第二話 赤髪の剣士
それまで椅子に腰かけて傍観していた、赤い長髪が特徴的な剣士が話に割って入ってきた。
その鮮やかな髪色はギルドへ入ってすぐ目に映ったので、覚えていた。
すらりとした長身。
細身ながらも、剣士らしく筋肉は鍛え上げられた印象を受ける。
明るい髪色もさることながら、何より、整った顔立ちをしていた。
「その子、街に着いたばかりなんでしょ~? だったらゆっくりさせてあげていいんじゃない?」
誰が『その子』だ、僕はもう二十歳だ。
完全に私怨だが、剣士に正論を言われると何だか居心地がわるい。
飄々とした雰囲気は、どこか掴みどころがない青年だ。
「何だお前? そうは言うがまだ光の十二時──、体を休めるには早い時間だ。先に依頼を確保させてあげようって先輩冒険者の優しさが分からねぇか!」
「そうだそうだ!」
だから何でそう上から目線なんだ。
「ふーん。優しさねぇ……。オレにはこの子が今後依頼に困るようには見えないけど」
「……!」
この男、何者だ?
僕の素性を知っているとは思えないが、この街で実力をさらした覚えもない。
「どっからどう見ても、こんなひ弱な坊ちゃん。実力不足だろ!」
大人びた顔つきをしているとは自分でも思っていないが、そんな印象を与える見た目なのか。
魔術師とはいえ、体もある程度鍛えてはいるが体を覆う服装をしているためか判別しづらい。
坊ちゃん、と呼ばれるにはどうも抵抗がある。
「うんうん、いるよねーそういう、見た目で判断! なヒト。じゃあさぁ────」
──オレは、どう?
そう先輩冒険者の耳元で囁いた赤髪の男は、先程までの飄々とした雰囲気がなりを潜め、冷たい眼差しをしていた。
──殺気を放っている。
口元は笑みを浮かべているが、それすら恐ろしい。
「……っ!! ──ちっ、行くぞ、おめえら!」
がらりと雰囲気の変わった謎の男に気圧されて、絡んできた方の男はお供を連れ立ってギルドの外へ荒々しく扉を開け出て行った。
周りもほっとしたような、またかとでも言うような雰囲気だ。
「あー、行っちゃった。……余計なコトしたかな?」
ちらりとこちらを見遣った赤い髪の男は、笑いながら言った。
「いや……。助かった、礼を言う」
「ふむふむ、見た目は可愛い系だけど、随分大人びた話し方するんだなぁ」
「!?」
誰が、可愛い、だ。僕は男だ!
何だこいつは。
チャラいしズケズケものを言うし、剣士か!? 剣士だからなのか!?
「僕は男だが……。とにかく助かった。──それでは」
わけの分からん奴からは離れるに限る。
先程の件はしっかり謝意を伝えたし、もう良いだろう。
「えーーーー? せっかく知り合ったんだし、ちょっと話そうよ~! ねぇねぇ、名前は?」
「答える義務がない」
「あーあーつまらねぇやつぅ!」
何 な ん だ こ い つ は。
恐らくは年上だろうが、駄々っ子のようにしつこい。
何より剣士。
関わりたくない。
「オレはヴァルハイト! 実はオレも今日街に着いたばかりなんだよね~いやはや偶然!」
聞いてないし、勝手に名乗るし。
「はぁ…………。ルカだ」
「ルカ……?」
「?」
先に名乗られたので、名乗らないのも失礼だと思い返したが。
何やら驚かれた。
「──いや。良い名前だね!」
「はぁ」
どうにも掴みどころのない人物だ。
「ねぇねぇ、もし良かったらなんだけどさ。オレ今、二名以上推奨の依頼を受注して待機してるんだけど、一緒に受けない?」
あの男にはああ言ったのに、誘ってくるとは何事だ。
「先ほどゆっくりさせてあげれば、と言っていた者の言葉とは思えないな」
「あははー。まぁ、ね。でもルカちゃん、実力者かなって」
「誰がルカちゃんだ!!」
思わず大声をあげてしまった。
初対面でちゃん付け呼ばわりなんて、生まれて初めての経験だ。
「えー、いいじゃん。その方が何か仲良しだし」
「仲良くないし、初対面だ」
「けちー!」
「何とでも言え」
駄目だ、この男と話していると疲れる。
「ヴァルハイトと言ったか。その依頼、僕でなくともいいだろう」
持っていた依頼書を軽く読ませてもらえば、指定された魔物の討伐後・素材の納品。
数こそ八体だが、きちんと対応すれば一体一体の強さはそこまでない魔物だ。
「んーー。なんか、オレも魔術師と組む気全くなかったんだけど。……運命かなって!」
「はぁ?」
頭おかしいのか。
「いいじゃんいいじゃん、すぐ片付けて報酬で夜ご飯食べに行こうぜ!」
もうこれ以上話し続けるより、さっさと依頼をこなして解散した方がいい気がしてきた。
「夜ご飯は却下だ。依頼は……そこまで言うなら受けよう」
「えーー。街一緒に散策したいなー」
「勝手にしていろ」
何でか知らないが、あれだけ組みたくないと言っていた剣士と組むはめになってしまった。
さっさと終わらせてしまいたい。