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第六十三話 王都を探索①~無自覚の魔術師~【別視点】

王都をぶらり編



「──ルカ・アステル・グランツ! 見付けましたわ!」


「「ん?」」


 ルカ消失事件のお詫びとして、王都探索の一件目はオレの希望の場所に向かうこととなった。


 そんな中、通りを一本逸れた道を歩いていると予期せぬ出会いがあった。

 どうやらルカの知り合いらしい。


「おー♪ カワイイ女の子と知り合いとか、ルカちゃん、やる──」


 茶化そうと思い、横のルカを見ると。


(うわっ! めずらしっ! イヤそう。すっっごい、イヤそう!)


 ここまで顔に感情が出るのも珍しい。

 おまけに相手は可愛らしい女性だ。


 ルカと同年代だろうから、魔法学校の知り合いか?


「…………ミランダ」

「あーら! わたくしの名前を憶えていたなんて、光栄だわ!」

「……はぁ」

「へ~、ミランダ嬢、か。ルカちゃんとは、どういう関係?」

「は、はぁっ!? る、ルカ……ちゃん、ですってぇ!?」

「……?」


 ん?

 これは、もしやの……もしや?


「あああなた、ルカのなんなんですの!?」

「え? えーっと、旅のパートナー?」

「誰がだ……」

「ぱ、パートナーぁ!?」

「ミランダ、お前はうるさい……」


 あのルカと対等に渡り合えているということは……。

 魔法学校時代の、友人関係なのか。


 はたまた、彼女の一方的なアレなのか。


 金のまっすぐな長髪が綺麗な彼女は、どこかヒルデガルド殿を彷彿とさせる。

 恐らくだが、彼女も実力者なのだろう。


 赤と白で彩られた……カチューシャ?

 ヘッドドレスほど華美ではないそれが映え、シンプルなドレスを身に纏う。


 それだけ見れば、とても魔術師には見えないのだが。


「ヒルダ様にルカが帰ってきていると聞いて、居ても立ってもいられず探しましたのよ!」

「そうか、それはご苦労なことだ。……じゃあな」

「ちょ、ちょっとぉ!? 待ちなさいよ!」

「おー」


 本当に珍しい。

 友人はいないと聞いていたが……。

 彼女だけはルカを気にかけていたんだろうか。




「……で、どういうカンケイ?」


 本当に彼女を置いてさっさと立ち去ったルカは、ツワモノだ。


「……魔法学校で勝手にライバル視されていただけだ。僕が首席で、彼女が常に次席」

「あー、なるほど」


 ライバルだと思っていたけど、実は~みたいな展開……?


「……あとは、そうだな。師匠に聞いたところによると、婚約者候補だったらしい」

「んえ!?」


 それは、まぁ。

 彼女があれだけ執着するのも分からんことはない。


 ルカも、……オレから見ると可愛い系だけど。


 同年代の女性からすれば、整った顔立ちをした男。

 公爵家の後ろ盾もあり、優れた魔術師。


(そりゃー、まぁ。モテるよなぁ~)


 ルカは恐らく気付いていないだけで、魔法学校時代にもファンのような子は何人もいたに違いない。

 他人に無関心な性格と、黒持ちであること。

 一応、身分の高い家柄というのもあり、周りも話しかけづらかったことだろう。

 ……逆に、同性からの妬みも買いそうではあるが。


「構ってあげないの~?」

「……彼女の父はエアバルド王の側近で、彼女自身も王宮魔術師だ」

「へー?」

「僕はグランツ公爵家を継ぐ者ではないからな。僕との婚約話が無くなって、すぐに別の者と婚約したらしい」

「……あー」


 これは、アレだな。

 切ないやつだ。


「でもさ、彼女はルカちゃんと話したかったっぽいじゃん?」

「……僕のことを、万人が受け入れているわけではない」


(なるほど)


 ミランダ嬢の世間への体裁を考えてのことか。


「……ルカちゃんの優しさって、ほーんと分かりづらいよね~」

「~っ、うるさいぞ」

「まぁ、たしかに。いくらメーレンスとはいえ、貴族の間で噂にならないとは限らないしな~。メンドウだね?」

「……さぁな」


 ルカの優しさは分かりづらい。

 でもきっとそれは、他人からの自分への評価がどうなろうと、自分と関わった人物のことを守りたいからだ。


(うーん、不器用さん)


 オレが言えたことではないが……それにしたって、だ。


「まぁ、でも。あのカンジだと、また会いそうだよね~」

「……勘弁してほしいな」

「めずらしく弱気」

「あいつはお前と同じくらい元気すぎるんだ……」

「……ん? なんか、オレもうるさいって言われているような……?」

「気のせいだ」



 ◇



 昼間から酒場が開いているのは、さすがは王都というべきか。

 食事がメインで、酒も置いている。

 そういう店ならどこにでもあるだろうが、酒をメインで提供する店では珍しい。


 店へと入れば、客層はオレたちのような冒険者が多い様子だ。


「……僕は飲まないからな」

「えー? たまにはイイじゃーん」

「…………はぁ」


 ルカはお酒が苦手だという。

 体調に影響が出るのか、それともいい思い出がないのか。


「大丈夫だよ~、もしもの時はオレが介抱するって♪」

「そういうアレでもないのだが……」

「ふーん?」


 ということは、やっぱり思い出……?


「なぜ酒場なんだ?」

「えー? 情報収集の基本っしょ~♪」

「……飲みたいだけだな?」

「まさかー」


 まぁ、完全に安心できる状況ではないとはいえ。

 ヘクトールの件も一旦落ち着き、あいつらもメーレンス側の協力なしには滅多に手出しできないであろう他国の都。


 おまけに周りには腕の立つ冒険者たち。


 羽根を伸ばすには、十分な環境!


