第二十四話【別視点】剣士と攻防
相変わらず、無茶をする。
ルカの作戦を聞けば、自分を囮にして敵をあぶりだすと言う。
オレが言えたことではないが、中々言い出せることではないはずだ。
だが作戦が功を成したのか、二回目の依頼を受け、商業ギルドで報酬を得て外に出れば、早速相手さんはオレ達を監視下に置いたようだ。
そこかしこに視線を感じた。
クレーマー男爵とやらは金でならず者を雇っていると聞く。
実力者もいるにはいるだろうが、恐らく三日後に備え王都に召集しているだろう。
しん、とした夜の街。
外で夕食をとり、宿へと戻ったオレ達は寝床についた。
ルカはすやすや眠っている最中。
音をたてないよう、細心の注意を払って外へ出た。
足音を殺す術を身に着けたのが、こんな時に役立つとは。
自嘲しながら目的の場所へ向かった。
◇
同じ日に二回来るとは思っていなかった。
依頼で荷を運んだ先の倉庫。
ルカはああ言ったが、やはりオレの事情に付き合わせて命を狙われるようなことは避けたかった。
監視下に置いたのは、ポーションの秘密が漏れないか。それに尽きる。
なら、その対象がポーションへと近付けば?
答えは簡単だ。
「待て、それ以上近付けば命はないぞ」
倉庫へわざとらしく近付けば、案の定監視者が声をかけてきた。
「へぇ? 何で?」
「自分に聞いてみたらどうだ」
「ふーん、そうやって、他の真相に近付いた冒険者も排除してきたの~?」
「!? なるほど、生かしてはおけないか。おい、仕事だ」
ルカがまだ魔眼を使えるか定かでない時点で監視を付けてきた。
だったら、これまでに魔眼が使えたり、ハイ・ポーションかどうか疑問に思った者がいたら。
あくまで予想だったが、合っていたようだ。
吐き気がする。
「おーー、結構いるなぁ」
「余裕ぶっていられるのも今の内だぞ」
恐らくリーダー格の男は、話をつける役目。
それ以外の者は全員戦闘員といったところだろう。物騒な武器を構えていた。
街中であるからか、はたまた数が少ないからか、魔術師は居ないようだ。
「んー。オレが死ぬとあんたらが困ることになるんだけど……、オレが誰だか分かんないよね?」
「何を言っているんだ。冒険者だろう」
「ならいいや♪」
ルーシェントの、第二王子派から直接派遣された者ならばオレが誰かを知っている者もいるだろう。
少なくともここにいる五人は、クレーマー男爵の直接の配下のようだ。
「死んで後悔するんだな」
「やってみればーー?」
おちょくるように言えば、リーダー格の男以外の内二人が斬りかかってきた。
ルカのくれた、風の魔道具のおかげか身が軽く簡単に避けれる。
「こいつっーー!」
「んじゃぁ、こっちから~」
片方の男が反動でよろけた所を、蹴り飛ばす。
当たりが良かったのか、寝たまま悶えている。
「一人♪」
「てめぇ!」
もう一人の男はすぐ体制を立て直し、再び斬りかかってくる。
それすらもいなし、横から首元を蹴り飛ばした。
「二人~」
「ちっ、使えねぇ。所詮素人か」
いや、あんたもでしょ。というのは言わないでおいた。
存在がオレに露見していた時点で、全員オレから見れば素人だ。
「三人でかかってくれば?」
「いや、四人だ」
「!」
そう言う男の後ろから、水の槍が飛んでくる。
「あっぶないなーー」
その姿はこの二日間、良く目にしたものだ。
「全く……、双黒の魔術師が来たかと思ったら、剣士の方でしたか。あちらが来れば今日で懸念も消えたのに……」
「まさかこんな悪徳魔術師が検品してるとは、商業ギルドも思わないよなーー」
「うるさいですね、己の好奇心を呪って死になさい」
水属性か。
オレの火の魔法だと夜は目立つし、相性もわるいんだよなぁ。
先にやっちまうか。
「まぁオレが死んでもあんたらヤバイんだけど……、相手に刃を向けるなら、その覚悟はあるんだろうな?」
「ほう、何のです?」
「ーー自分も死ぬって、覚悟だよ!!」
そう言って地面を蹴った。
普段より格段に増したスピードは、男たちを驚かせた。
魔術師はリーダー格の男のうしろに居るため、まずは横二人を上手いこと躱す。
向かってきた二人を難なく躱すと、勢いついた二人同士がぶつかり合った。
その先、リーダー格の男はオレに向かって手をかざす。
「魔道具か……!」
途端、風が刃のように駆けた。
すんでのところで避けると、その後ろには水の槍が控える。
「あっぶねぇなぁ!」
「それはそれは、良いことです」
思う様に近づけない。
先に魔術師をやるかと思ったが、それには他三人を突破しなければならない。
逆に他三人を相手にすれば、魔術師の思う壺だ。
「あーー面倒ーー」
「降参か?」
「まさか」
少し目立つかもしれないが、炎の魔法で前衛を片付け一気に魔術師に剣を向けるしかない。
最悪、街の者に見付かれば自分の権限を使う。
こんなに早く使うことになるとは思っていなかったが、仕方ない。
「っ!」
そう考えていると、後ろから殺気がした。
蹴り飛ばした二人の内一人が身を起こし、剣を振りかぶる。
「ほらほら、諦めたらどうです」
「うるせぇなぁ!」
いちいちおちょくるのが勘に触る魔術師だ!
だが、背後を取られているとなると先程の方法は使えない。
「やるしかねぇか……」
出来れば残しておきたかった切り札。
しかしルカは居ない、それだけが幸いだ。
「こいよ!」
「そんなに死にたいなら……、望み通りに!!」
三人が一斉にこちらへ駆け、二人が水と風の魔法を同時に撃った。
「--!!」
途端、オレの周りを風の魔法が渦巻いた。
身を傷付けることのないそれは、まさに風の盾だ。
相手の風魔法を一蹴し、水の魔法は霧散した。
余程強い魔力。
もちろん前衛三人は近づけない。
「こんな真夜中に散歩とは、随分と寝つきが悪いな、ヴァルハイト?」
「ル、ルカちゃん……!!」
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