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第五十八話 掃討作戦 終了

「もう騒ぐんじゃないぞ」


 得意の風魔法で、濡れてしまった自身とヴァルハイトの衣服を乾かす。

 完全には乾ききらないが、まぁ多少マシだろう。


「えー、別にさわいでないもーん」

「置いてくぞ」

「ひどー!」


 まったく。

 ふざけていなければ、純粋に感心できたものを。


「36、37……38、か。ルカ、目的地点まではあと半分ほどだが魔力はどうだ?」

「問題ない。なんなら付与魔法にも割けそうだ」

「え!? すごーい」

「ほんとね。魔力のことは分からないけど……、さすがに私でもルカのすごさは分かる」

「な、なんてやつだ……」


 ふむ。

 そう言われると、わるい気はしないのだが……。

 いかんせん、今のランクでの中央値というものが分からない。

 すごさというものが実感できない。


「少し休憩したら、出発しよう。もしルカの付与魔法を掛けてもらえるなら、帰りの方がいいだろうな。魔物との遭遇もほぼないだろうし」

「なるほど」

「もうちょいか~」

「気を抜くなよ」

「りょーかーい」


(本当に分かってるのか……?)


「クヴァル、水は足りているか?」

「あぁ、ありがとう。平気だ」

「承知した」

「……うんうん」

「な、なんだ?」


 ヴァルハイトに意味深な視線を向けられる。


「なんだか、オレ……母親の気分」

「は、はぁ?」


 いったいどこにそんな要素があったというんだ。


「何があるか分からないんだ、ちゃんと休め」

「はーい」


 いつも返事だけはいいんだ、返事だけは。



 ◇



「おー!」

「着いた……?」

「はぁ、っはぁ。……やっと、か……?」

「ふむ。一番乗りか?」


 目指すべき大樹。

 それは、どうやら小さな湖……いや、池の側にあったようだ。


 センの森にあったものよりはかなり小さいが、森の生命が喉を潤すには十分だろう。

 

「──あれは……」


 クヴァルとアンジェ、アストは木陰で息を整え、キアは周辺を探りに行っている。

 ヴァルハイトは……どこかへ行ったのか?


 僕も警戒がてら池と大樹のところまでやってきた。

 その大樹の真下に、一人の男性がいる。


「……おぉ、早かったな」

「あ、あなたが……エルマー殿だろうか?」

「いかにも」


 初老の男性。

 肩を少し過ぎる髪と同じ、白いひげをゆったり蓄えた男性。


 師匠の、上司にあたる人物だ。


「初めてお目にかかる。僕はルカ・アステル・グランツ……、あなたの部下であるヒルデガルド殿には大変世話になっている」

「双黒の……、なるほど。お主がヒルダの」

「はい。弟子……と言いますか、弟と言いますか」

「息子、じゃろ?」

「は、はいっ……」


 やはり、というか。

 上司にも僕のことを話しているんだろうか。


「ふむ……。色々と、聞いておる。儂が不在時のことも、な」

「!」


 どうやら、翼の会のことについては正しく伝わっているらしい。

 一応、公的な発表では『賊が侵入を試みたが、すぐ鎮圧された』と伝えられたはず。

 わざわざエルマー殿が僕に言うということは、リューゲンのことを把握しているということだ。


「……あやつは、知らなくていいことまで知った」

「?」

「なぜ、君主が単属性(シングル)だと、都合が悪いと思うかの?」

「……なぜ?」


 それは、リューゲンの考え方を借りるなら……。


「魔術師への……いや、魔術師を頼らずに国を築こうとするから?」

「そうだの、それもあるやもしれん」

「? 他に、なにか?」


 一般的な考え方でいうなら、強国に見せるためだ。

 しかし、そんな単純なことを言う人物には見えない。


「ルカよ、儂らは『魔術師』だ。魔術とは本来、大規模で大人数で行うもの。……そして、争いのもとなんじゃよ」

「大規模で、……大人数で行う……争いのもと」

「その力を君主以外が持つのは、とても危険なことじゃ」

「それは……、確かに」


 その力は、センの森の主を呼び出すことで、僕に見せ付けた。

 ということは、君主が制御できるように魔力の強い者を据えるということか?


