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第四十一話 魔術師の正体

「双黒、とは珍しいな」

「そうだろうな」


 ヴァルハイトが森の主へ対峙したあと、その彼を攻撃しようとしていたリューゲンを足止めした。


「悪いが、あの赤髪の剣士を生かしておいては目的が達しないらしい。……構っている暇はないんだが?」

「あいつは別件で忙しいんだ、僕で我慢してくれ」

「口の減らない……、そんな所もヒルデガルドに似ているな。まぁ、実の家族ではないんだろうが」

「だが、実力不足ではないぞ」


 血は繋がっていなくとも、実力者である師匠に遅れはとらない。

 そう自負する程に、僕は魔法への興味が尽きなかった。


「魔物とは違う、魔術師同士の戦い、か。……なるほど、確かに面白そうだ」

「ふむ。僕と考え方は違うようだが、魔法への探求心は同じらしい」

()()への、だ」

「そうか、どうやら……相成れないらしい」

「先程、そう、言っただろ!」


 言うと繰り出された火球は、詠唱破棄、おまけに『名』すらも唱えずに発現した。

 相当に精巧な魔力の操作を行える者、あるいは。


「魔道具か……?」


 で、あれば。


 火属性以外の三属性(トリプル)

 王宮魔術師の、第三席ともなればそのくらいだろう。


「打ち消せ──、水の槍(ヴァッサー・ランツェ)!」


 向かいくる三つの火球を迎える形で、水の魔法を同様に放った。


「ふむ。……もったいない。我らが理想郷であれば、良い地位を約束されたものを」

「理想郷ね……、恐らく女神の願いとは、ほど遠い理想郷だな」

「ほざけ! 土の槍(ラント・ランツェ)!」


 叫びながらも、今度は土の魔法。

 それらが足元で隆起し、僕を捕える。


 風の魔道具のおかげで動きも軽やかな僕は、すぐさま反応し避けることができた。

 ふむ……。やはり、魔法学校の生徒や一介の冒険者相手のようにはいかない……か。

 魔術師、というものを良く分かっている。

 詠唱や魔法を放つうえで必要なのは、意識の集中。魔力との対話だ。

 不意をついた攻撃、その場に留まることのできない攻撃というものには乱されるもの。

 ……なるほど、これも冒険者としての課題になるか。

 あらゆる戦況においても、同様の力を発揮する。

 それこそ、優れた魔術師といえよう。


 ならば、……次は攻めに転じるとするか。 


「今度はこちらから──、追撃する風の刃(ヴィント・コンカッセ)!」


 対象を、何度も切り刻む風の刃。

 範囲はそれほど広くないが、今は一対一。

 ねらいを絞れば、勢いというものは増す。

 それを受ければ、ただでは済まない。


「ほう……、土の盾(ラント・シルト)


 唱えたリューゲンの周りには、隆起した土がところ狭しと並び、次第に覆いつくした。

 奴の代わりに風の刃を受けることになったそれは、魔法が終わると同時、瓦解した。


 ──互角。


 実力的には、ほぼ変わらないだろう。

 だが、なぜか彼の顔は魔法を唱えるごとに驚きを見せた。


「なぜ……」

「?」

「なぜだ、なぜ。第三席である私と、渡り合えるのだ……?」


 それは確かにそうである。

 いくら魔法学校を主席で卒業したといっても、僕は二十歳。


 十数年研鑽を積んだだけで、見た目からして二倍ほど人生を生きてきたであろう者と大差がないのは、僕からしても……不思議だ。


 まぁ、旅にでるまでは実力を比較する者が師匠しかいなかったため、一般的な魔術師には負ける気はしない。

 だが、相手はその師匠とほぼ互角の者だ。

 ふむ……少しは成長、したか?


「双黒とは、それほどまで……」

「師匠に鍛えられただけな気はするが」

「いや、それを抜きにしても魔力の掌握に関しては、手放しに褒め称えよう。──だが!」


 そういうと、奴の目元に魔力が集中した。


「対魔術師という点では、相手が悪かったな」

「……!」


 僕ですら発動に時間の要る『魔眼』。

 それを一瞬で発動させた。

 確かに、魔術師として相手を『視る』ことが出来る点では、僕に不利だろう。


「知っているか? 人が己の属性を知る魔道具。生まれた時に女神の教会で儀式として行われるそれは、この魔眼でも視ることが出来るのだと」


 僕の旅の目的の一つ、魔眼で相手の属性を視る。


 感じる、とは違う繊細さを求められるそれは、シェーン・メレで行ったような『物』に対してではなく、生物である『人』に対して行うという機会はなかなかない。


 そのため、魔物で練習をして旅の道中に会得できればいいと思っていたが。

 未だ、戦闘中に魔眼を発動するには修行が足りていない。


 いや、そもそも扱う魔力量が多いのも理由の一つだろう。


 己の内に、全ての属性が宿り、その力が強大であることは分かっている。

 それ故、御すことが一番の鍵だ。

 その技術が、僕は……リューゲンに追いついていないのだろう。


「青、緑……、それ以外に何色が見えるんだろうな?」


 自分を見透かされるようで、何やら気持ちがわるい。


「黄、赤、ほう、全属性(マスター)……。む?」


 もう答えは分かったのだから、驚く要素などないはずだが。


「もういいか?」

「そんなバカな……、ことが。いや、だが……」

「……?」


 何やら一人、問答を繰り広げている。


「お前は、まさか────、魔族か!?」



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