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第六十一話 灯火

「なーーんもなかったね?」

「……そう、だな」


 ライの唄を聴いた後、そのまま女神の教会に向かった。

 だが、拍子抜けするほどに、ふつう。


 違和感どころか、前回祈りを捧げた時と変わらない。

 荘厳な建物には女神を模した像が安置され。

 人々はそれに思い思いの祈りを捧げ。

 女神聖教の司祭が、教えを説き。

 とても、翼の会が生み出された場所などとは思えなかった。


 特筆すべきことと言えば、メーレンスでは水の女神を祀るからか回復術師(ヒーラー)のような者が多い気がするだけだった。


「まぁまぁ、ごはんにしよー!」

「……はぁ」


 まぁ、メーレンスの、それも王都で何かがあるとは思っていなかったが。

 全く収穫がない、というのもな。


 ……しかし、そうなると。

 やはり翼の会という組織は、女神聖教からは独立したものなのだろうか。

 そもそもリューゲンは組織の人間ではなく、利害の一致から手を組んだ可能性もある……か。


(……分からん)


「──あ」

「どうした?」


 いきなり立ち止まったかと思えば、その綺麗な赤い髪を揺らしながらある方向を振り返る。


「アレって、王宮魔術師?」

「あぁ、そうだな。王都の明かりは彼らのおかげで絶やさずいられる」


 ヴァルハイトが示したのは、魔術師のローブを着た数人と、街の灯りだった。

 魔石を用いて炎を留めるそれは、一種の魔道具といっていいだろう。

 その魔石に込めた火属性の魔力が枯渇したのか、補充している様子だ。


「王都の領主は実質エアバルド王だからな。王宮魔術師に依頼するのも不思議ではない」

「へー、スゴー」

「他の街では予算に応じて魔石の付け替えか、火の付与魔術師への依頼かに分かれるんじゃないか?」

「魔石付け替えるの? 高そ~」

「北側の街であればあるほど、ゾゾ共和国に近いからな。

 大きな鉱脈を有するそちらに近いほど輸送費も抑えれるだろうし、付与魔法を含めた定期的な取引で、割り引いてくれるのではないか? ……なにより質がいい」

「ふーん?」


 僕はグランツ公爵家を継ぐ者ではない。

 そのため領地経営のような勉学は修めていないが……。

 まぁ、予想だがおおよそ当たってはいるだろう。


「考えてもみろ。魔物からとれる魔石はともかく、長期間属性を宿せる付与魔法が扱える者はそうそういないだろう」


 こいつを見ていると忘れがちだが、そもそも付与魔法というのは一定以上の精度が必要なものだ。

 王宮魔術師なら問題ないだろうが、冒険者ですらランクが高い者に限定されるだろう。


 付与魔法を専門とする者も、それに特化すれば戦闘用の具現化する魔法の精度は下がるはず。

 ふつうは、そうであるはずなんだが……。


(こいつには常識が通用しないからな……)


 あまり考えすぎてもいけない。


「冒険者に依頼する場合は、品質保証が曖昧だからな。相場より安いらしいぞ」

「へー! ……あ、もしかして。オレ、雇ってもらえたり? 荒稼ぎできそー!」

「! なるほど、それは良い考えだ。僕もこれでようやく落ち着いて旅が──」

「あー!! ウソウソ、冗談だって! もー。すーぐ本気にするんだから~」

「残念だな」

「ひどー」


 実際、どこかの街で専属の付与魔術師になれば一儲けできるのではないか?

 ……という考えは、言わないでおいた。


「ルーシェントはどうなんだ? 王宮魔術師はこちらと違って、騎士団の所属になるんだろうか」


 王宮魔術師を有する自国に多大な興味を持っていたためか、旅をするうえで他国の事情に明るくないのが僕の欠点だ。


「そーだねー。騎士団の魔術師隊って感じ? でも、王都だけなら父上がいるからなー」

「……? どういう意味だ?」

「? あぁ。父上が王都の明かりくらいならヨユーで補充できそうってコト」

「──なっ!?」

「あ、実際やってるのはもちろん火属性の魔術師だけど~」

「そ、それはそうだろうな……。さすがにそんな話は聞いたことがない。……しかし、驚いたな」


 王都の明かりをすべて……か。

 確かに光の先天属性であれば、火属性の代わりにそれを魔石に込めれば明かりとすることが出来るのか。

 それにしたって、魔力量が尋常じゃないといえる。


「オレも実際、父上の本気ってヤツ、分からないからな~」

「ふむ……」


 それだけの、世界最高峰の魔術師がいる国だ。

 仮にメルヒオール王が翼の会と同じ志しであれば、奴らが勢いづくのも分かる。


 が、こいつの話を聞くかぎり、むしろ第二王子派には協力的ではない。


「ルーシェントで一番の魔術師は、メルヒオール王なんだろうな」

「それはそうかもね~」


 しかし、そんな使い手が国を統べているのに……。

 奴らは動くことが出来るのか?


「聖王国ルーシェント……。女神聖教……か」

「オレは、ほーんと嫌われてるからなぁ」

「そうなのか? 光の女神は、女神たちの中でもっとも位が高いと聞く。

 メルヒオール王も、お前も……敬意を持たれると思うのだが」


 むしろ、王家を神聖視しているのであれば、そういう感情すら抱かないと思うが。


「さぁねー。うちの光の先天属性ってのは、フツウ隔世で現れるらしいよ?」

「! ……なるほど。お前のことを知っている者からすれば、異端とみなしているのか」


 今代の王である父君が光の女神の代行者という認識であるなら。

 次代の王は、むしろ民に近い者が望ましい。


 女神の意志かは分からないが……。

 そうすることで、王家と女神聖教の権力をうまく分散させている……ということか。


 だから、一部の女神聖教や第二王子派らはヴァルハイトを手放しで歓迎できないのか?

 そういった背景は、やはり……彼の母親に関係するのだろうか。  


「……」

「ん? なになにー? おニーさんのことが気になる~?」

「っ、うるさいぞ。……お前のご飯はナシだ」

「んえー!?」

「路銀を僕に預けたのが仇となったな」

「ひ、ひどー! 卑怯者ー!」


 うるさい奴は放っておいて、僕は食事処を探すことに専念した。



しばらくはゆったり展開



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