第五十五話 掃討作戦 その一
翌日。
指定された王都の東門辺りで、集合時間より少し早目にヴァルハイトと共に到着した。
センの森は王都から見て北西辺り。
僕らが王都入りした時とは、反対側にある地域で今回の依頼である掃討作戦が行われる。
「ほーー。やっぱ、王都だと魔術師もだけど、冒険者の数多いね~」
「そうだな」
西岸の街シェーン・メレと違い、国のほぼ中央に位置する王都。
さまざまな場所への中継地にもなり、また依頼の数も国一番といっていいだろう。
ギルドでも思ったが、冒険者もさることながら、魔術師の数が段違いだ。
集合場所では、冒険者はパーティーごとに準備をして待機している。
指揮をとる騎士団の者たちは、目立つ場所にて忙しなく動き回っていた。
騎士団長である義兄上──エルンストの姿はない。
翼の会を含めたあんな事件があった後だ。
基本的に王の側を離れられないだろうから、現場の指揮は恐らく師団長クラスの者が行うようだ。
「あ、いたいた!」
周りの様子を伺いながら待機していると、アンジェの元気な声が聞こえてくる。
「お、集合時間より早めに来るとは成長したな?」
「ヴァルハイトってば、私たちのこと何だと思ってるのよ!」
「さあな~~♪」
「相変わらずね」
クヴァルとアストの男性陣は相変わらずヴァルハイトとの距離を測りかねている様子で、少し遠巻きにこちらを見ている。
「もうすぐ騎士団からの説明があると思うけど、準備してきた?」
「ああ。僕らは基本的に二人で動いているからな。余分なくらい、準備はいつもしている。二、三日街に戻らなくても差し支えない程度には」
「え!? もしかして……、それ、収納魔法なの?」
「ああ」
腰にある鞄を指差された。
「すごーい! 二人のランクだったらふつう持ってないはずだけど……。やっぱり、常時ダンジョンとかに挑むようになったら要るわよね。私たちもお金貯まったら買うつもりなんだ!」
「へーー。すこしは冒険者としての基本、備わってきたか?」
「なんかヴァルハイト、しばらく会わない内にイジワルになったわね……?」
「同業者としての助言ってヤツ♪」
「どうだかーー!」
「この二人、実は似た者同士よね」
「僕もそう思う」
キアの意見に同意していると、クヴァルが話しかけてきた。
「ルカ。食料などはともかく、マジック・ポーションはこちらで用意していないが、備えはあるか?」
「ああ、問題ない」
「そうか。こちらには二人魔術師がいるからな、君の分までは手が回らない。魔力が切れそうになったら、気を付けてくれ」
「承知した」
クヴァルとやらは、実力はともかくパーティーのリーダーとしての資質は兼ね備えているようだった。
六人パーティーで依頼に臨むとはいえ、僕らはほぼ四人組と二人組とがそれぞれ機能する即席のもの。
準備も各々で、と事前に合意していたが……。
気にかけてくれるのはさすがだ。
アストとやらの話を聞いた時は不安もよぎったが、パーティーを組む上で少しは安心出来た。
「そーいえば、わりと街に近い場所で魔物見付かったってウワサ流れたわりには、街の人って冷静だよな?」
たしかに。
それは僕も気になっていた。
「魔物が初めて見付かった時に、すぐ王宮魔術師の次席の方が視察に向かってくれて。光の結界を張ってくれたみたいよ」
「なるほど。そういうことだったか」
周年記念パーティーの席にその姿がなかったのは、こちらの対処にあたっているからだったようだ。
合点がいった。
「その方が対処出来ないってことは、かなりの数がいるのね……?」
「センの森の静けさからいったら、丸々移動してきたのかなー?」
「さあな。行けば分かるさ」
少なくとも魔物の長、ランクB相当のセンの森の主はヴァルハイトによって討たれたはず。
であれば、今その場所を闊歩しているのはランクC以下の魔物ばかりだろう。
強さでは王宮魔術師が遅れをとることはないだろうが、数は確かに多そうだ。
気を引き締めなければな。
「────皆の者、静粛に!!」