「ナニがあるのかな~♪」

「はぁ。飲みすぎるなよ」


 奥には多人数で座れる席もあるが、二人連れだったため立ち飲み用の簡素な木のテーブルに案内された。

 思っている以上に盛況のようだ。


「ん?」

「なんだ?」

「ビール、ビール、たまにエール、ワイン、ビール」


 酒場、なつもりで来たわけだが。

 それにしたって、酒の種類……というか銘柄、多すぎないか?

 主に、ビールの。

 そして。


「…………グランツェ(輝き)?」


 どこか聞き馴染みのあるビールの銘柄に惹かれる。

 うーん。

 どこで聞いたんだったか……。

 ん? 待てよ。


「ほう、さすがだな」

「あ、やっぱルカちゃんとこと関係アリ?」

「あぁ。メーレンスは水の国とも言われるが、その中でもグランツ領は、内陸でありながら特に水源が豊富なんだ。いくつもの醸造所に銘柄、地域によってはワインも特産だな」

「へー!」


 普段あまりルカから実家の話は聞かないが、どこか饒舌なのは気のせいではないだろう。


「お酒の名産地! オレ、益々興味でてきた!」

「ふむ。元々『グランツ』の名は、祖先が王に素晴らしい水魔法を披露したことと、日照時間も多く、水の輝きが美しい領地という意味が始まりと聞いているが、……今ではお酒での名の方が有名だろうな」

「おー! …………おー?」


 ということは、お酒に馴染みある生活……だったんだよな?


「メーレンスってお酒、二十歳から?」

「いや、十八だな」

「だよねー?」

「べ、別に嗜んでなかったわけではないぞっ」


 んー? なぁんか、怪しい……。

 頑なに飲まないのには、絶対ワケがある。


 そうこうしていると、店員がやってきた。 


「お客さん、お決まりかい?」

「……はぁ。たまには、僕も飲むか」

「お、イケる口~♪」

「うるさいぞ。お前もグランツェでいいのか?」

「オッケー!」

「あいよー、グランツェが二杯だね?」

「おツマミはー?」

「ふむ。……ソーセージと野菜のチーズ焼きを頂こうか」

「え!? なにソレ!?」

「あいよー! んじゃ、ちょいと待っといてくんな」


 なんだか美味しそうな料理名を聞いて、気分がアガる。


「ここのレシピは知らないが、僕の家だったらズッキーニとトマトが入っていたな。チーズが香ばしくなるまで焼く料理だ」

「ヤバ……! ぜったい美味しいやつ!」


 チーズの塩気と、トマトのさっぱり感。

 ソーセージの肉汁に、それらを吸って柔らかくなるであろうズッキーニ。

 

 お酒のお供としては最高のやつだ。


「……?」

「なんか、外騒がしいね?」

「そうだな」


 まだ見ぬツマミに想いを馳せていると、なにやら入り口の外が騒がしい。

 ザワザワとした人の熱気が聴こえる。


「ギルドと違って、仕事に直接影響がでるほどでもない。ケンカだろう」

「あー。でも、あんまりやりすぎるとお店に迷惑だよな~」

「……そうだな。騒ぎが収まらないようなら、お前が仲裁するといい」

「え、オレ!?」

「腕っぷしの強さなら、お前の方が上だろう」

「そうだけどー!」


 ここには羽根を伸ばしに……もとい、情報収集に来たわけだが。

 ケンカから得られるものは、果たしてあるのか。


「──グランツェ、二杯。お待ちどぉ!」

「お!」

「ふむ、相変わらずいい色だ」


 白と言えばいいのか、金と言えばいいのか。

 とても綺麗な色をした液体は、まさに『輝き』の名に相応しいといえる。


「じゃぁ、かんぱーい!」

「はぁ」


 ルカのグラスに無理やり自分のグラスを合わせ、この素晴らしい名産品にありつけたことへの祝杯をあげる。


「──んっまー!」


 オレは飲むばかりで、製造方法には詳しくないが。

 造り手がみな素晴らしいということだけは分かる。


 熟成する過程で生じたであろう、独特な爽やかな果実をイメージする香り。

 苦味は控え目で、まさに女神のような優しさを感じる。


 うーん、飲みやすくて美味しい!


「……」

「どう~?」

「ん? あぁ、相変わらず美味しいな」


(変わりはなし……か)


 特に身体に見られる変化はない。

 し、意識もしっかりしている。

 杞憂だったか?


 あれか、「魔術師たるもの、どんな状況にも~」ってことで、普段から飲まない様に気を付けているとか。

 もしくは、実は態度に出さないだけで味が苦手か?


「……にしても。ケンカ、終わらないねぇ」

「……そうだな」


 ルカの観察に勤しんでいても聴こえる喧騒と、たまに歓声。 

 それらは収まるどころか、ヒートアップしているように思える。


「お」


 入り口の方を眺めていると、その扉から一人の男が入ってきた。

 冒険者の盾職だろうか。

 鍛えたと分かる体付きと、重厚な装備だ。


「──おい! ヒマなやつは見に来いよ! シルヴェストゥリのお嬢様をかけて、決闘らしいぜ!」


「おお!」

「面白そうだな」

「見に行くか!」


 決闘、か。

 おおかた、同じ女性を好きになってしまった者同士の……だろうな。

 なんで酒場の前でそれが行われているかは知らんが。


「……ルカちゃん?」


 入り口に気を取られていると、ルカが頭を抱えうな垂れている。

 酔いが回ったか……?


「だいじょ──」

「……ミランダ・フォン・シルヴェストゥリ。あいつの名前だ……」

「──えええええ!?」


 決闘って、あの子をめぐってのなのか!?




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