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第三十五話 パーティ当日

「はぁ……」

「全く。エルフ使いの荒い人ですね、ヒルダは」


 さすがに二人では、クレーマー男爵の持っているであろう在庫と同等の数を作ることは出来ないが、そもそもパーティ会場に全ての在庫を持って来ることは無いはずなので、おおよそ二箱分のポーションを精製した。


 薬草学の権威でもあるのが、こんなところで役立ったのは師匠も予想外だったろう、おかげで何とか作れた。

 寝不足ではあるが、まぁ……その分良く寝たヴァルハイトが働くはずだ。


「いやー、ごめん! オレ単属性(シングル)だから一人だけ気持ちよく寝ちゃった♪」

「その分きっちり働けよ」

「分かってるって!」


 ヴァルハイトは、ルーシェント側に存在がバレないよう城の警備に紛れて潜入する。

 第二王子派のみならず、まとめて疑惑の奴らを掃討するには、第一王子派にもバレない方が都合が良い。

 そのため、頭全体と口元までを覆う装備のようだ。

 

 一応、名目上はグランツ公爵家の警護担当とするようだが、師匠は王とシュナイダー伯爵を、義兄上は招待客を守るための指揮を執る。実質僕と、義父上が出席だ。


 いつも師匠は母だ、母だ、と言ってはいるが、実際のところ籍としては義姉にあたる。

 しかしほぼ王都で過ごしたため、育てられたのは確かに師匠になる。

 彼女はずっと、母親のつもりで接してくれているのだ。


「では、私は伯爵のお宅へお伺いします。お二人とも、くれぐれも気を付けて」


 エリファスは当初の予定通り、シュナイダー伯爵の奥方の解呪へ向かう。


「あぁ、世話になった」

「色々ありがとうございましたー!」

「それでは、()()


 彼もやるべきことをやる。

 師匠も、義兄上とすでに王の元へ僕らが持ってきた情報と、今朝完成した代替用のポーションと共に在る。

 僕らは僕らで、しっかりとやり遂げねばなるまい。


「ルカちゃんって、本当に魔術師なんだね~」


 僕は今、メーレンス国内で『魔術師』を名乗る者なら皆持っている、魔術師としての正装に身を包んでいる。

 魔法学校を卒業する際、魔術師の称号と、ローブをもらえる。


 現在では一般的に魔法を使える者も、魔術師と名乗る者もいるが、厳密に称号として名乗れるのは魔法学校できちんと修めた者だけだ。


「いつもそう言ってるだろ」

「いやー、なんか魔術師よりもっとすごい何かかと思ってた!」

「なんだそれは……」


 相変わらず、良く分からんことを言う。


「お前も、なかなかお似合いだぞ?」

「あーー! ひっどい、絶対思ってないでしょ! オレの美しい顔が見れなくて、残念だね~?」

「いや、全く」

「キイー! 守ってあげないんだから!」

「問題ない」

「それも……そう、だね?」

「はぁ」


 やはりというか、相変わらず元気だ。


「……義父上とは別行動だが、師匠が事情は話してある。まぁ、公爵家の迷惑にならない程度に、やるぞ」

「おお、何かワクワクしてきた! してきた、よね?」

「しないが」

「ノリがわるいなー」

「なんなんだ……」


 ヴァルハイトなりに緊張を和らげてくれているのだろうか。

 だとしたら別段普段と変わらずに臨んでいる。

 気にしなくていいものだが。


「ところで、お前の配下はどうなってるんだ?」


 クレーマー男爵の商会が所有する、倉庫や屋敷をすでに調べ終え、ポーションを押さえているらしい。

 エアバルド王に命を受けた際、情報を得たのであろうが。

 ここは他国、どうも手際が良い。


「んー? まぁ、強いしエルンスト殿が兵も派遣してくれるみたいだし。大丈夫じゃない?」

「随分軽いな」

「まーね! 何度も命助けられてるからなぁ。信頼、してる」

「────そうか、ならいいんだが」


 今のは深く聞いた方が良かったのだろうか。

 何分、人付き合いというものの経験に乏しい。


 こういう時、何と声を掛けたら良いか分からない。


「よーし、レッツゴー!」

「はぁ」



 ◇



 エアバルド王が即位して、丁度二十周年。

 それを記念したパーティは、王宮の一角である庭園で行われる。


 王都中がお祝いムードで、そこかしこで出店や催しがされているが、今この会場に居るのは主に国の中枢を担う者たちや、貴族、諸外国からのお祝いの品と言葉を届ける使者たちだ。


