第二十三話 双黒の魔術師
翌日。
あの後報酬を商業ギルドで受け取り、僕の考えを宿で共有し、食事を終えしっかりと休んだ。
男爵や第二王子派の思惑が、少なからず予想出来た今、後手に回っては危険だ。
今日はそれを加味した上で、同じ依頼を受けた。
「それでは、昨日と同じ者が港におりますので指示を受けてください」
「はーい♪」
商業ギルドで受付を終え、再び港へ舞い戻った。
要領は得ている。
昨日と違うのはーーーー。
「あ、昨日の……! 魔術師様、黒持ちの方だったんですね!」
「あぁ、怖がらせるかと思ってな。フードを被っていた」
「いえいえそんな、港には魔術師様よりも力自慢の前衛職の方が多いですからね。お目に掛かれてうれしいですよ」
今日は考えもあり、フードを外していた。
「そうなの♪ ルカちゃん、すっごい強いんだよ~」
「へぇ、そうなんですね! 魔眼も使えるので?」
「さぁ、どうだろうな」
「なるほど、冒険者たる者そうそう手の内は明かせませんよね!」
「照れてるだけだよー♪」
「うるさいぞ」
昨日も指示を受けた商業ギルドの職員が、良い方に勘違いをしてくれた。
「もう少しだと思うんですが、またルーシェントから荷が来ますからね。同じ倉庫へ運んでください」
「はーい!」
「分かった」
そう言うと、昨日とはまた違う冒険者の指導をしに行った。
「わざわざ冒険者を雇ってるのって、何でかなぁ」
「さぁな、金で何とでもなるとか思ってるんじゃないか?」
「あーー。そのままお抱えになるパターンか」
「それに昨日の魔術師も言っていたが、荷が怪しまれそうになれば別の依頼を斡旋しているんじゃないか?」
「そう言えばルカちゃんが今日も来るって言ったら、別の依頼受けさせようとしてたもんね」
「そう考えると確かに冒険者の方が良いんだろうな。これが商業ギルドの職員なら、毎日検品の様子を見ている内いつか疑問を持つかもしれないしな」
商業ギルドの者の中には、もしかすれば魔力が高い者が居るかもしれない。
さすがに現在居る職員のことはクレーマー男爵も把握はしているだろうが。
「あ、来た~」
そうこうしていると、前方に積み荷を乗せた船が見えてきた。
「魔術師様、何て言うか楽しみだなー♪」
「またお前は……」
相変わらずヴァルハイトは緊張感もなく言った。
◇
「そ、双黒の方だったとは……」
やはり、というか昨日の検品魔術師は僕の髪と眼の色を見て驚いていた。
「不都合だったか?」
「い、いえ。シェーン・メレには前衛職の方が多いもので……、驚いただけですよ」
相変わらず嘘が下手な様子で言った。
「それで? 今日はどうなんだ、ハイ・ポーションなのか?」
わざわざ『今日は』と言ってやると、魔術師はぐっと言葉を詰まらせた。
「えー? 魔眼、使えるって言ってたよね?」
ヴァルハイトも追い打ちをかける。
「きょ、今日はポーションですね。さ……さすがに毎日貴重なハイ・ポーションが入荷する訳ではないので……」
「そうか、それは良かった」
色々な含みを込めて言うと、魔術師はさすがに理解したのだろう。
視線を泳がせながら、答える。
昨日と同じく魔術師は僕らを倉庫へなるべく留まらないよう荷を運ぶことだけを促し、全ての荷を倉庫へ運び終えた。
「で、では今日は以上です。私はこれで……」
昨日よりも急ぎ足で倉庫を後にした。
「さて、どう出るかな?」
「明日街を出た後が勝負かな~」
ポーションは既に取引を経てクレーマー男爵の物になっている。
それをどうこうする事は出来ない。
なので、僕達はこの街でクレーマー男爵の息のかかっている者をあぶりだすことにした。
普通に商会に勤めているだけの者には、僕が双黒の魔術師であっても何ら疑問は抱かないだろう。
だが、黒持ちである僕が魔眼を使えたら……。
そう思う、一部の者には、僕の存在は不都合だ。
街中で手を出すことはないだろう、明日街を出た後恐らく何かしてくるに違いない。
もしくは検問でいちゃもんを付けてくるかだ。
「あー楽しみだなー♪」
「はぁ」
相変わらず普通は緊張する状況を楽しむヴァルハイトは、大物だ。
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