第五十六話 掃討作戦 その二
恐らくは王国騎士団の者であろう、蒼銀の鎧を着た人物が声高らかに告げる。
周辺にいた者達は、みな一様にそちらへと注目した。
「此度の助力、感謝する! 私は今回の指揮を執る、王国騎士蒼流師団所属、リゲン上級騎士だ!」
上級騎士か。
僕は一応の公爵家の出ではあるが、彼の名に聞き覚えはない。
メーレンスはエアバルド王の治世のおかげで、他国よりも身分の分け隔てというのがあまりない。
そのため、おそらく彼は貴族出身ではないとは思うが、……それでも上級騎士になれる。
実力をきちんと測って采配しているのだろう。
そしてその中枢を担うのが、義兄上であるから……どこか誇らしい。
「おー、蒼流師団! カッコいい!」
「ルーシェントにもあるだろう、固有の名称が」
「あるけどさぁ、なんか……イイ!」
「はぁ」
まぁ、言わんとすることは分からなくもないが。
「ギルドにて大まかなことは聞いていると思う。これより、此度の作戦について詳細を話す故、辞退するのであればこの後すぐに申し出て欲しい」
四十代前後の、短髪の上級騎士が言うにはこうだ。
現在、魔物が突然わいた森の付近は筆頭魔術師の次席、エルマー殿が光の魔法で結界を敷いている。
エルマー殿のざっと見積もった概算だが、魔物の数はおよそ300体。
対して僕たち冒険者側は、フルパーティーが10組。60名。
騎士団からも人数を出すが、主に伝令や状況把握にまわるため、数は期待できない。
(つまり……、一パーティーにつき、30体が目安か)
まぁまぁな数ではあるが、そこに騎士団の戦力も加えると、実際にはもう少しすくないだろう。
それに今回の目的は全滅ではなく、驚異の排除。
魔物も数がいなければ、王都に攻めるような真似はしないはず。
エルマー殿がいる地点は森の最奥で、そこへ目掛けて各パーティーが扇状の等間隔に広がって魔物を狩るらしい。
要は、見付け次第たおせばいいということだ。
「──なお、報酬についてはパーティーにつき最低十万メールは保障する。後は、働き次第だ」
そう言われ、各パーティーの代表者に騎士団の者たちから魔道具が渡される。
(ギルドカードと同じ原理か)
魔力は偽れないと言われる。
記憶、記録を持ち、それを光の魔法の性質である『反射』をもって映し出す。
魔物の情報を魔道具に記録し、それを確認するということだろう。
魔法とは自然の力に寄せるもの。
……魔道具とは、一種の魔術なのだろうか?
「──説明は以上! 質問、あるいは辞退する者はいるか?」
リゲン殿がそう問えば、冒険者たちは顔を見合わせながらもその場にとどまった。
「どうしよう、ちょっと緊張してきたかも……!」
「大丈夫よ、ヴァルハイトがいるわ」
「はぁー? オレに全部任せようってか~?」
「あら、頼りになるって言ってるだけよ」
「どーだか!」
「……チッ」
「ふむ、最低十万メールは確実なのか」
こちらのパーティーはと言えば、……相変わらずだ。
「では、騎士団の者が所定位置を案内する! 進むべき方角はあの木を目指してくれ」
指さす方を見れば、一際大きな木が立っていた。
どうやらあの辺りが、中心らしい。
目測だが、ただ目指すだけならば一時間もかからない距離だろう。
帰りは王都の外壁を目指して帰ればいいというわけだ。
他の冒険者たちからも緊張した様子がうかがえる。
胸をさする者。
気合を入れる者。
武器を手入れする者。
持ち物を再確認する者。
さまざまだ。
「ルカ、俺たちはあそこかららしい」
「承知した」
それほど遠くない位置から始めるようだ。
「ねぇねぇ、作戦会議するー?」
「そうね、久しぶりだし」
「前衛は俺と、ヴァルハイト。中衛に……キア一人で大丈夫か?」
「僕を数に入れるといい」
「……はぁ? お前、魔術師だろ」
「アストォ、お前なぁ……」
案の定、ではないが。
どうしても僕を気に入らないらしい、アストが突っかかってきた。
「魔術師……。だが、その前に僕は冒険者だ」
「だから?」
「知恵や地形を駆使して、できることが多くある。ということだ」
「ふぅん? そんなに言うなら……、見せてもらうか」
「もー、アストったら」
「さすがヴァルハイトの相方ね。頼もしいわ」
「そーなんだよねー♪」
「はぁ」
なんだその相方というのは。
「とにかく……、相手は水属性の魔物が多いと予想される。であれば、アストとアンジェは前衛の支援に回るべきだろう」
「そうね。わたしは回復に専念する!」
「チッ……」
「私もなるべく、攻撃に回るべきね」
「ふむ、なるほど。ルカの言う通りだな」
「さっすが~」
「お前も働くんだぞ」
「が、ガンバリマス……」
ひとまず作戦会議とやらは、このようなものでいいだろうか。
……改めて言われてみると、これまでのパーティー経験で作戦会議とやらの経験に乏しいので分からないが。
「んじゃ、合図待ちますかぁ!」
冒険者の位置取りを確認して、上級騎士がおこなうという合図を待った。