 そして、友好国であるルーシェントからは、第一王子リヒャルト・ソーン・フォン・ルーシェント殿下が国の代表としてお見えだ。


 事情を聞く限りは、王としても国と国との繋がりの場に、第一王子を任せることで、他の国へ次代の王を印象付けたいのだろう。


 遠くからでもその所作は洗練されている。

 談笑する姿、一つとっても次代の王と呼んで差し支えないだろう。


 時間がないとはいえ、ぜひとも光の魔法を顕現してもらいたいものだ。


「さすが光の王家。金の髪が麗しいな」


 金の美しい髪を緩く結った御仁。

 ヴァルハイトのように整った顔立ちをしているが、雰囲気は温和で聡明な印象だ。


「でしょー!? リヒャルトあ……殿下って本当……優しいだけじゃなくって、頭イイし、見た目もイイし? オレらも着いていきたくなるんだよねー」

「ほう、お前がそこまで言うなら……そうなんだろうな」

「うん♪」


 頭と口を覆う防具のせいで、くぐもって聞こえるのが若干おどけて聞こえる。


「ルカちゃんは、挨拶とかしなくてイイのー?」

「……僕はあまり、屋敷を出歩かなかったし、来客がいる際も挨拶をしてこなかったからな。……まぁ、黒持ちでおまけに実子ではないから、公爵家にとって余計な不安材料を外に出したくないというのもあったな」

「なるほどなるほど……」

「魔法学校を首席で卒業した、という事の方が知られているんじゃないか? だから僕に対する評価はあくまで『魔術師』だろう」

「ふーん、そういうものなんだ」

「わずらわしくなくて、大変結構。……それにしても、特に異常はないな」


 会場を見渡せば、特別気になる点はなかった。

 義兄上の指示で、各国の使者には十分な騎士が周囲を警護しているようだし、師匠は遠くて姿はハッキリ見えないがエアバルド王やシュナイダー伯爵ら高位貴族と共に居るだろう。


 王宮魔術師も警護に出ているようだが、騎士と比較すれば少ない様だ。

 

 そう考えていると、会場内で演奏されていた音楽の雰囲気が変わる。


「そろそろか?」

「ん?」


 各国からの使者より、自国の代表の言葉と共に贈り物がおくられる。

 そして、それがルーシェントの番に近付くにつれ、僕らが目を付けている奴らが動くはずだ。


 さすが友好国だけある。

 並んでいる順番的に、一番最後のようだ。


 別の国の番が終わる度、盛大な拍手が沸き起こる。

 僕らもそれにならいつつ、異変がないかを終始会場内に目を光らせた。


 ──すると。


「……ヴァルハイト、あいつは?」


 怪しまれない様、小声でやり取りをする。

 僕らは特別挨拶をするような人物も居ないので、会場の端を陣取っていた。


 そして、そんな僕らと同じ様に、妙に隅でやり取りをしている二人が居た。


「あー、出た出た。ヘクトールじゃん。……となりが、クレーマー男爵って人?」

「いや……? 男爵はもう少しふくよかな男性だった気が……」

「んじゃぁ、誰だ?」

「まさか……」


 翼の会と関係のあるやつか?


