第五十一話 妹と旅路
「妹とは、イレーズのことだったのか」
いつかの、セネル達と一緒にいた控えめだが礼儀正しい。
そんな少女のことを思い浮かべた。
確かにラディと同じ髪色で、双剣だか短剣使いかだったな。
「イレーズを知ってるのか!?」
「あぁ、以前僕がパーティーを組んだことがある二人組と一緒にいたな」
「そいつら、ルカちゃんのこと使えない魔術師って勘違いしてるバカなんだよね~。まぁイレーズちゃんはたしかに良い子だった♪」
「そ、そうだったのか……。元気でいるなら良いのだが。しかし心配だな」
「いや、彼女も一人前の冒険者としての片鱗は見えていたぞ。そのパーティーのリーダーの非礼を、やんわりと咎めていたからな」
「! 成長、したんだな」
「あぁ、心配ないはずだ」
「その時はプラハト近くのダンジョンにいたけど……、今はどうだろうね~?」
「冒険者としてやっていけてるなら良いんだ。お前達の旅路を優先してくれ。どこかで出逢えたら、その時は手紙を渡してもらえると助かる」
「承知した」
「オッケーー!」
「それで、お前達はこれからどう動くつもりだ?」
実際それをヴァルハイトと話し合おうと食堂を目指したわけだが、手間が省けた。
「そうだな、まだ話し合っていないが。……僕の考えとしては、旅の途中で分かったことを王都に持ち帰るためにも、外周沿いの街道より、王都を経由する街道沿いに旅をしようと思っている」
「なるほどな、各地域を巡ったら一度王都へ戻り、また次の旅へ行くと……。準備も整えれるだろうから、良い判断だと思う」
「オレは何でも良いよー♪」
「主体性のないやつだ……」
「どこ見ても楽しいし!」
秘密裏に育てられた彼にとっては、外の世界は恐らく、等しく眩しい。
確かに境遇を想えば、どの旅路だったとしても素晴らしいものなのだろうな。
「まず王都で依頼を受け路銀を稼いで……。直近で行った西側よりは、まず東側から向かおうかと思っている」
「おーーイイねーー」
「東か……、いずれはグランツ領にも行くんだな」
「ああ、義父上にも挨拶せねばならん」
「義父上……?」
「ルカ・アステル・グランツ。跡継ぎにはなれないが、一応グランツ公爵家に世話になっている者だ」
「そうだったのか……!? 本来なら頼みごとすら出来ない立場だな」
「気にするな。僕とて冒険者の一人だ、家の事情は関係ない」
「そう言ってもらえると、助かる」
正直僕などよりも、横にいるお調子者の剣士の方がよっぽど身分が高い者なのであるが。
メーレンスでは王の意向もあり、そこまで厳しい身分の制度ではない。
永い間、国に貢献した名家という認識で良いだろう。
だが聞く限りルーシェントでは、貴族の派閥などもありまだまだ身分が重要な国だと思われる。
そういう点では、こんな所で頼み事を聞いていい身分ではないんだがな。
「しかし、グランツ公爵家で魔法も一流で、欲もない冒険者か……。お前、身の振り方には気を付けろよ。下手すりゃ悪いこと考えてる同業らに利用されるぞ」
「大丈夫だよー! 悪い奴らからは、オレが守る!!」
「お前はただ戦いたいだけだろ……」
ヴァルハイトはその腕っぷしから、どこか戦いを楽しんでいる節がある。
まぁ実力が伴っているから出来ることだろうが、僕はどちらかと言えば魔法を研究したい。
どうでも良い奴らには関わらないのが一番だ。
「……まぁ、お前ら二人なら大丈夫、か? 妹の件、頼んだ。また俺たちで役に立てることがあれば、いつでも言ってくれ。必ず力になる」
「ああ、しばらくは伯爵をお守りするのに専念するんだな」
「まだ今回の件、全部解決したわけじゃないだろうしね~。任せた!」
「任せてくれ、これでもランクBの固定パーティーなんだ。チームワークには自信がある」
そう言って隣の席に座る仲間を見たラディは、いつか見た顔よりもよほど慈愛に溢れる顔つきをしていた。