第五十四話 受託と金策
「二人とも、お待たせーー!!」
ヴァルハイトに教えてもらったところによると、回復術師であるアンジェが戻ってきた。
「他の待機者だけでパーティーが組める人数だったから、二人にお願いすることにしたわ」
「しゃーーねぇな、やるしかねぇか」
「ふん。足を引っ張るなよ」
「はぁ」
ものすごく温度差があるのは気のせいだろうか。
「まさか公爵家とは知らなかったが……、君の言う通り、一人の冒険者として接することにする。改めて、俺はクヴァル。重戦士だ。魔術師のアストに、双剣使いのキア。回復術師のアンジェ。四人でいつも旅をしている」
「ルカだ、よろしく頼む」
「知ってると思うけど、ヴァルハイト~」
「ここでまた会えるとは思ってなかったが、これも何かの縁だ。よろしく頼む。……それで、早速だが今回の依頼について説明したい」
「ああ、頼む」
「また身の丈に合ってない依頼じゃないだろうなぁ?」
「いや、今回は俺たちだけの依頼じゃないんだ。騎士団から冒険者ギルド向けの依頼で、複数パーティーで魔物の掃討作戦を行う」
「ほう……? そんな依頼があったのか」
ヴァルハイトと二人で依頼を受けるため、複数パーティーで行うような依頼は全く検討していなかった。
そういった依頼があるのは初耳だ。
騎士団ということは……、義兄上も関わっているのだろうか。
「ああ。ここからそう離れていない場所に、最近魔物が大量に発生したらしい。本当に、突然現れたそうだ。王都に被害が及ぶ前に、騎士団だけでなく冒険者にも即日募集をかけて討伐にあたるらしい」
「私たちはこの前王都に来たんだけど、本当に突然うわさがたったの。その場所にいないはずの魔物が大量にいた、って」
「へぇ?」
魔物が突然現れる、か。
どうやら、僕にとって全く無関係な依頼ではなさそうである。
「受付が今日までで、正直迷っていたところなんだ。俺とキアは魔力がほとんどない。アンジェは水属性、アストは火。その魔物達は、水属性に特化した魔物で、相性的には良くないんだ」
キアという女性は金の髪色、白持ちだったが魔力がほとんどないようだ。
そういう者も中にはいるのだな。
「水の魔物か……」
「そういえば、センの森の魔物って全然いなかったよね? そいつらが移住したのかな?」
「有り得るな。森の異変を感じて、場所を移したか……」
「ヴァルハイトも火の魔法剣士だったが……。受付の者に聞くところによると、君は全属性なんだろう?」
「ええ!? うそ、すごーい!」
「全属性の人、初めて見たわ……」
「はっ、どうだか」
先程からアストとやらは、かなり僕のことが気に入らない様子だ。
「まぁ、実際見てもらえれば本当かどうかは分かるだろう。それより、出発は今日なのか?」
「いや。今日まで受付日で、明日、王都の東門の外で光の十時に集合だ。そこで詳細も説明されるだろうが、最低報酬はパーティーにつき十万メールはあるだろう。騎士団と共同とはいえ……、多少の危険も伴うはずだ」
「承知した」
「報酬は均等に分けるから、安心してね!」
「当たり前だろ~? アスト、ちゃんと報酬分は働けよな?」
「う、うるさいぞ!」
「ひとまず、明日また合流しよう。それまでにお互い準備を整えておかねばな」
「ああ。僕らの分は僕らで準備する。こちらのことは気にしなくて構わない」
「そうしてもらえると助かる。では、また明日な」
「またねー!!」
「また明日ね」
「……ちっ」
嵐のように四人組は去って行った。
しかし、属性のバランス的には確かに今回の依頼は難しいところだっただろう。
僕やヴァルハイトが捕まって、結果的によかったといえる。
「あー、アストのやつ成長してると良いけどなぁ」
「ほう?」
「あいつ、魔法学校出てるか知らないけど、森の中で炎の雨ぶっ放したからなぁ」
「それは……まぁ、危険だな」