「ですが……、その理屈で言えば。……彼らの、翼の会とやらの理想郷というのは──」

「そうじゃのぉ。一理ある、と思ってしまう。だからリューゲンは、はじめ魅かれたのだろうな」

「それだけではない、と」

「左様。リューゲンやその同志たちの誤りは、優劣をつけたこと」

「優劣、ですか?」

「なにせ、魔術とは……本来、一人で成り立つものではないのだからのぉ。そして、彼らは本来制御すべき力に魅入られた。……力を独占し、大陸を統べる者になるのだと」

「魔族を……排除して、ですね」

「女神聖教の教えは、優劣をつけることに非ず。だから、やつらのような偏った思想を持つ者たちは、純粋な女神の信徒から『制天派』と呼ばれるそうじゃ」

「天を……制する……?」


 それは、なにを意味するんだろうか。


「ほっほっほ、儂もまだまだ知らないことが多い。……魔術というのは、奥が深いからのぉ」

「……」


 エルマー殿は、なにか確信をもって話しているのだろうか。

 それとも、本当に断片的なことしか知らないのだろうか。


(分からない……)


 彼の言わんとすることが。

 だが、ほんの少し情報は手に入った。

 天。……空を、制する、か。


「ところでルカよ、魔眼はつかえるのかの?」

「! そうですね、……ほんの僅かながら」

「で、あれば。──あそこをどうみる?」

「?」


 すぐ傍にある大樹。

 その根本。


 ……特別なにも無い。が。


(そう言うのであれば、何かあるのだろう)


 幸い今は集中できる環境だ。

 目元へと、魔力を集中する。


「……?」


 具体的になにかが見えるわけではないが、確かに……何らかの魔力の残滓が見える。


「その、僕の修行が足りず……」

「いや、それでいいんじゃ。物体に付与された訳でも、生物に留まる訳でもない。少しでも魔力を感じたなら、それでよい」

「では、これは一体……?」

「恐らくではあるのだが。……翼の会とやらは、ここで召喚魔術の実験をしていたのではないかのぉ」

「実験。……! なるほど、センの森の主をよぶ前に、ランクの低い魔物で試したのですね?」

「あくまで予想、じゃがな。それが外に漏れると民に要らぬ心配をさせてしまう。……それで、今回の作戦ということじゃ」

「確かに、考えられますね」


 いきなり主をよび出そうとして、成功する保証はない。

 それにしても、こんな王都の近くで……。


「転移魔法というのは、確立されておらんからの」

「……やはり、そうですか」


 僕のシェーン・メレでの闇魔法も、師匠の魔道具という媒介があってこそだ。

 しかも、それ専用としての媒介。

 なにも用いない、魔法での転移。

 それを、成し遂げる者は今のところいない。


「呪術については、どうでしょう?」

「ふむ……」

「よろしければ、こちらを」


 収納魔法(マジック・バッグ)に入れていた、あの時の小瓶を差し出す。


「これは──」

「今回、用いられたものです。センの森の主に呪術をかけ、傀儡にして王を襲う算段だったかと」

「なるほど、のぉ」


 時を刻んだ手が、小瓶に手をかける。

 

「……あやつも、馬鹿なことをしたもんじゃ」

「……」


 筆頭魔術師の次席である彼は、在籍歴が長い。

 つまり、師匠と同様、リューゲンのことも近くでよく見ていたはずだ。


 彼の心境は……、僕では計り知れない。


「知識を追い求めることは、とても重要なことじゃ。……じゃが、なぜそれが()()()()()()()のか。……それを考えることを放棄した時点で、あやつに魔術師の資格はない」

「隠された真意、ですか……」


 リューゲンは何かを……十中八九魔術に関する何かを知ったが、なぜそれが今世に伝わっていないのか。

 それを考えることをしなかったと。


「──あっれー、おジイさん?」

「! どこへ行っていたんだ?」


 何処かへ行っていたらしい、ヴァルハイトが戻ってきた。


「ん? 見回り~」

「それは、まぁ。ご苦労なことだ」

「さすが、オレ!」

「……はぁ」


 先ほどまであらゆることを考えたせいか、妙に力が抜けてしまった。


「ほっほっほ。ルカの友達かの?」

「ヴァルハイトって言います! あ、おジイさんがエルマーさん?」

「そうだ。彼に色々と話をうかがっていた。……あとで共有するが、翼の会のこともな」

「あー。……翼ねぇ。……空にナニがあるのかな?」

「さてのぉ」

「……そろそろ、他の冒険者も着く頃か」


 すこし開けたこの場所には、僕達のパーティーだけだったが。

 どうやら二番手のパーティーが来たようだ。


「そちらは、どうぞお持ちください」

「そうするかのぉ。……無理だけは、しないようにの」

「はい」

「そうします!」


 少し。ほんの少し。

 魔術の深淵へと触れた。


(焦らなくていい)


 翼の会とやらの目的が分からない以上、下手なことはできない。

 一歩ずつ、確実に。


 そして、……自分の起源を見付けるんだ。




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