第三話 冒険者
意外にもチャラ男ことヴァルハイトは、冒険者としての心得はあるようだった。
「ルカちゃんお昼ご飯、食べてないんだよね? じゃぁご飯食べて準備したら合流しようか!」
そう言われ、一時間半後に再度集合となった。
ギルドで依頼を受注した際、ついでに近くの宿を聞いて予約も取っておいた。
宿に併設された食堂で軽く食事し、今回の依頼内容を改めて振り返る。
今回の討伐対象は、グリュンバードという緑色の羽が特徴的な鳥型の魔物。
依頼主は羽根をつかった商品を生産しているようで、素材がほしいらしい。
なので、羽根をなるべく傷付けない──出来れば一撃。といった方法が望ましい。
僕の得意な風魔法だと、羽根が傷付いてしまうかもしれない。
ヴァルハイトの実力は知らないが……。
可能であれば僕はサポートと囮に徹し、剣で仕留めてもらうのが良いかもしれない。
だが。
「剣士に頼るってのが、な」
前回の件で相当苦手意識がついた。
威力は低いが、貫通力に長ける風の槍なら連発も出来て傷付けずに済むかもしれない。
僕一人でも何とかなるのを見れば、あちらも関わり合いを持とうとは思わないだろう。
「行くか」
ご飯も食べ終え、頃合いになったところで集合場所のギルドへ再度向かった。
「あ、ルカちゃん来た来た」
「ちゃん付けはやめろ」
「けちー」
今回は天候も恵まれ、討伐対象の居場所も水飲み場である川に沿って広がる草原地帯とのこと。
特別懸念事項はない。
僕一人でも十分やれる程の魔物なため、準備するような物はなかったが、一つだけ確認しておきたいことはあった。ヴァルハイトの冒険者としての資質だ。
「ねぇねぇ、ルカちゃん。出発前に作戦会議しよう」
「ほう」
「今回の目的は、討伐だけでなく素材の納品だから、なるべく魔物を傷付けたくない。だから、オレが一撃で仕留めるような動きをしたいんだけど、どうかな?」
殊勝なことだ。
基本とはいえ、依頼内容に応じてどう戦うべきかきちんと自分なりの考えを持っている。
「でも、もしルカちゃんの魔法でも可能なら、オレが囮に徹した方がイイと思うんだけど……。ルカちゃんはなんの魔法が得意なの?」
「一番得意なのは、風魔法だな」
「あーー、グリュンバードってたしか風の魔石が獲れるから、あんまり効かなそうかな。ならやっぱりオレが活躍するっきゃないね!」
ふむ。討伐対象のことを、よく理解しているなと思う。
僕と出会う前の待機中に、ギルドで魔物の情報を集めたのだろうか。
グリュンバードはこの地域の固有種だ。
そのため依頼主の羽根を用いた商品が、この街でお土産として店先に並んでいる。
僕は元々知識欲も多く、また敵との相性によって魔法を使い分けるため、魔物の情報はなるべく頭に入れている。
それでもこういった地域ごとに生息するような固有種の情報は、現地で仕入れることが多い。
ヴァルハイトは紛れもなく、冒険者であるといえる。
ギルドで垣間見た、殺気からも只者ではないことは分かっている。
しかし、それはそれ。
ヴァルハイトの言うように、魔法を使った違う戦術もあるにはある。
むしろソロならその方法が早い。
だが、あえて風魔法が得意と言ったのだ。
初対面の、へらへらした剣士の前で簡単に己の手の内を明かすような真似はしない。
お手並み拝見といこうじゃないか。
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