第四十三話 閉幕
一連の首謀者と思われるリューゲン、クレーマー男爵、ヘクトールは捕縛され、メーレンスでの尋問が行われる予定だ。
本来であれば、謀反の罪にて即粛清されてもおかしくない。
だがこれは、ルーシェント国内にも関わる問題だった。
光の王家の継承問題。
それに翼の会やメーレンスの王宮魔術師が関わっているとなると、大事。
二国間が協力し、事件の全容を解明することが先決らしい。
それまで、処遇はおあずけということだ。
……もっとも、期限が延びたところで良い結果が待っているはずもないが。
「オレ、アコールとリヒャルト殿下と話してくるね~」
「ああ」
どうやらヴァルハイトは、王家の人間だったらしい。
その髪色からは全くもって予想出来なかったが。
なるほど、普段はふざけているがまれに垣間見る上品さや、僕さえも圧倒するその魔力を扱う能力。
王家の者であることが由来していたのであろう。
しかし、光の王家たる彼らの婚姻は血筋の近しい者と言っていたはず……。
あんなに見事な赤い髪、果たして縁者にいるのだろうか?
何か、特別な事情があるのかもしれない。
「──あ、オレがいないからって、泣いちゃダメだよ?」
「うれし泣きか?」
「ひーーどーーいーー!!」
「……ふっ」
「あーー!! 笑った、ルカちゃんが笑いましたよ皆さーん!!」
「~っ! さっさと行け!!」
相変わらず、調子が狂う奴だ。
…………
………
……
会場内には客人を護衛していた騎士団の者や、師匠の直接の部下である王宮魔術師が、リューゲンにそそのかされた魔術師たちを捕縛し、連行しているところだ。
魔法の爪痕が残り、祝宴の席とはほど遠いものとなってしまった。
「師匠」
連行される魔術師たちが、小さく悲鳴をあげながら通り過ぎる者の名を呼ぶ。
「──あら!! ルカ、怪我はない? ごめんなさいね、男爵と王宮魔術師へのお仕置きに忙しくて」
「ルミナスとは、誰だ?」
「「「!!」」」
その名を問えば、近くにいたエアバルド王とエリファスも反応した。
「リューゲンとやらが言っていた、以前師匠とパーティーを組んでいたこと。僕の、母親かもしれないということ。…………もう、この世には。いないということ」
「ルカ……」
「ルカ、正確に言えば私たちは貴方の母親を知っています。ですが、何も知らないんです」
「……?」
「ルミナス、いえ。ルナと、我々は呼んでいました。彼女は貴方と同じ、全属性で旅の仲間」
「だけど、バルドが王になってパーティーが解散してからのことは、私達も知らないの……でも」
師匠は、じっと僕の眼を真っ直ぐに見て、言った。
「ある日、屋敷の前に貴方が籠の中に入って置かれているのを見て、きっと。あの子の子供だわって、分かったの」
「彼女は旅の終盤、とある者と恋に落ちておりました。その者は……、双黒だったのです。センの森で初めてあなたを見た時、私は貴方と彼とを見間違ったほど、良く似ております」
「それが……父なのか」
「ルナは……、もう……」
「ルカよ」
エアバルド王が、僕へと声を掛ける。
普段であれば、畏れ多いことだ。
「はい」
「ルナは、その生い立ちを深くは語らなかったが……。もし、リューゲンが言うように、奴らの手に掛かったのだとしたら、そなたにもその危険があるやもしれん」
「っそれは……」
「ルカ、王は単属性だけれど、比類なき水魔法の使い手。魔眼であなたのことも分かっているのよ」
「! そう、そうだ。師匠は、知っていたのか……?」
「ええ。万が一、他の者の前で黒が視えた場合のことを考えて、協会に連れて行くには危険だと判断したの。だから私が、あなたの全属性の鑑定人として届け出た。……ただ、リューゲンや我々ほどの魔眼を使える者は、そういない。少なくとも王都で私は知らないわ」
「ちなみに私も視えますが、何と言うんでしょう。貴方の黒色は、……澄んでいますね」
「?」
「呪術のような穢れ、そう言った色ではなく。……夜空のような、そこにただ在って見守っているような。そんな色です」
「リューゲンに何言われたかは知らないけど、ルカはルカ。大切な、私と……ルナの息子よ」
いつも彼女から言われている言葉だが、どうしてだか今はこんなにも……切ない。
「魔族について、知りたいか?」
「は、はい」
「なら……、世界を見てくるといい。この世には、多種多様の種族が存在し、魔族もその一つだ。その存在に対して、様々な意見があるだろう。リューゲン達のようにな。……ただ、お前がどう思うか。先にそれを感じ取ってからでないと、易々と奴らのような流れに飲まれてしまうぞ」
「僕が、どう思うか──」
常々、僕は自分の意見というのは殺してきた。
双黒である以上、ただでさえ他人を怖がらせる。
だから、はみ出さないように。
なるべく、目立たず、周りに沿うように。
そう、無意識に生きる癖が身についていた。
「私が旅を勧めたのも、そういう理由よ。旅をすれば、そこには自分の判断が左右することばかり。……あなたの親のことも、何か手がかりがあるかもと、そう思って」
「正直、ルナが魔族だったのか、父親である彼がそうだったのか……。私達には分かりません。理由もなく仲間を魔眼で視たりしませんから。……ですが、例えどうであったとしても、彼女は大切な仲間です。……それはずっと、変わりませんよ」
今思い返せば、確かに不思議な点はいくつかあった。
魔法学校を修めてもいないのに、いやに早い段階から闇の魔法が使える。であるとか。
ソロのために少しは鍛えているとはいえ、ヴァルハイトのように剣といった重い得物を持たない僕が、彼とそう大差ない身体能力を持っているだとか。
……もしかしたら、片鱗は見えていたのかもしれない。