第四十八話 王都のギルド その一
「いざ、しゅっぱーーーーつ!!」
「元気だな……」
改めて見繕った衣類や、調合器具といった荷物を収納魔法にまとめて、屋敷を後にした。
とにもかくにも、僕は冒険者。
育った家があるとはいえ、なるべく自活したい。
まずは宿泊費を稼ぐ。
……の前に、ヴァルハイトのギルドカードを更新せねば。
「──おや、もう出発ですか」
「「エリファス!」」
屋敷を出ると、ちょうどエリファスが訪ねてくるところだったようだ。
その美しい銀の長い髪が、日の光を浴びて煌めいている。
「私もそろそろ里へ帰ろうかと思いまして、ご挨拶に参りました」
「エルフの里~?」
「ええ、旅の途中、ゾゾ共和国へ来ることがありましたら、ぜひエルフの里へお立ち寄りください。エリファス・ナヴ・ゼ・エクセリオンと言っていただければ、誰かしらが案内してくれますよ」
「ほう……、エクセリオンだったのか」
エルフ達の中で、武や才に秀でた者たち。
一種の英雄視される者たちには、『エクセリオン』の名を冠すると聞いたことがある。
「ええ、私は双剣使いで、回復術師ですから。滅多にいないでしょう?」
「違いない」
「じゃあメーレンス一通り回ったら、共和国に行くしかないね、ルカちゃん!」
「そうだな」
「どうか、お気をつけて。では、また」
麗しき御仁の後姿を見送る。
彼に比べれば、僕の生きてきた年数などほんの僅かだろう。
だが、そんなことを意に介してないと言わんばかりの、とても対等な人物だった。
尊敬できる、とはこういう者を言うのだろうか。
「次会う時までには、成長した姿見せれるといいな~♪」
「十中八九、無理だろうな」
「あーー!! ひどーーい!!」
「早く行くぞ」
スタスタと先を行けば、ヴァルハイトが叫びながら追ってくる。
相変わらずうるさいが、煩わしい……というにはわけが違う。
賑やかなのは苦手だと思っていたが、存外わるくないものだ。
「ふっ。どうかしてるな」
「えーーーー?」
「~、うるさい」
◇
王都は、シェーン・メレのように周囲を外壁でぐるりと囲われた、要塞の役目も担う都市だ。
北側以外に同様の検問があるが、センの森から到着した際はグランツの名を出せば連れも通してもらえた。
一歩中へ踏み入れると、その要塞のような外壁からは想像もつかないほど綺麗な街並みで、そこもシェーン・メレと似ている。
違うのは、王の居城があること。
街を入ってすぐ、鮮やかなオレンジ色と茶のコントラストが美しい建物が並び、多くの店が軒を連ね。
それぞれの道が合流する中央付近には、ギルドなどの公的機関が。
そして、北側の王宮に向かうにつれ、貴族の屋敷などが並び始め、少しずつ厳かな街並みへと移行する。
僕らは今、街の中央付近。
冒険者ギルドに来ていた。
「さすが王都、賑わってるなーー。こんな人混みの中エリファス通ったら、大変だろな~」
「道行く者が、振り返るんだろうな」
そう言うヴァルハイトについても、その鮮やかな髪色と、端正な顔立ち。
剣士の雰囲気に違わずしっかりと鍛え上げられた体も相まって、特に女性の視線は釘づけだ。
「今後のことも考えたいし、ギルドに食堂併設されてるといいね~♪」
「そうだな」
お腹も空き、何より今後の旅路について話し合いたいのは山々だった。
僕は素直に同意した。
「──おっ、ここかぁ?」
「そのようだな」
街の中心へ向かって歩いていると、大きな建物が見えてきた。
そこにはシェーン・メレより更に冒険者の出入りが多く、一目でギルドだと分かる。
「ワクワクだねー」
「僕は初めてではないが……、まぁ大きいな」
他の冒険者と同じように、中へと踏み入れる。
そこは、国中の依頼が集まるのではないかというほど、目まぐるしく依頼を受ける者、依頼を発注する者が次々にやってきては消え、それに見合う職員の数がいた。
広さはシェーン・メレの二倍ほどだろうか。
天井も、かなり余裕を持って高く造られている。
メーレンス自体は他国と比較するとそれほど大きい国ではないが。
とにかく、国内では最大だろう。
ギルド内は職員が集う受付、依頼が貼ってあるボード、冒険者が作戦会議や待機する場所、それぞれが広くとってあった。
僕の冒険者として登録した最初のギルドは、ここだ。
だが、あいにく初仕事はここでは得られなかった。
というのも。
「──おい、あれ」
「ルカか? 双黒の」
「魔法学校首席だろ? 魔術師でソロやってたんじゃないのか」
「誰だ横のやつ」
「やだー、隣の剣士かっこいいわぁ」
相変わらず女性からの視線を独占しているヴァルハイトが、僕に向かって問い掛ける。
「…………ルカちゃん、有名人?」
「一応、グランツ公爵家で世話になり、王宮魔術師の弟子で、魔法学校首席で、おまけに双黒だったからな。まぁ……目についただろうな」
色々と重なった条件から、僕は冒険者になる前から王都では知られる存在となり、同業者からは遠巻きに見られることが多かった。
まぁ、元々ソロでやるつもりだったから良いのだが。
しかし冒険者になりたての僕には、いささか居心地がわるかった。
「こういうのって、受付で良いのかな?」
「いいんじゃないか? 僕は何かいい依頼がないか覗いてくる」
「──あ、一緒に来てよ~~さびしい!」
「はぁ? 子供じゃあるまいし」
「いいからいいから!」
良く分からん強情さに負け、手持無沙汰ながら一緒に受付の列に並ぶことにした。