してるもんは、……これだろう?」
つい先日仕入れた一品。
布に覆われていた、とっておきを披露する。
近隣に突如現れたという、水系の魔物を王宮の筆頭魔術師様が討伐し。
その素材が冒険者ギルドを通じて流通した。
それを買い付けて、工房のベテランに作成してもらった品。
剣士の赤い髪から連想されるのは、火の女神。
で、あれば。
彼が欲するのは、この相反する水属性のスケイルメイルに違いない──!
「「……?」」
(あ、あれぇ?)
おかしい。
今ひとつピンときていない顔だ。
この俺としたことが。なにか、見落としたか……?
「何か買うつもりだったのか?」
「んー、いや。トクには?」
(あれれぇ?)
熱心に見ていたと思ったんだが……、気のせいだったか?
「な、なら。そちらの魔術師さま? には、こちらはどうかな」
双黒だと判別し辛いが、……そうだな。
緑色のローブ。
彼の丈が短めなハーフローブを尊重し、同様の長さのものを。
「ほう! 丁寧な仕事だ。……これは、風の魔石を砕いているのか?」
「さっすがお目が高い!」
風属性の魔物からとれた魔石を砕き、それを糸に織り交ぜたもの。
製作期間もそうだが、使われる素材が多い。
グリュンバードのように、風魔法が得意な魔物の攻撃を和らげてくれる。
値も少々張るが……、騎士っぽい男の服は上質。
金はあると見た!
「……だが、四属性ならば一通り防御系の魔法は修めているからな」
「…………へ?」
「だねー」
(な、なんだって!?)
ということは、彼は全属性……!
ん?
双黒、全属性? どこかで。
「冷やかしに来たつもりではないのだが、こいつは外国から来ていてな。
こちらの装備にはどんなものがあるか、見せたかったんだ。迷惑になるならば、退店する」
「あ、いえ……。それは、まぁ。全然、気にしてないんですけどねぇ」
特に冒険者ともなれば、商品を見に来るだけのやつもいる。
値段を確認し、受注する依頼の計画を立てるだろうからな。
だから、そんなことを気にしちゃぁいないが……。
このままじゃ、大ベテランの俺の名が廃る。
買わなくても、こいつらに必要なもの。
それを見極めたい。
負けられない。
これは、冒険者と武具屋の主との闘い──!
「えーっと、では、剣士さん。リザード系のような、爪が鋭い魔物と対峙する際は、どのように戦われますかな?」
ソロならば、バックラーのような軽い盾を利き腕と反対に装備し、それで防いで斬り伏せる。
パーティーならば、魔術師から目を逸らせるよう爪以外を狙いつつ立ち回る。
もし自分の刃がリザードの爪を捕捉したら、その逆手の爪が身を襲うからだ。
仮にこの魔術師が四属性の盾をはれるなら、まぁ……後者だろう。
だから、素早さに特化したような服装をしているのか?
「んー。バサッと剣で斬り伏せる!」
「……?」
「はぁ」
(質問を間違えたか……?)
「え、ええと。なら、魔術師さま? ヘレウルフのように素早い魔物が襲ってきたら……どうします? そうですね、五体を想定しましょうか」
これは難問に違いない。
奴らは基本、群れで行動する。
水の国では天敵が多いからだ。
つまり、水の盾や土の盾で目の前のヘレウルフを防いでも。
別の個体がすぐ猛威を振るう。
くっくっく。
火属性を持つローブを見繕う時がきたか。
「……そうだな。前回は水の槍で対応したな」
「一瞬で数本だすとか、フツウ無理だよね~」
「…………?」
(あれえええええ!?)
俺の知識が間違っているのか?
「ええと、一応聞いてみますが、水の剣ではないんですよね?」
「そうだな。あれは数は出せるが……、水平方向に伸びるのはやはり槍だな」
「槍って一本だすのもムズかしいよね~」
「お前だって二連で出したとか言ってなかったか?」
おかしい。
黒持ちだからって、そんなことあるのか!?
槍は飛距離もそうだが、大きさもあり一本に注ぐ魔力は剣より多い。
そもそも数本を具現化できることが異常なんだが……。
というか、剣士は剣士で魔法を使うのか?
な、なんだこいつら──!?
(……ふっ。面白い)
なるほど。
稀に来る、試練の時というわけか。
これを乗り越えれば、俺の武具屋としての能力も上がる。
客が本当に求めているもの。
そっちの意味での、目利きがな!
「防具、か……。そういえばプラハトでは見送ったが、なるほど。頭に入れておこう」
「……お兄さん方には負けたよ」
「んー?」
「だがなぁ、俺だって武具屋の主。……とっておき、見せてやらぁ!」
「?」
魔道具屋との共同開発。
属性を持つ魔石をあしらい、付与魔術師が魔法を授け。
付与魔法が使えない者でも疑似的な魔法剣と成す。
超高級、超稀少な一品。
剣士も魔法を使うとはいえ、型どる魔法に専念してきたのなら、さすがに付与魔法は使えないはず。
出し惜しみなんざ、してる場合じゃねぇ!
「──どうだぃ! 火属性の魔術師と鍛冶師の魂の合作! その名もデュランダ──」
「あ、焔の剣使えるから間に合ってマース」
「あああぁぁぁソウダヨネェ」
なんでだよ……。
魔法って、そんなに簡単に使えたっけ?