第二十六話【別視点】ヒルデガルド様の憂鬱
先刻、夜中だというのに弟子こと息子から紙切れ一枚が闇魔法で届いた。
何でも、『今からクレーマー男爵と繋がる魔術師を送る』とのこと。
旅に出て、どうしているか心配していたところにこんな連絡よこすなんて。
まぁ、あの子らしいと言えばあの子らしいけど。
「はぁ~~~~」
盛大なため息をつく。
それも仕方ない。もっと近況とか、仲間が出来たーー!とか。
そういうことが、聞きたかったな。
目の前に闇が展開され、予告のあった『人』が届けられる。
わざわざ寝室から出て、場所を移し、夜待機している使用人に衛兵を呼んでもらった。
受け入れ体制は整っている。
「さあて、どの子かしら」
総勢六人。
その内明らかに魔法を専門としている風な男が一人。
「こ、ここは……?」
「ーーどこだ?」
「闇とは、恐ろしい……」
「はぁい、貴方たち。こんな真夜中にご苦労様?」
全く労っていない言葉を掛ければ、一人、魔術師の男がおののいた。
「あ、貴女は……!?」
「あらぁ、私のことが分かるのね? ……詳しく話、聞きたいわ?」
冷めた目で言い放てば、男は観念したように項垂れた。
だが。
「何だてめぇ!?」
「お、おやめなさい。その方の機嫌を損ねてはーー」
「何だ、女か? あいつ等の仲間なら、ぶっ殺してやる」
「--ですか」
静かな怒りを込める。
「貴方たちに!! 弟子からの初めての贈り物が『人』だった時の気持ち……分かるもんですか!!!!」
ありったけの、静かな怒りを込めて言うと男たちの周りを魔法がドーム状に取り囲んだ。
「うわ、何だ!?」
「これは……」
「ちっ、邪魔だ!」
一人の男が魔道具だろうか。
風の魔法を放つ。
「いってええええ!!」
案の定、跳ね返った風の魔法は別の男へと刃となって到達した。
「ーーおやめなさいっ! これは、光の高等魔法。外からは一切の攻撃を受け付けない代わりに、中の魔法は全て吸収もしくは反射する……光の性質を用いた魔法ですね」
冷静に分析し、こちらを見てくる。
ようやく、はっきりとその顔が見えた。
「さすが、その顔はトリスタンね。シュナイダー伯爵のお抱え魔術師だったと記憶しているけれど?」
「さすがは……ヒルデガルド様。良くご存じで」
「ひ、ヒルデガルド!? 王宮魔術師のグランツ公爵令嬢か!?」
「なるほど、あの双黒の魔術師は貴方の弟子でしたか。納得がいきました」
「ふふ、そうでしょう。あの子はすごいのよ!!」
「な、何だこの女……」
「しっ。私たちに逃げ場はありませんよ。魔法も使えなければ、外にはすでに兵も配しているでしょう。機嫌を損ねてはなりません」
それからというもの、ルカの素晴らしさと可愛さを延々と聞かせたのち、ぐったりとしてきた所で問い掛けた。
「貴方たちがクレーマー男爵と通じて何かしているのは分かっているのよ。少しでも後悔しているのなら、私に情報を提供しなさい。お金で雇われているのは分かっているから、減刑してもらえるよう働きかけれるわ」
「さあて、肝心なことは何も聞かされていませんからねぇ」
「ふうん、そうなの。じゃぁ、じっくり聞かせてもらうわね」
そう言いながらも私は部屋を出、衛兵に見張りを代わってもらう。
食事の回数を制限し、他の情報をちらつかせて揺さぶりを掛けてはみる。
でも、トリスタンの言うように末端の者には核心は話していないのが事実でしょうね。
もう一つの記述、『二日後までには戻る』を信じて、こちらはやるべきことをやるのみ。
「即位記念パーティか……。諸外国も巻き込むつもりね。本当、愚かだわ」
それに金を使って魔術師を巻き込むことへも、苛立っていた。
「クレーマー男爵、覚えておきなさいよ。魔術師を物として扱うこと、後悔させてやるわ」