第四十七話 旅立ちの朝 その二
「迷惑、だったかな」
アコールも出て行ったこの部屋に、今は僕とヴァルハイトの二人。
おずおずと、控えめに言い出す彼は、らしくない。
「さあな」
「んー、じゃあ大丈夫か♪」
「はぁ?」
「だってルカちゃん、照れ屋さんだからね♪」
「はぁ……」
実際、迷惑なわけではない。
腕も優れ、その生い立ちから教養もある。
僕の知らないことを知っているという点で、旅をする上では迷惑になることはまずないだろう。
「そういえば、アコールとはどこで?」
「あぁ、僕も。お前の話を聞かねばな」
互いに、これまでのこと、簡単な生い立ち。
僕の親について、分かっていること。
ヴァルハイトの父が、彼に王位と自由とを選ばせようとしていたこと。
色々、話をした。
「つーか、セネルってやつマジでアホだな~」
「そこは同意しよう……、だがお前のおかげで、少しは成長が見込めるかもしれん」
「えー、そうかなぁ」
「素直になる、というのは案外難しいものさ」
「ふーーん?」
まるで、自分のことのように思ってしまう。
本当の気持ちを口にするとは、簡単なようで、……きっと難しいことだ。
「その……、今回は、助かった」
「ん?」
「お前が居なければ……、僕は、衝動のままに──」
初めて覚えたであろう、怒り、悲しみ、憎しみ。
これまでの僕は、そのほとんどを『諦め』で手放すことができていた。
魔法という、興味あること以外を視界に入れない……ある意味、余裕がまだあったと思う。
しかし。
自分という存在の根幹に関わる部分。
親、という存在。
そして、それを弑したもの。
僕は、そこまでのものに対する術を持っていなかったのだ。
「ルカちゃんはもう少し、頼るってことを覚えた方が良いかもね♪」
「え?」
「何でも一人で出来てしまうからこそ、自分の知らない……、壁だったりどうしようもないことに直面した時。きっとどうすれば良いか分からないと思うんだ。そういう時は、信頼できる者に頼ったって、全然いいんだよ。セネルのパーティーで言いたいことを我慢してたようにさ、どうすれば良いかって。きっといくら考えても一人じゃ答え、出ないと思う」
「そう、だな。……感情とは、誰かを想うとは。……正直、怖いな」
「そうかもね。でもさ」
ヴァルハイトは、一度受け入れ、そして提案するという話し方をしているなと。
ふと、気付いた。
「それと同じくらい、素敵なこともあるんじゃないかな? そう思える、出会いもあるんだよ。きっと」
一人で生きていけばきっと現れない、感情。
それは良いものばかりではないのかもしれない。
だが、それと同じくらい。
人と人との間には、かけがえのない何かがあるのだと。
そう、説いてくれているのだろう。
僕にも、いつか……それが見えるだろうか。
「そう……、例えばオレ!!」
「いや……?」
「ひどーーーーい!!!!」
「……そういえば、結局、シェーン・メレでの偽ハイ・ポーションの件。あれはただ単に、クレーマー男爵の独断でやってたらしいぞ。金儲けだな」
あまり引っ張るとヴァルハイトがうるさいので、僕は話題を変えた。
「はー? バカじゃん。オレ達それがなければここに来てなかっただろうし」
「違いない。まぁ……、商才はあったんじゃないか?」
「商才だけ、でしょ」
「それもそうだな」
男爵はその商才を生かし、成功をおさめ金で爵位を買った者だ。
それ自体は何らおかしくない。
だが、金儲けをするために、人をも物として見ている節があった。
「元々人望はなかったんだろう。男爵の手下らも、余罪を供述しているらしい」
「そっかー。メーレンスの王も大変だなぁ」
「あぁ。僕らも冒険者として、やれるだけのことはやらないとだな」
「まず王都で依頼受けるの~?」
「そうだな……、その前に。お前、ギルドカードの更新をした方がいいんじゃないか?」
「?」
センの森の主が、一体どのような位置づけかは知らないが、早いところ申し出ないとダンジョンの解放が遅れるだろう。
「せっかく森の主を倒したんだ、解放してもらえれば僕も薬草が採れて助かるのだが」
「あーーーー! 忘れてたや。でも森で倒してないけど、良いのかな?」
「さあな」
実際魔術でよび出される主など、これまでに居たことがないだろう。
どうなるかは、行ってみないと分からない。
「少し調合器具も含め、荷物をまとめてくる。待っていろ」
「はーーい♪」
少し前にこの家を出た時は、一人だった。
でも今は……お調子者の剣士も、一緒だ。
そんなこと、予想もしていなかったが。
案外わるくない、というのは言わないでおいた。
序章にあたる、出会い編が終わりました。
ここからが本当の旅の始まりです。
ぜひ二人の旅路を見守っていただけると嬉しいです。
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