表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/90

第四十四話【別視点】剣士のさだめ

「兄上」

「──ヴァル! 驚いたよ、こちらに来ていたんだね」

「はい、王に……父上に無理を言いました。貴方の道に、影を落とす存在を知って……。大人しくしていることなど、出来ませんでした」


 そういうと昔から良く見た、優しい表情をリヒト兄上はオレに向けてくれた。


「君の命を狙う者達だというのに……。無理をする。だが、他人に優しいのは変わらないね」

「無欲なくせに、自己犠牲が過ぎるんですよ。我が君は」


 いつの間にやら傍に来ていたアコールには、小言を言われる。


「なーに言ってんの、オレが来なかったらアコール大変だったでしょ!」

「いえ? 私とヒルデガルド殿がいれば問題なかったですね」

「はいはい、どうせ余計なことしましたよーー!」

「ヴァル。本当に、良かったのかい?」

「?」


 年下の弟をあやす兄の顔から、未来の君主として、国を憂う者としての表情へと変わる。


「これは私の予想だけどね。今回のことは、きっと……。父上なりに、君へ選択肢を与えたかったんだよ。君の母上が亡くなって、ずっと王家に縛られてきた君を。第二王子が光の魔法を覚えた途端、いなかった者として扱った。……父上は、王である前に、君の父だ。だから、君が望むなら、この場で(いかずち)の魔法を顕現させて、他国に君を王として認識させることも出来た」


「それは……」


「そうでなくとも、君がメーレンスを調査する旅に出るのを許してくれたのは、父上なりの愛情だったんだよ。王家の都合で君の人生を狂わせてしまった、……だから、君が王になったとしても、そうでなくても、どちらでも良かった。選んで、欲しかったんだと思うよ」


「選ぶ、自由。か」


「私もそう思います、貴方様がこの国でどう在ったとしても、助けてやって欲しいと。親書には、そのように書かれていたと思いますよ」


「父上……。あーあ、オレには何も言わないでさ~! 親子ってのは、……難しいな。分かりづれぇ」


 確かに、自分の過去の生い立ちとその後について、王家に尽くしてきたといっても過言がない。

 それがあの日、……一瞬にして覆ったことは今でも鮮明に覚えている。


 父のせい、だったのかもしれない。

 母のせい、だったのかもしれない。


 でも、オレは、誰のことも憎んでいない。

 もし、オレがほんとうに望まれてない者だったのだとしたら──。


「でも、父上も分かっていたんだと思うよ。腕のいい魔術師は勘が良いからね。母君がヴァルを身ごもった時、何かを感じとったんだと思うよ。でなきゃ、ヴァールハイト(真実の)ルース()なんて、名付けないさ」

「──あぁ、そうだよなぁ」


 きっと、光魔法の閃きと同じく、オレが宿った時に何かを感じたんだろう。

 そこに、王の光をみたことだろう。

 実際に生まれたオレは、母と同じ髪色をしていた。


 王家の血筋は、みな輝く金色の髪。

 普通であれば、今の立場ですらなかったはずだ。


 紛い物なオレだけが、生まれながらに光の属性を宿してしまった。

 でも。


 王としての強制もせず、それを諦めもさせなかったのは、愛情以外の何物でもないはずだ。


「あー、兄上。父上に言っておいてくれないか?」

「ん?」

「オレにとっての光とは、『王』ではなく、『友』だったようです。ってな」


 王になることは、オレにとって一種の希望だった。

 それを生きる目的として、教養も身に着け、身を守る術を身に着け、国を治める術を学んだ。

 

 それが無意味に終わった時、オレに残るものは果たして何だっただろう。


 『自分』という存在が、王になるべくして生まれたのだとしたら。


 人生とは、何だったのだろう。


 きっと、メーレンスに来なければ。

 これからも、虚無感と共に生きたことだろう。


 だが、ルカと出会って。


 統べる者としてではなく、純粋に一人の人間同士が対等に支え合うというのは、こんなに生きていることを実感出来るのかと。

 素直に、驚いた。


 身分も関係ない、火の魔法が使える、ただの魔法剣士。

 オレは、オレでいいのだと。


「そうか……。戻らないのか?」

「んーー。兄上が王太子になられた暁には、お祝いに参上いたしますよ♪」

「ふふ。なら、しっかり励まないとだな」

「兄上に……、光あれ」

「えーー! 我が君ばっかり、ずるいですよ! 私とてルカ君と旅したいんですが!」

「アコールはまだまだ残務処理あるでしょー。まだ第二王子派だって、全員把握してる訳じゃないんだからさー」

「リヒャルト殿下、我が君がひどいです!」

「ほんとだね。そうそう、アコール。ヴァルがいない間は私の手伝いをしてもらうからね」

「似た者兄弟だ……」

「兄上の周りを固めたら、合流すりゃいいじゃん?」

「簡単に言うんだから……」


 アコールには、相当苦労をかけたと思う。


 オレの素性は、王家とごく一部の臣下にしか知らされていない。

 見た目のこともあり、対外的には第三王子は居ない者とされている。


 そのため、第二王子派と思われる者には何度か命の危険にあわされた。


 そんな時、いつも助けてくれた存在だ。

 彼にも、いずれ恩を返せると良いのだが。


「──それはそうと、兄上! 聞いてくださいよー。仲良しの子が、ヴァルって呼んでくれないんですけど。どうしたら良いですかね~」

「ん? そのままで、良いんじゃないかい?」

「えー? なんか、距離置かれてるのかなって。ちょっとは信頼されたかなぁって思ってたんですけど」

「それはヴァルの考えでしょ。きっと、その人にとっては、他のところで信頼の証となる表現をしてくれていると思うよ。何も、愛称で呼ぶだけが、友ではないでしょう」

「……そっか。なら、イイや♪」


「ルカ君大変だなぁ。この人友達いないからなぁ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