閑話 風のララバイ【別視点】
「双黒、……ですか」
この場を離れた背中を見送る。
懐かしい。
友人達のことを思い起こす。
「ルカ。……君は、どのような道を行くんでしょうねぇ」
魔術とは。
魔法とは。
本来、自由なものであったはずなのに。
価値を見出し、己の欲の手段とし。
そのことが、制約を設ける。
「あたしは自由気ままにいたいんですけどねぇ」
懐かしい姿をしたそれを見上げる。
かつての光景が、鮮明に思い出されるようだ。
『──おや、なにをしているんですかぃ?』
『……? あなたは?』
『これは失礼。あたしのことは、……そうですねぇ。旅人、とでも』
『旅人? 面白い人だね、うん。……なら、僕のことは──』
あの時の出会いが、今を成す。
人や未知との出会いというのは、思いがけないものをもたらすことがある。
可能性。
選ぶことの出来るということは、自由であるということ。
自分は伝える者。
ただただ、自由で在り続け。
何者にもならず、何物をも侵さず。
しかし。
一つの道を決めた君が生きる姿を見て、とても。
とても、美しいと思った。
悩み、苦しみ、怒り、時には喜び。
そうして研がれた『こころ』というものは、何物にも代えがたい。
可能性。
それは、有限なるものが生み出せる、無限の産物。
伝える者として、それ以上に相応しい題材はない。
「あたしの詩は、君に捧げましたから」
自分の想いを伝える詩など、とうに忘れた。
何かを選び、決断をする。
選び取る者の美しさに触れたから。
自分は自由なままでいい。
道を選ぶ一歩手前。
道を提示し、そこから無数の枝分かれを経て。
時をも超えて、世界が広がる。
囚われないからこそ、見えるものもある。
「君は、何者で在ろうとするんでしょうねぇ」
かつての彼が残した産物を修め、そうして同じ道を辿ろうとする者。
はたしてその先には、どんな道が広がるのだろう。
魔術師であることに、どんな意味を見出すのだろう。
自分は、未だ見えぬ景色に想いを馳せることが大好きだ。
そして、それ以上に。
迷いながら、傷付きながらも。
何かを選び取ろうとする者に、どうも肩入れをしてしまうようだ。