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第十九話 隠されたもの

 どうやらかなり賑わっているようだ。

 ヴァルハイトが教えてもらったという、カフェに辿り着く。


 道中、街の女性にヴァルハイトが道を尋ねると、女性は顔を紅潮させ一生懸命に案内をしていた。

 店まで着いてくると言い出す者もいたほど。


「おー、女の子も一杯だけど……。やっぱり冒険者もいるねぇ」

「そうだな、僕らのような者も少なくない」


 基本的に店内は女性が七割といったところだが、中には僕らのような男性だけの客もいる。


 女性たちの目的は、どうやらそのポーションが美容に良いという噂があることと、相乗効果で美肌に効果的とされる食材を使用しているからだと言う。


 どんな飲み物なんだ?

 美味しいのかそれは。


「少しだけ並ぶけど、ルカちゃんイイ?」

「あぁ、ここまで来たら待つ他ない」

「やった♪」




 五人ほど並んでいたが、僕らの番になった。


「お次でお待ちのお客様~! ──あらカッコいい! ……失礼致しました。中へどうぞ~」

「どうも~」


 年上であろう女性店員すら味方に付け、ヴァルハイトの女性受けは思っている以上だった。

 店内へと入り左奥の席へと促される。


 店内が賑わっているため、入店した瞬間はそうでもなかったが。

 他の席を通り抜ける度、黄色い声が挙がった。

 今では店内左側の女性客はヴァルハイトへと視線を注いで、ひそひそ話し合っている。


「さすがだな、ヴァルハイト」

「ん~? ルカちゃんの可愛さには負けるよ♪」

「うるさい黙れ」


 先程の店員がメニューを持ってくる。


「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださいませ~」

「はいよ~」


 明らかに店員は僕を見ていない。

 まぁ、それはいいのだが。

 確かにヴァルハイトは傍から見れば冒険者というよりも、どこかの名家の子息といった感じだ。

 言葉は軽いが、所作は洗練されている。


「……!」

「どうした?」

「んー? いや、メニューがありすぎて選べないなーって♪」

「いつもの事だろう」

「ルカちゃん、……これとか、どう?」


 どこか楽しそうにヴァルハイトが指を指す物を見て、僕は目を疑った。


「──なっ。ハイ・ポーション、だと?」


 注目を浴びている席であるため、小声ながらに驚いた。


「ハイ・ポーションと水緑豆(すいりょくとう)スムージー……、千二百メール? これって安いの?」

「馬鹿な……、ハイ・ポーションがあることにも驚きだが。そんなに安いわけがない」


 通常のポーションとは、水魔法の一つである回復魔法を使ったものだ。

 精製は付与魔法の一種なので、使い手も限られる。


 僕のように魔法学校を出る等して修行しており、且つ水属性を持つ者だけが使用出来る。

 旅慣れた固定パーティーでは、回復術師(ヒーラー)がポーション精製を受けもつことも多い。


 そのため、普通に売られる薬湯より高価だ。


 対して、ハイ・ポーションとは。


 更に高価な、上級回復魔法である光の魔法を付与した物だ。


 修行を続けている、僕にすら扱いが難しい。

 二属性(ダブル)以上、且つ光の魔法を使える者だけが精製可能な、非常に高価な物だ。


 ちなみにマジック・ポーションは回復魔法ではなく単純に魔力を補うため、魔法を込めるのではなく魔力そのものを付与している。

 属性は関係なく付与していい。


 基本的にはマジック・ポーション、ポーション、ハイ・ポーションの順で高価だ。


 だがこの店は、あまりに安価で提供している。


「これは……商業ギルドに目を付けられたら、問題なのではないか?」

「だよねぇ。……それとも」


 商業ギルド自体、黒なのか。


 普段僕らが呼ぶギルドとは略称で、本来は冒険者ギルドと呼ばれる。


 冒険者にとっての組織であるように、商いを行う者達にとっても同様の組織があり、それを商業ギルドと呼んだ。

 そして、物価が適正に保たれるよう、ポーション類にも一定の基準の価格があるはずだが……。


「ハイ・ポーションが本当に、ほんと~にちょっとしか入ってないのかな?」

「なるほど、だが。それにしてもだ。

 これだけ繁盛した店で提供していれば、仕入れに対して儲けが出ないのではないか?」


 大体の平均値はマジック・ポーションが千から八千メールの間、ポーションは五千から一万五千メールの間、ハイ・ポーションともなれば、最低価格が五万メールだ。


 もちろん素となった薬草などで、価格は変わる。


 それにしても、水緑豆というのはこの辺りでよく採れる野菜で、別段高いわけでもない。

 このスムージーとやらが作れる量であれば、百メールもしないだろう。


 逆に言えば、ハイ・ポーションで価値を高めこれだけの値段で販売していると言える。

 

