表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/90

第五十話 昨日の敵は、

 大きなギルドだけあって、建物内でいくつか区画が分かれている。

 その内の一つに食堂があり、各々好きなものを頼んで席についた。


 五人組のうち四人は別の席。

 僕ら二人の目の前には、リーダー格の短剣使いだけが座る。


「今更だが、俺の名前はラディーレン。……ラディと呼んでくれ」

「ルカだ」

「ヴァルハイト~♪」

「ルカにヴァルハイト……、前にお前達を襲撃したのは、本当に、申し訳ないことをしたと思っている」


 改めて、僕らが初めて顔を合わせたあの時のことを詫びられた。

 僕らは事情を少しは理解したので、彼が思っているほど気にしてはないのだが。

 ……というか、むしろ彼らのその後の方が気になる。


「いや、少しは把握しているつもりだ。クレーマー男爵のせいで確保できなかったハイ・ポーションを求めていたのだろう? プラハトにはあいにく無かったが。金を稼いで、他の街で確保するつもりだったのか?」


「知ってたのか……? ああ、そうだ。王都では伯爵の身内には売らないよう手を回されていた。さすがに治療院には処方してもらったが、そもそも買占められていたから数もなくてな。伯爵……旦那様や奥様にはずっと世話になってきた。……だから居ても立ってもいられず、王都以外でハイ・ポーションを確保しようとしていたんだ」


「それが、王都以外でも高騰していて金が必要だったと。シェーン・メレには行ったか?」


「いや」


「それは良かった。男爵が普通のポーションをハイ・ポーションと偽っていてな。それを安価で提供するカフェがあったんだ。行っていたら魔眼がなければ危うかったぞ」


「バカが勝手にやってたことだから、もう大丈夫とは思うけどね──」


「そうだったのか。それは危なかったな。あいにく魔眼は誰も使えないんだ……。エリファス殿がいらしてくれて、本当に助かった。……お前たちの仲間なのだろう?」


 どちらかと言えば、師匠や王の仲間なのだが。


「まぁ……、知り合い? にはなるな」

「エアバルド王から頼まれたらしいよ♪」

「王が!? 一体、どう恩を返せば……」

「ラディといったか。随分と義理堅いのだな」


 彼は人からの好意をとても真摯に受け取り、それを必ず返さねばならないという使命感があるように思えた。


 もちろん、返せるに越したことはないだろうが。

 今回の件についていえば伯爵はただの被害者。

 忠臣を想うエアバルド王の、含みのない温情だ。


「今回のことは、個人間のことだけではなく、国家間にも発展する事件の一端だ。お前たちがどうこう出来る範囲ではない。素直に受け取るだけでいいと思うが」

「オレたちにも別に、恩返す必要ないよ~? 気にしてないし!」


 命を狙われたことに関しては、まぁ穏やかではないが。

 事情が分かったところで、一つの区切りはついた。

 今更恩を返す、と言われたところで、だ。

 それよりは伯爵らへ立派に仕えてくれればそれでいい。


「そうか……、感謝する」

「いえいえ~♪ それで、なんか頼みごと?」

「ああ、本当に申し訳ないのだが。一つ、頼まれてくれないか?」


 頼まれごとに心当たりのない僕らは、今一つ要領を得ていない。

 彼の言葉を待つ他なかった。


「実は、俺には妹がいるんだ。俺たちとは違い、パーティーを組んでいるわけではない。だが、奥様の容体がわるくなる一方で、……俺たちと同じく王都以外で冒険者として活躍し、ハイ・ポーションを集めようと屋敷を飛び出した。その妹をもし見掛けることがあれば、この手紙を渡してはくれないか?」


 言うと、机の上で手を添え静かに差し出した。


「今回の件と、奥様が呪術に関しては全快し、容体も安定したことが書かれている。このまま冒険者を続けるなら止めるつもりはないが、一応こちらのことを伝えておく必要があってな」


「ほう。お前たちは王都に留まるということか?」


「ああ、元々伯爵家の護衛だからな。屋敷から出るご予定がない時に、王都のギルドで依頼を受けるという日々を送っている。俺たちにとっては、育ての親も同然なんだ。あんなこともあって、御側を離れたくない……頼めるか?」


「……それは承知した。だが、僕らにその妹とやらが探せるだろうか?」


 正直僕は、他人と積極的に関わるタイプでもない。

 おまけに黒持ちも手伝って、他人からも構われるタイプでもない。


「特徴さえ教えてもらえれば、冒険者なら見逃さないかもなぁ。女の子ならトクに♪」


 そうだ、こいつがいた。

 女性なら、むしろヴァルハイトに積極的に接触してくれるかもしれない。


「お前たちの旅路を邪魔したくない、どこかで見掛けたらで構わない。俺も今どこにいるかすら分からないからな。特徴は……、そうだな。俺と同じ青みがかった緑色の髪で」


「ほうほう」


「俺と同じ短剣使い。性格は……まぁ、控えめであまり口数も多くないから。パーティーのリーダーをすることはないと、思う」


「ほう……ほう?」


「見た目はとにかく、天使。美少女。かわいすぎる。冒険者なんて危ない目に本当は合わせたくない。ずっと俺の近くで守ってやりたい」


「ほ……う……」

「はぁ」


 途中から、特徴と言うよりは自分がどう思っているかを語りだした。

 妹のことになると、周りが見えないタイプか。

 溺愛、というやつだ。


「それで、その妹の名前は?」

「あ、あぁ。すまない。妹の天使具合は語り尽くせないんだ。名前は、イレーズ。かわいいだろう?」


「「イレーズ!?」」


「……え?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