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第四十六話 旅立ちの朝 その一

 魔法学校を卒業して、誰かのお抱え魔術師になるのも、王宮魔術師になるのも釈然としなかった僕に、師匠は冒険者として旅することを勧めてきた。


 それは、きっと僕のことを知る上で本当に最善だったに違いない。

 魔法を研究する上でも、必要だった経験に違いない。


 だが、当初のんびりとした旅路を思い描いていた僕の予想とは異なり。


 冒険者の基本も知らない剣士に失望し、パーティーをなぜか追放され。


 剣士と二度と組むかと思った矢先、訳の分からんチャラい剣士と組むことになり。


 それが、ルーシェントやメーレンス、ひいてはこの大陸を揺るがす事態に繋がっていた。


 更に、自分の起源──親のことも、その一片を知ることが出来た。



 全く予想だにしていなかった、誤算。


 だが、それも人生なのだと。


 そう、感じた。



 ◇



「で?」

「んーー?」


「なんで、お前が! ここに居るんだ!」


 事件の翌朝。

 後のことを全て師匠らに任せ、僕は一人屋敷へと戻り、深く眠りについていた。


 で、目を覚ましたらこれである。


 ここは、一応グランツ公爵家所有の屋敷なのだが。


「えー? ルカちゃんって、ケチなの?」

「お前……、一応国賓なんだからふつうは王宮に泊まるだろ……」

「まぁまぁ、ヒルデガルド殿のご厚意に甘えたんだよ! な、アコール」


 優雅にソファに腰掛けるヴァルハイトの背後には、アコールが控えていた。


「え、ええ。ルカ君ごめんね、迷惑だったかな?」

「うっ……。いや、迷惑という訳では、ないが……」

「あーー、アコールだけに優しいんだ。差別はんたーい」

「うるさいぞ」

「ルカ君って、こんなに表情豊かだったんだね~」

「そうそう、クールで照れ屋さん。なんだよね♪」


「はぁ」


 やかましい。


 アコールの手前、思うように言葉が出せずにいると師匠が部屋に入ってきた。


「あら、ルカ! 今日、発つの?」

「あぁ、少し王都で依頼を受けようと考えている。一応冒険者だからな、……宿もとろうと思う」

「もー! 家に居てくれたっていいのに……」

「そうそう、オレもここがイイなー」


「…………は?」


 ヴァルハイトの旅の目的は、ルーシェントとメーレンスでのポーションの異様な取引を調べ、第二王子派の動向を探ることだった。


 まだ第一王子が光の魔法を顕現していないため安心は出来ないが、少なくともポーション絡みの件は落ち着いたと言っても過言ではない。


 なら。

 旅をする理由が、ないはずだ。


「お前、まさか着いてくる気じゃ──」

「ひどい! オレのこと、見捨てるのね!?」


 デジャヴだ。

 どこかの街でも、同じことがあった気がする。


「王族なんだろ、仕事しろ」

「ルカ君、我が君のこと。お願いしても良いかな?」


「アコール……」


 意外にもアコールは、賛成らしい。

 てっきり、国に帰って働けとでも言うと思っていたが。


「まーー、国内のことは兄上がいるし? オレはお役目ごめんだし? オレが外のことを見て情報を兄上に教えるのも、また一つの手助けなのかなーってね」

「ほう」

「僕はしばらくルーシェントから離れられないから。リヒャルト殿下の周辺に、落ち着きが見られたその時は。前も言ったけど、是非一緒にパーティーを組んで欲しいな」


 以前アコールは言った。

 僕が固定パーティーを組むことがあれば、一緒に組みたいと。


 実際メーレンスに来たのは仕事のようだったが、その言葉に偽りはなかったのだろう。


「アコールなら、大歓迎だ」

「オレは? オレはー?」

「却下だ」

「えーーーー!?」


「仲良しですね~」

「ほんとよね~」


「はぁ」


 もう何度目かも分からないやり取りだ。


「師匠」

「?」

「──これを見て欲しい」


 収納魔法(マジック・バッグ)の中から、一つの小瓶を取り出した。


「それは……」

「奴らが今回、センの森の主に対して使用した呪術。それを掛けられたポーションだ」

「癒しの象徴であるポーションをそんなことに使うなんて……、非道ね」

「僕は、ずっと魔法を研究したいと思ってきた。だが、翼の会とやらは魔術をも研究している。もちろん、呪術には興味がないが……。過去の、偉大なる魔術師たちの残した叡智を、僕も辿っていいだろうか」


 魔法の師である、彼女に。

 理由はないが、断りを入れておくのが筋だと思った。


 今の時代に、魔術の痕跡を辿ること。

 それはすなわち、翼の会への道筋を、辿ることだ。


「……魔術には、呪術の他にも様々なものがあるの。それはもちろん構わない。でも、翼の会に関わるのは止めた方が──」

「僕は、知りたいんだ」


 かの高名な魔術師。

 王宮魔術師永劫の第一席、レヴィ・ファーラントは言った。


 『知りたい』と、『知りたくない』を常に人は持ち合わせ、その違いとは。


 その対象に、好意を抱いているか、もしくは恐れを抱いているかだと。


 僕は、僕を捨て、黒持ちであることで少なからず本当の親という者を憎んでいたと思う。


 だが、同時に焦がれていたとも思う。


 師匠に聞けなかったのは、彼らが僕を愛していないという事実を、聞くのが怖かったからだ。


 しかし、真実は違った。


 なら、僕は知りたい。

 確かめたい。

 

 彼等という、存在を。

 どう、生きていたのかを。


「──ヒルデガルド殿。もしもの時は、オレがお守り致します。どうか、貴女の息子を、信じてあげてください」

「ヴァルハイト……」


「…………はぁ。危険な真似は、しないでよ?」

「もちろんだ、危ない橋を渡るつもりはない」

「本当かしらね~~?」


 僕だって、命は惜しい。

 規模の分からない組織へ戦いを挑むほど、無謀でもない。


 まぁ、……あちらから仕掛けられたら知らんが。


「そう言えば、ヒルデガルド殿はエアバルド王やエリファスとパーティー組んでたんですよね~?」

「ええ。バルドが即位前にね」

「……ん? 長寿のエルフや即位前の王と旅してたなんて……、ヒルデガルド殿って何歳……」


 何やら恐ろしいモノを見る目で、師匠を見た。


「ヴァルハイト君? この世にはね……、知らなくて良いことも、あるのよ?」


 目が笑ってない。


「はーー、まぁ。元気でやってくれたら、それで良いわ! たまには手紙、寄越しなさいよ?」

「ああ」

「ったく、クレーマー男爵の後処理もだし? トリスタンには魔眼の修行させないとだし? 忙しいわ~~」

「お疲れ様です♪」

「師匠も、元気で」

「たまには帰ってくるのよー!」


 言いながら、部屋を出て行き自身の仕事へと向かっていった。


「では、我が君。私もこれで」

「ああ、アコールも。気を付けてな」

「アコール、世話になった」

「こちらこそ! ルカ君、我が君のこと、頼んだよ?」

「えーー? そこはオレが頼まれるんじゃないの?」


「良く言えますね……」

「良く言うな……」


「二人して言わなくても……」



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