「仮に含有量が少ないにしても……。ハイ・ポーションの仕入れ先とやらが気になるな」

「どれだけ入ってるか、飲んでみる?」

「そうだな……、僕が頼もう」

「オッケー。ご飯はテキトーに頼むね」


 軽い気持ちで入った店で、まさかの展開になってしまった。

 僕ですら、ハイ・ポーションの精製はまだ出来ない。

 この冒険者の旅の目標の一つと言っても差し支えない。


 それほど光の魔法は使い手自体も少なく、付与魔法ともなれば余計に貴重だ。


 この街に腰を据えて活動している回復術師(ヒーラー)が何人かいたとして、その内一人でも光の魔法が使えれば良い方だろう。


 基本的には冒険者でない場合、高待遇が受けれる王都周辺や、貴族達のお抱えになっているはず。




「お待たせしました~!」


 元気よく店員が運んでくれたのは、ハイ・ポーションと水緑豆スムージー。

 薄い緑色が綺麗で、何となく青みがかっても見える。


「ルカちゃん、オレ達怪我してないけど、違い分かるかな?」

「任せておけ」

「?」


 そう言って僕は自身の魔力を眼へと全て集中させた。


「──!」


 魔法剣士である、ヴァルハイトはその魔力の流れを感じているらしい。


 魔眼、と呼ばれている。


 それは魔力を目に集中させることにより、他の魔力を目に映して見ることが出来る魔法だそうだ。

 属性すら色で分かるという。


 確信めいた言い方が出来ないのは、修行中だからである。

 完璧に使いこなしているわけではない。


 だが、このスムージーとやらに込められた魔力量を見る程度なら、恐らく可能だろう。


 この魔法は集中力が必要で、魔力を瞬時に眼へと集める必要がある。

 魔力の操作に優れている者にしか出来ない。

 僕ですら、戦闘中に発揮するのは難しい。


 今は落ち着いた状況なので、可能だ。


 僕がよく使う土魔法での魔力感知は、本当にただ感じるだけ。

 目に見えているわけではないので、例えばこのハイ・ポーションに魔力が込められていたとしても、それが本当に()()()()なのか分からない。


「……なるほどな」


 眼の周りが温かく、魔力に満ちていることを感じたと同時。

 そのスムージーとやらに含まれた、魔力が見えてきた。

 その色は、水緑豆の青みを模したように、水色の青色系統の魔力──、水魔法を表す色だった。


「どうだった?」

「……、後程宿をとって、伝えよう」

「! 分かった。……じゃぁ。食事、楽しもうか♪」

「そうだな」


 先に飲み物だけきていたため、料理は今しがた出来たようだ。

 女性店員がこちらに向かってくるのが見えた。



 ◇



 宿はいつものように三泊で予約した。

 大体一つの街の滞在の目安をこれぐらいにしているが、依頼やダンジョン攻略の有無などによって延泊している。


 ただ、いつもと異なる点が一つだけある。


「はあぁぁぁぁ」

「なーんでだよー! イイじゃーん!」


 いつにも増して盛大なため息が出た。それも致し方ない。

 宿に空き状況を聞くと、一人部屋はあいにく満室。

 空きがあるのがベッド二台の部屋とのことだったからだ。


「やったールカちゃんと同室♪」

「大人しく出来ないなら他に行くからな」

「そんなー」


 僕は宿では静かに過ごす。

 一人旅だったので、それは当然だろう。

 依頼毎にパーティーを組むとはいえ、宿泊先が一緒とは限らないし、読書が趣味なのもあり一人の空間が欲しいからだ。


「お金も節約出来てイイじゃん!」

「ぐっ……」


 それはそうなのだ。

 正直旅銀に余裕があるわけでもなく。

 宿代が一人部屋二つよりも、二人部屋一つを二人で割った方が安くつくのだ。