「でしょ? 魔法の努力はしたんだろうけどさ。学校出てないからか基本を知らないっぽいんだよねぇ」
「なるほど、それで僕に対する風当たりが強いのか」
正規の魔術師であることは、ギルドの受付からも聞き及んでいるだろう。
全属性でおまけに公爵家の人間だ。
魔法学校で学んでいる僕に対して、少なからず劣等感を抱いているのかもしれない。
「そこは本当、ルカちゃんにイヤーな思いさせてごめんって感じ! あいつ、いつもああだからさ~」
「いや。誰しも、自分の持っていないモノを他人が持っていることに対して、複雑な思いを抱くのは仕方ないことだ」
「ほんっと、ルカちゃんってイイ子なんだから……」
「しかし依頼は明日か。今日のところは薬草をギルドに売って、滞在費に充てるか」
「あーー、センの森で採ったやつ?」
「ああ、あそこはお前が主を倒すまで解放されていないダンジョンだからな。高く売れるんじゃないか?」
「だといいねぇ♪」
ひとまず屋敷を出ると言った以上、今日の宿泊費を稼がなければならない。
僕の収納魔法に入っている涙草を売ることにした。
◇
「──お、坊ちゃん! 王都へ帰ってきてたんですねい」
ギルドの買取区画。
そこのカウンターにいたのは、黄色がかった茶髪を短めに整えた、体格の良い男。
「ゼクト、坊ちゃんは止めろと言っただろ……」
彼は師匠と同時期に冒険者をしており、今でも彼女と交流のある人物。
ギルドの買取区画の責任者で、冒険者になるよりも前に師匠と何度か薬草を卸すうち顔見知りとなった。
「いやー、元気そうで何よりですぜ! ヒルダも相変わらずみたいだし、安心しやしたよ」
「師匠は一生あのままだろうな」
「初めましてーー!」
「……お、お? あの坊ちゃんが……、ソロじゃない……!?」
「わるかったな」
「ヴァルハイトって言いまーす! ゼクトさん? よろしくどうぞ!」
「いやー、おじさん感無量ですぜ。あの坊ちゃんがなぁ……」
「僕を何だと思ってるんだ?」
「ゼクトさん、薬草って買い取ってもらえますか~?」
「お、いいぜい。見せてみろ」
促され、収納魔法より涙草を取り出した。
「──んえ!? それ、センの森にしか生えない代物じゃ……」
「そうなのか。僕より詳しい者が教えてくれたのでな。一応いくつか採っておいたんだ」
「いや、そもそもセンの森自体まだ解放されてないんじゃ」
「ちょっとシェーン・メレから急ぎで王都に来たから、通ってきました♪」
「『ちょっと』で通れる場所じゃ……ううむ。やはり坊ちゃんは規格外ですねぇ」
「うんうん」
何でお前まで頷いているんだ、という言葉は飲み込んで。
やはりまだ解放されていないダンジョンの薬草は貴重らしい。
「ちなみに一つ、どれくらいだ? 今晩の宿代だけでも賄えればいいんだが」
「坊ちゃん屋敷があるのに泊まらないので? ……そうだなぁ、持ち込み自体少ないから……。一つ大体四千メールですかねぇ」
「ふむ。ならば、三つ売ろう」
「三つもあるんですかい? 本当に通ってきたんですねぇ……」
「ちょうど静かだったもんね?」
「ああ。たまたまだ」
「? まぁ、薬屋としては喉から手が出るほど欲しいでしょうから。こちらとしては助かりますぜ」
涙草を三つ渡し、一万二千メールを受け取った。
宿も食事付で王都ならば八千メールほどだろう。
今晩くらいは何とかなるはず。
風待草は僕と相性が良い薬草だ。
しばらくは、持っておくことにする。
「ゼクト、助かった。また頼む」
「ゼクトさん、ありがとー!」
「お、またってことは王都を拠点にされるんですねい? 珍しい素材、楽しみにしておきますよ!」
そう言ってゼクトに別れを告げた。
「坊ちゃん……か。ぷくく」
「笑うなら、はっきり笑ったらどうだ?」
「いや……、似合うなって……、ぷっ」
「うるさいぞ!」
笑いのツボに入ったらしいヴァルハイトは放置して、僕はギルドの者に近所でお勧めの宿を聞きだし、そこで一晩を過ごすことにした。