第四十九話 王都のギルド その二
「お待たせ致しました。次の方、どうぞ!」
受付のハキハキとした対応は、国内随一のギルドであることをうかがわせる。
僕らの番になった。
「すみませーん、多分、ダンジョン解放したと思うんですけど!」
「…………多分?」
「ヴァルハイト、他に言い方なかったのか……」
「だってーー!」
まぁ、確かに『多分』だろう。
なにせ、センの森の現地で主を倒したわけではない。
しかし、受付の女性は怪訝な顔をしている。
「えーーーー……、念のためうかがいますが、虚偽の申告、ではないです……よね?」
「それは間違いない。だが、対象をこいつが消し炭にしてしまったからな、素材を採取するどころではなかったんだ。この場合はどうすれば良い?」
「け、消し炭、ですか!?」
森の主は水属性に特化し、ふつうであれば火の魔法は通り辛いだろう。
だがこいつは、自分と父君しか扱えない、雷の魔法で文字通り消し炭にしていた。
実際の戦い振りは見ていないが、それさえ見れば彼の魔法の威力はすぐに分かった。
「あははーー。加減ってムズかしいよね~」
「ぎ、ギルドカードをお預かりしても?」
「どうぞー」
ギルドカードを受け取った受付の女性が、魔道具だろう。
専用の装置にカードを置き、そこに浮かび上がった文字に驚きを示していた。
「た、確かに……。『センの森の解放者』が付与されていますね。魔力を偽ることは出来ませんから、これは本当なのでしょう……。ちなみにどういった形状の魔物でしたか?」
「えっと、何か頭がヌルヌル魚っぽくて、体は鱗がついてる大蛇みたいな……、きもちわるい奴!」
「特徴も一致していますね……」
その形容の仕方は訂正しないのかと魔物に同情しながらも、きちんと特徴を捉えていた。
「貴方のカードもお預かりしても?」
「僕か?」
「ええ、さすがに一人でというのは無理が」
「構わないが」
恐らくは、何も変わらないだろうが。
「……? 変ですね、貴方には付与されていませんが……」
「こいつ一人で倒したからな」
「ええ!? お一人で、ですか!? そんな、バカな……。一度暴れると手が付けられない、ランクBの魔物なのですが……」
「あいつランクBだったのかぁ、まぁまぁかな!」
「お二人共ランクDでしたら、そもそも推奨レベルでないのですが……」
驚きを含んだ表情から、徐々に疑念を含んだ表情へと変わっていく。
まぁ、僕らは真面目に依頼をこなしてきたわけではないから、ランク不相応な旅路だっただろう。
「むむ……、確かに付与されているし……、しかしどう考えてもおかしい……、これはギルドマスターに?」
いよいよ受付の女性が考え込んでしまった。
ダンジョンを攻略する過程で倒した訳ではない。
何かしら、証拠になる物があれば良かったのだろうが。
「──そいつらの実力なら、俺たちが保証する」
「え? あ、貴方たちは……!」
気付けば周りにはギャラリーが出来ていた。
それをかき分けるように、五人の冒険者らしき者たちが現れる。
「我らが主、シュナイダー伯爵が現場を目撃している。そいつらの実力も実際手合わせた俺たちが一番分かっている。……少なくとも、そちらの剣士は、うちの大男二人掛かりで倒せなかったぞ」
どこかで見たな……、と思っているとヴァルハイトが先に答えを見出していた。
「あーーーー!! 安眠妨害のやつらだな!!」
「あぁ、あの時の」
魔物に襲われる予定だった、プラハトからシェーン・メレまでの旅路。
そこで実際に襲われたのは、人であるこいつらだった。
「ん? 伯爵……? もしかして、エリファスが言ってたのってお前らか?」
「ランクBの固定パーティー、『女神の御手』だ!!」
「伯爵お抱えだったよな……?」
「ハイ・ポーション探しに行ってなかったか?」
周りの反応からも、王都では有名どころなのだろう。
「エリファスが何か言ってたのか?」
「うーーん、何か孤児院出身の冒険者が奥方のためにハイ・ポーション探して出て行った~とかなんとか」
「ほう……、なるほど。それでまとまったお金が必要だったと」
失敗すれば命も危ういような、そんな仕事すら手を出すくらいだ。
よほど、奥方に報いたかったと見える。
伯爵の元にいたのではクレーマー男爵の意地のわるさから、ポーション類の入手が出来なかったことだろう。
受ける依頼は褒められたものではなかったが、王都を出て自ら調達するその気概は、敬意を表したい。
「貴方がたが言うのでしたら、実力は伴っているのでしょう。そうですね……、センの森を先にギルドで調査して、主が確認出来なければ改めて、報酬をお出しするということでよろしいですか?」
「もちろん♪」
「では、後日改めてお申し出ください。……ヴァルハイト・ルースさんですね。お名前を控えておきます」
「どうもーー」
通常であればその場で報酬も出るのだろうが、今回は少し異例だ。
先にギルドで調査に入り、確認ができ次第ヴァルハイトへと報酬が出るようだ。
さすがに呪術がどうだの、この場で言うことでもないからな。
従う他ない。
「──伯爵に雇われていたのか」
改めて五人組へと向き直る。
以前の旅人のような服装から、今は幾分か落ち着いた格好をしている。
さすがに、汚れ仕事を行う時と同じ服装では伯爵の面目もあるだろうからな。
「ああ、あの時は……。すまなかった。伯爵に顔向けが出来なくなるところだったが、おかげでこうして戻ってこれた。エリファス殿にも、世話になった。……借りが、増えてしまったな」
「いや、先程の口添えだけで十分だ。助かった」
「ありがとねーー♪」
王都で実績のある冒険者の口添えほど、信頼のあるものはない。
先程の一件で、受付の者の僕らに対する不信感は吹き飛んだことだろう。
「ギルドの食堂で食事でもどうだ? ……俺たちがお願い出来る立場ではないんだが、一つ頼みたいことがある」
「?」
「んーー? おごってくれるならイイよ?」
「またお前は……」
そういう問題ではないのだが。
しかし、無下にする訳にもいかず、言う通り食堂へと向かった。