「寝相はいいんだろうな?」

「やーん、寝込み襲わないでね!」

「誰が襲うか!!!!」


「仲が良いね~~」


 宿の主人の目の前で繰り広げられた舌戦は、見当違いの評価を得ていた。



 ◇



「それで?」

「あぁ」


 部屋へと入室。

 野営続きだったのもあり、鞄の中の荷物を整理し衣服も整える。

 そして、先程の件を報告する。


「間違いなく、青系統……水の魔力のみだった。これが光の魔法であれば、二色以上の魔力があるはずだ」


 魔力の色はそれぞれ、火が赤。風が緑。水が青。土が黄色。というようになっているそうだ。

 これは師匠の受け売りなので、全て自身の眼で確かめてはいない。


 仮に緑の魔法を魔眼で見るのであれば、土の魔力が素のなので黄色。

 氷の魔法は青。というように、元々の魔力の色に分別される。


 つまり、先ほどのハイ・ポーションもどきが仮にポーションだろうがマジック・ポーションだろうが、二色以上が見えるはずの光の魔法が込められている、ということだけは絶対にないということ。


 二色以上の魔力の見え方は、混ざり合ったように見えて、混ざっていない。

 色同士が混ざって別の色へと変化する事はないそうなので、これは間違いない。


「あーーーー。やっぱりかぁ」

「やっぱり?」

「ううん、なんでもなーい」

「……。それで、僕を連れて行きたかった理由はこれなのか?」

「やっぱ分かる?」

「当たり前だ」


 ヴァルハイトがわざわざ女性に対し、滞在するかも分からない街のカフェの情報を聞くことにも疑問であったし、そこへ僕をよっぽど連れて行きたい訳も謎であった。


 だが、魔法に関する何かが起きているのであれば、専門家である魔術師の僕を連れて行きたくなるのも納得がいく。


 もちろん僕が、()()()()魔眼を扱える。

 それに懸けていたかは謎だが。


「お前の旅の目的は、何だ?」

「……、言わなきゃダメかな?」


 つまりヴァルハイトはこの街へ来ることを想定した情報収集を、プラハトで行っていた事になる。

 それもピンポイントで魔法に関わる何かを探り当てている。

 

 何かを隠しているのは間違いない。

 

 だが、僕に積極的に協力を仰ぎたい訳でもなかった。

 そこが不可解だ。


「ごめん、ルカちゃん。今はまだ言えない。……、でもこれだけは信じて欲しいんだ。オレ、ルカちゃんと冒険者として旅するの、楽しい」


 伝えたい言葉を探しながら、ヴァルハイトは精一杯今の気持ちを伝える。

 僕とて、無理強いするつもりはない。


「いや、言えないのであれば構わない。誰にでも事情はある。だから、何かあるなら、周りくどい誘い方もせず、僕にやって欲しい事は事前に言うんだな」


 ヴァルハイトの素性。

 恐らく、それに関係しているのだろう。

 僕も自分の全てを彼に話してはいない。

 対等でないのに一方的に話せというつもりもない。


 ただ、今回のように僕に何かして欲しい事があるなら、言ってもらえれば出来ることならやる。

 そこだけが、気がかりだ。


 どこか僕を巻き込まないよう、慎重になっている気がする。


「そっか……。うん、そうだよね! そうする♪」

「ならいい」


 ヴァルハイトが言えないのはきっと、僕を信頼していないからではなく、自分の事情に関わりの無い者を巻き込みたくないからだ。


 他人に対して心を砕ける、彼らしい。


 僕らは今後の予定を話し合い、移動で疲れたため宿の食堂で夕食をとった後、眠りについた。



ご覧いただきありがとうございます。


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