 確かに、あの服装は王宮魔術師の正装のようだが……。


「師匠より席が上の王宮魔術師は魔法学校で教鞭をとっていないからな、僕が知らないとなると……」


 第一席は、その名が永遠に変わることのない高名な魔術師。


 次席から第五席までで構成される筆頭魔術師。

 その中でも、師匠と同等もしくは更に権力がある者とすれば……。


 次席、エルマー殿。師匠の事実上、上司にあたる。


 第三席、リューゲン殿。師匠のほぼ同期で実力も拮抗。


 この二人に絞られるだろう。

 どちらか分かればハッキリするが、如何せん今の状況で他の者に探りを入れれば、僕らの方が怪しまれる。


 その時を、待つ他ない。


「お、ヘクトール動いたね~」

「互いに離れたな」


 こそこそと何事もなかったかのように、二人の男は離れていった。


 そのままヘクトールは第一王子の傍へと戻る。

 王と祝する者に注目が集まっている会場では、特別怪しまれる要素もないだろう。


 ……事前に何も掴んでいない者からすれば、だが。


「次だねっ」

「あぁ。……お前の配下が上手くやってくれていると良いが」

「ルカちゃんってば、心配性だなぁ。大丈夫だって!」

「お前が軽すぎるんだ……」


 状況が状況だけに、さすがの僕でも不安は残る。

 手筈的にはこうだ。


 ヴァルハイトの配下が、すり替えのためにここへ運ぶ者たちを、騎士団と共に拘束。

 そいつらに成り替わり、僕らが作ったポーションをルーシェント側の元へ。

 本来の呪術が掛けられたものを、師匠の元へ。


 それが出揃い次第、師匠がどうにかすると言っていた。


 一体どうするかは、恐ろしくて聞けなかったが。

 なんでも、合図はクレーマー男爵が上機嫌で会場に入ってきたら、とのことだ。

 どういうことなんだ……。


「おっ、何か知らんけど上機嫌なおじさん発見♪」

「はぁ?」


 そんな訳ないだろう、とそちらを見ればまさしくクレーマー男爵であった。


「どういうことなんだ……」

「自分が待っていたモノが届いたんじゃない?」


 なるほど。


 合図というのは、ルーシェント側が持つポーションの所在を知っているクレーマー男爵が、自分の用意したすり替え用が届いたことを確認し、成功して機嫌良くなっているということか。


 クレーマー男爵が普段から、よほど喜怒哀楽のハッキリとした人間だと言うことがうかがい知れた。


「魔術師を手当たり次第集めるからこうなるんだ」


 運び手であった者は、パーティには出席しない者。

 つまり、クレーマー男爵の雇っているならず者達。

 そのうえ運ぶ荷がポーションであれば、何かあった時のために魔力の強い魔術師に任せた方が良い。

 そうなると、ほとんどの者はローブを身に纏っている。


 おまけに、実力があればある程、この会場に元の雇い主が居るかもしれない。

 全身を覆うローブを着ていても、何らおかしくない。


「あいつ、上手く変装出来てるかな~♪」

「……始まったな」


 王の側に出来ていた順番待ちの列は、気付けば残り一組となっていた。

 リヒャルト王子殿下と、ヘクトール。


 エアバルド王と、殿下は何やら和んだ様子で話している。

 それを見てなのか、何なのか、ヘクトールは嫌な笑みを浮かべていた。

 気味が悪い。


 更に気付けばその近くには、クレーマー男爵も控えている。

 男爵自身は、特別何かを王へと献上はしないのか。


 そして、二人のやり取りを微笑んで見守っていたヘクトールは、声高々に祝いの言葉を発した。


「──ここに!! 二国間の素晴らしき友情の証として!! 我がルーシェントによって作られた、ハイ・ポーションを、偉大なるエアバルド・フォン・メーレンス王へとお贈り致します!!」


 宣言後、先程ご機嫌な男爵が出てきた奥の通路から、布に掛けられた物が運ばれてきた。


「どうぞ、御収めくださいませ!!!!」


 合図と共に除けられた布が、綺麗にすり落ちた。


「おお!」

「さすが、ルーシェントね」

「こんなに一度に、ハイ・ポーションが見れるなんて……。綺麗だわ」


 水薬の原料の違いではないため色の違いもなく、魔眼の使えない周りの者たちは貴重なハイ・ポーションが一度に贈られる様を見て、一様に驚いた。


 対照的に随分と楽しそうなクレーマー男爵と、ヘクトール。

 おまけに師匠。


 しかし、一人だけ明らかに青ざめた顔をした人物がいた。


「やはり、王宮魔術師だったか」


 先程ヘクトールとこっそり話し合っていた人物。

 魔眼を使えることからも、恐らくはかなりの手練れだ。


「……そろそろかな♪」

「?」


 すぐ隣にも、楽しそうな人物が居た。




「────お待ちください!」


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