第二十八話 センの森 その一
シェーン・メレを出る際、検問では特に問題がなかった。
だが今、別の問題に直面している。
「これは……」
中央にある湖を囲むように森が広がるダンジョン、通称『センの森』へとやってきたのだが。
入り口から一直線に道を駆けていると、この場所に似つかわしくないものが目に入ってきた。
「轍……、ダンジョンに馬車で来る冒険者がいるのかな? まー通り抜けるのが目的なら固定パーティーだと有り得るのか、な」
「まだ新しいのが気になるな」
シェーン・メレ周辺のダンジョンを特別調べたことはないが、この街に高位ランクのパーティーが来ていないのは検問の者が言っていた。
高位ランクというのは、固定パーティーであることが多い。
つまり、この馬車の持ち主は個人で所有していることになる。
それほど景気の良い冒険者がいるかは知らないが、このダンジョンの主はまだ倒された報告はない。
依頼を受けて、護衛に来た冒険者でもないはずだ。
「どうする?」
「僕たちは通り抜けるのが目的だからな。馬車すら持って来るなら、用意もきちんと出来ている冒険者だろう。気に掛ける必要もない」
「そうだねー、先を急ごうか」
ダンジョンが攻略目的なら、ギルドへ入場を申請しているはずだ。
僕らが気に掛けなくとも、誰かしらが把握している。
「幻惑の森とは違って、何か……。神聖? だねー」
「確かにな。何となく空気が澄んでいて、ダンジョンとは思えないな」
しかしギルドがダンジョンと位置付けているのだから、魔物はいるだろう。
気を引き締めて先を進む。
風の魔道具のおかげで相変わらず体は軽やかだが、それにしたって森は広い。
今日中に王都へ着かねばならないため、休憩も最小限に留めたかった。
「----ルカちゃん!」
「な、何だこれは……」
王都の方角へと伸びている道なりに進み、少しひらけた場所に出た。
そこに転がっていたのはーー。
「あのポーションか!?」
馬車の残骸と共に、割れた小瓶が地面に数多く転がっていた。
人は見当たらないため、魔物に襲われて逃げたのだろう。
「まさか、正規のルートだけでなくダンジョンを通って荷を運ばせていたのか? だとしたら、確信犯だな。冒険者を金で雇ったんだろう」
「次の街にルーシェント王の配下が居ると想定したのかな? 用意周到だねぇ」
「だが、魔物に襲われてはな。ハイ・ポーションでないとバレないよう、Cランク以下の冒険者を雇ったのかもしれないが……。仇となったな」
「自業自得だなー。荷も人も、大事にしてればこんなことにならないのに~」
「そうだな。……森の環境を壊す訳にもいかん。収納魔法に入れておくか」
「あ!!」
「どうした?」
声をあげるヴァルハイトを見れば、一つだけ無傷の物があったようだ。
「ふむ……、やはり青系統だな」
やはり偽ハイ・ポーションで間違いない。
普通のポーションなら、こんなダンジョンを突っ切って運ばず、きちんとしたルートで大事に運ぶはずだ。
「----そこに居るのは、誰です」
「「!!」」