第二十五話 一石二鳥
「双黒の……魔術師!」
「やぁ、先程振りだな」
この二日間、良く見た顔の魔術師は驚きに満ちていた。
「ルカちゃん、……なんで?」
「お前の考えはなんとなく読めたからな。寝る前に仕込んでおいた」
そう言って胸元をとんとん、と叩けばヴァルハイトは何かに気付いた顔を見せた。
「言っておくが、僕を巻き込まないというお前の優しさはありがたいし、一つの解だろう。だが、勝手に巻き込まれに来る、というのは僕の自由だろう? お前の領分ではない」
「ルカちゃん……」
「ええい、ごちゃごちゃとうるさい。二人揃って死になさい!!」
「ーー相手の力量すら推し量れないとはな」
ヴァルハイトが僕に近付く前衛を相手する。
その隙に、即座に詠唱を唱えた。
鞄に付けた魔石が光る。
『我が名はルカ、闇を紡ぐ者。我を始まり、ヒルデガルドを終として、彼の者達を誘いたまえ』
「闇魔法ですって!? お前達、はなれーー」
「遅いぞ」
詠唱が終わると同時、僕の足元から瞬く間に広がる闇は、ヴァルハイトだけを綺麗に避け、ならず者と魔術師を捉え取り込んだ。
真夜中とはいえ、肉眼では倉庫や地面、階段などが見える。
だが、闇に覆われたところは、漆黒。
存在すら否定するような、純粋な闇だ。
「うわああああ!!!!」
「な、何だこれは!?」
「魔力が……吸われる!?」
魔法を使って逃げようとした魔術師にも、闇は容赦なく覆い尽くした。
全てを飲み込んだ闇は、役目を終えた途端、きれいに消え去った。
辺りは、元の静寂を取り戻した。
「ふぅ……、さすがに疲れたな」
普段は魔力量もありなんなく魔法を使うが、さすがに闇魔法の魔力使用量は半端ではない。
魔石の力を借りて、その場に座り込むほど消耗した。
「ルカちゃん、今のは……?」
「喜べ、名を奉ずる僕のフル詠唱は珍しいぞ」
「確かに? いや、そうなんだけどさ!」
「……ここに来る前に魔力を練っておいた。普通はあんなに早く顕現しないさ。おまけに魔石の力を借りてもこのザマだ。まだまだ修行が必要だな」
「何かヒルデガルド殿の名前が聞こえたけど……?」
「あぁ、僕が旅に出る時に師匠へ腕輪の魔道具をプレゼントしたんだ。ブランクだったから闇の魔法を付与した。……手紙の一つでも送ってやれれば良いかと思っていたんだが、まさか人を送ることになるとはな」
収納魔法の要領で、まず僕が闇と化した魔法を放ち対象を捉え取り込ませる。
普段は元の入り口ーー僕がまた取り出すため闇が保有しているが、出口を指定してやればすぐに吐き出される。
その出口となるよう、師匠の魔道具へ魔法を付与した。
まぁ、術者自身は送れないが。
「へえぇぇ、そんなの聞いたことないなぁ~。さすがルカちゃん!」
「ふむ。さきほど事前に紙切れに用件は書いておいたが、さすがに彼女も驚くだろうな」
「クレーマー男爵の雇われ者送るよ~って?」
「そうだ、彼女は王宮魔術師でもあり、魔法学校の教師も務めている。自称魔術師でもない限りは、彼女も知った顔だろう。記憶力が驚くほどいいからな」
「へぇ。初めての弟子からの贈り物が、自分が調べている件に関係するなんて。一石二鳥だね♪」
「前向きだな……」
さすがに初めての贈り物が人なのはどうかと思うが。
一応、親孝行も兼ねれた訳だし、いいとしよう。
「ここのポーション、このままで良いかな?」
「あぁ、少なくとも商会に雇われていた検品魔術師がいなくなったからな。配送の指示を出す者もいないはず。商業ギルドには悪いが、しばらくここで止まるだろう」
「なら、オレに任せてよ♪」
「?」
「明日、朝一で商業ギルドへ行こーー!」
「あ、あぁ。任せる」
何やら今度は、ヴァルハイトに考えがあるらしい。
あちらを立てれば、こちらが立つ。
剣士と相性が良いなんて、本当どうかしている。
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