表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/90

第六十五話 王都を探索③~武具屋にて~【別視点】


 親から稼業を継いで、早二十年。


 この道四十年の大ベテランの俺にかかれば、客の求めているものくらい見りゃ分かる。


 今は細っこい双黒の坊主と、赤い髪が珍しい剣士の二人組が来店している。

 十中八九、冒険者だろう。


 剣士は……、そうだな。

 手数を生かした流派。

 屈強、とまでは形容できない体格は、盾職には到底見えない。


 装備なんて、驚くほどに軽装。

 むしろ、非番の騎士のそれに近い。

 腰に携えた剣は見事なもんだが、突きや殴打の性能は備えていないように思う。


 しかし、仮に二人組で旅をしていると想定するなら……。


 ──俺の見立ては、こうだ。


 剣士には素早さを下げ過ぎない程度に、しかし性能が高い甲冑。

 セント・メーレンスを離れることになったため、防御性能に不安を抱いて来店したに違いない。


 恐らく魔術師であろう細っこい男には、自身に備わらない属性を帯びた魔物の素材。

 付与魔術師が魔力をこめた素材。

 それらをもとに作られた、装備。


 水の鱗を生かした、軽い造りのスケイルメイル。

 風を織り込んだローブ。

 杖に、盾。

 忍ばせる短剣。


 はたまた、超高級、高性能な逸品。


 さぁ……。


 なんでも、来い!!!!


「ン? こんちはー!」


 店内を一通り見て回ったであろう、彼らに忍び寄る。

 お、思ったより早く気付かれたな……。


「い、いらっしゃい、お二方。……時に、剣士さん。……あんたの探してるもんは、……これだろう?」


 つい先日仕入れた一品。

 布に覆われていた、とっておきを披露する。


 近隣に突如現れたという、水系の魔物を王宮の筆頭魔術師様が討伐し。

 その素材が冒険者ギルドを通じて流通した。


 それを買い付けて、工房のベテランに作成してもらった品。


 剣士の赤い髪から連想されるのは、火の女神。

 で、あれば。

 彼が欲するのは、この相反する水属性のスケイルメイルに違いない──! 


「「……?」」


(あ、あれぇ?)


 おかしい。

 今ひとつピンときていない顔だ。


 この俺としたことが。なにか、見落としたか……?


「何か買うつもりだったのか?」

「んー、いや。トクには?」


(あれれぇ?)


 熱心に見ていたと思ったんだが……、気のせいだったか?


「な、なら。そちらの魔術師さま? には、こちらはどうかな」


 双黒だと判別し辛いが、……そうだな。


 緑色のローブ。

 彼の丈が短めなハーフローブを尊重し、同様の長さのものを。


「ほう! 丁寧な仕事だ。……これは、風の魔石を砕いているのか?」

「さっすがお目が高い!」


 風属性の魔物からとれた魔石を砕き、それを糸に織り交ぜたもの。

 製作期間もそうだが、使われる素材が多い。


 グリュンバードのように、風魔法が得意な魔物の攻撃を和らげてくれる。


 値も少々張るが……、騎士っぽい男の服は上質。

 金はあると見た!


「……だが、四属性ならば一通り防御系の魔法は修めているからな」

「…………へ?」

「だねー」


(な、なんだって!?)


 ということは、彼は全属性……!


 ん?

 双黒、全属性? どこかで。


「冷やかしに来たつもりではないのだが、こいつは外国から来ていてな。

 こちらの装備にはどんなものがあるか、見せたかったんだ。迷惑になるならば、退店する」

「あ、いえ……。それは、まぁ。全然、気にしてないんですけどねぇ」


 特に冒険者ともなれば、商品を見に来るだけのやつもいる。

 値段を確認し、受注する依頼の計画を立てるだろうからな。

 だから、そんなことを気にしちゃぁいないが……。


 このままじゃ、大ベテランの俺の名が廃る。


 買わなくても、こいつらに必要なもの。

 それを見極めたい。


 負けられない。


 これは、冒険者と武具屋の主との闘い──!


「えーっと、では、剣士さん。リザード系のような、爪が鋭い魔物と対峙する際は、どのように戦われますかな?」


 ソロならば、バックラーのような軽い盾を利き腕と反対に装備し、それで防いで斬り伏せる。

 パーティーならば、魔術師から目を逸らせるよう爪以外を狙いつつ立ち回る。


 もし自分の刃がリザードの爪を捕捉したら、その逆手の爪が身を襲うからだ。


 仮にこの魔術師が四属性の(シルト)をはれるなら、まぁ……後者だろう。

 だから、素早さに特化したような服装をしているのか?


「んー。バサッと剣で斬り伏せる!」

「……?」

「はぁ」


(質問を間違えたか……?)


「え、ええと。なら、魔術師さま? ヘレウルフのように素早い魔物が襲ってきたら……どうします? そうですね、五体を想定しましょうか」


 これは難問に違いない。

 奴らは基本、群れで行動する。

 

 水の国では天敵が多いからだ。


 つまり、水の盾(アクア・シルト)土の盾(ラント・シルト)で目の前のヘレウルフを防いでも。

 別の個体がすぐ猛威を振るう。


 くっくっく。

 火属性を持つローブを見繕う時がきたか。


「……そうだな。前回は水の槍(ヴァッサー・ランツェ)で対応したな」

「一瞬で数本だすとか、フツウ無理だよね~」

「…………?」


(あれえええええ!?)


 俺の知識が間違っているのか?


「ええと、一応聞いてみますが、水の剣(アクア・デーゲン)ではないんですよね?」

「そうだな。あれは数は出せるが……、水平方向に伸びるのはやはり槍だな」

「槍って一本だすのもムズかしいよね~」

「お前だって二連で出したとか言ってなかったか?」


 おかしい。

 黒持ちだからって、そんなことあるのか!?


 槍は飛距離もそうだが、大きさもあり一本に注ぐ魔力は剣より多い。

 そもそも数本を具現化できることが異常なんだが……。


 というか、剣士は剣士で魔法を使うのか?


 な、なんだこいつら──!?


(……ふっ。面白い)


 なるほど。

 稀に来る、試練の時というわけか。


 これを乗り越えれば、俺の武具屋としての能力も上がる。


 客が本当に求めているもの。

 そっちの意味での、目利きがな!


「防具、か……。そういえばプラハトでは見送ったが、なるほど。頭に入れておこう」

「……お兄さん方には負けたよ」

「んー?」

「だがなぁ、俺だって武具屋の主。……とっておき、見せてやらぁ!」

「?」


 魔道具屋との共同開発。


 属性を持つ魔石をあしらい、付与魔術師が魔法を授け。

 付与魔法が使えない者でも疑似的な魔法剣と成す。


 超高級、超稀少な一品。


 剣士も魔法を使うとはいえ、型どる魔法に専念してきたのなら、さすがに付与魔法は使えないはず。


 出し惜しみなんざ、してる場合じゃねぇ!


「──どうだぃ! 火属性の魔術師と鍛冶師の魂の合作! その名もデュランダ──」


「あ、焔の剣(フラム・ベルク)使えるから間に合ってマース」


「あああぁぁぁソウダヨネェ」


 なんでだよ……。


 魔法って、そんなに簡単に使えたっけ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