第十八話 シェーン・メレ
朝起きて軽く食事をし、身支度を整え野営地を後にした。
この調子で行けば、昼過ぎには大きな港街──シェーン・メレに到着するだろう。
「ワクワクするね~」
「そうだな」
初めて訪れる地には、やはり興味が湧く。
自分の知らないことを知れる。知識欲が旺盛なら尚更だ。
ヴァルハイトは恐らく……食べ物が目当てなのだろうが。
「なんかね~、ギルドにいた子に聞いたんだけど、女の子に人気のカフェがあるんだって♪」
「はぁ」
僕と出会う前だろう。
見目の良いヴァルハイトには、女性が良い寄ってくる。
「勝手に行けばいいだろう」
「えーー! 一緒に行こうよ~」
「断る」
「けちー」
「何とでも言え」
そんな女性に人気の場所へ行けば、ヴァルハイトへの注目はギルドとは比べものにならない。
黒持ちである僕が、余計な注目を浴びたくもないのは当然だろう。
フードを被って移動はするが、さすがに食事中は取っておきたい。
「大丈夫だって~。プラハトより大きな街なら、黒持ちだって何人かいるっしょ!」
「……はぁ」
◇
一度休憩をはさんで街道を駆け続けていると、眼前に海が広がってきた。
僕は内陸寄りの街で育ったため、海を見る機会は師匠に着いて別の街に行った時くらいだ。
「おー、綺麗!」
「あぁ、そうだな」
「あれかなぁ、シェーン・メレって街」
少し小高い場所へと登ると、海沿いに大きな街が見えてきた。
プラハトよりも大きいうえ、港があるため人の往来が多そうな街だ。
そのためか、街には海に面した西側以外を囲むように壁があり、その北・東・南の位置にそれぞれ街への入り口があるようだ。
壁はそこまで高くはないが、一般の人が何もなしに登るのはまず不可能だろう。
所々見張り用なのか、小窓があるようにも見える。
僕らは南側からやってきたため、恐らく一番近くに見えているのは南側の入り口。
街に駐在する憲兵だろうか。
それとも雇われた者かもしれないが、街に入る者を逐一チェックしているようだ。
「おー、厳重」
「何だ、怪しまれるような覚えがあるのか?」
「んなワケないじゃーん! ほら、行こ~」
冒険者であれば、基本的にこういった検問はギルドカードを提示すれば問題ない。
本人確認のために自身の魔力を少し込めると、カードに載っている情報の他、ダンジョンを解放した際の称号なども見れるらしい。
僕はまだ経験がないので分からないのだが。
下るようにして先程の場所から駆け降りると、一気に街まで近づいた。
検問には十人ほどが並んでいる。
街道を進む途中、一組の冒険者達は追い越したが、先にいるということは街の周辺で依頼を受けた者。あるいは用事で近くに出ていた者だろう。
冒険者が多いようなので、検問にもそれほど時間は掛からないようだ。
「──次の者、前へ!」
僕の前に並んでいたヴァルハイトの番になった。
「はいはーい」
ギルドカードを提示し、魔力を込めると『ヴァルハイト・ルース』『ランクD』という文字が浮かび上がった。ダンジョンを解放したことはないようだ。
「よし、次の者!」
意外とあっさりと検問は終わり、僕の番になる。
ギルドカードを提示すると、『ルカ・アステル・グランツ』『ランクD』の文字が浮かび上がった。
「ん? グランツ、どこかで……」
「もういいか?」
「あ、あぁ。行ってよし。次の者ぉ!」
「何だったんだろうね~」
「さぁな」
恐らくは師匠に頂いたグランツの姓。
高名な彼女の名であれば、聞いたことはあるだろう。
話しながらも街を囲う壁を抜け、眼前には街並みが広がっていた。
「おお! 大きいし、キレイだねぇ♪」
プラハトとは違った、また綺麗な街並み。
建物は青と白を基調とした色合いが多く、海を連想させる。
目の前には、中央の広場へ向かうための通りがあり、中々大きい。
脇を様々な店や飲食店が軒を連ね、プラハトよりも多い印象だ。
波の音が聞こえないほど、活気に溢れていた。
「海の香りもするねぇ」
「あぁ」
もっともプラハトと異なる点と言えば、潮の香りがすることだろう。
街に入る前からも時折香ってはいたが、街に入れば更に濃くなる。
港町に来たんだな、とすぐに分かる。
「ねぇねぇ、お昼ご飯がてらカフェ行こうよ!」
「まだ言っているのか、行くなら一人で行け」
「えーーけち!」
「……はぁ」
僕はと言えばお腹が空いたことより、街を見て回りたい欲の方が高まっていた。
別行動だとありがたいのだが。
「ルカちゃんいたら目立つのになぁ♪」
「目立たないような恰好をしている僕に、よくそんなことが言えるな……」
服装など、物の色が黒い分には人は過敏にならないので、黒い服装は良く好むのだが。
如何せん人の目線に良く映る、人が元来持つ色の髪や瞳が黒い場合は、何かと話題になった。
「ルカちゃんも可愛いとはいえ、ご婦人方から見たら男前だと思うんだけどな~」
「可愛い言うな!」
「ねぇねぇ、お願い!」
得意の瞳をうるうるさせ、泣き落としを始めるヴァルハイト。
あいにくだが、そんな技僕には──。
「なんか、贅沢にもポーション使ったドリンクメニューがあって、人気だってよ?」
「…………」
待て、何だそれは。
聞いてないぞ。
ポーションは効果を高めるため、基本的には薬草などを煮出したものに回復魔法や魔力そのものを込めるのが基本の水薬なのだが。
要は、魔法や魔力を込めた体に良い効果をもたらす飲み物。
なので、薬草とは異なる様々なポーションがあるのは不思議ではない。
それを薬屋から仕入れているのか、それとも店で魔術師を雇っているのかは不明だが。
薬屋で買うのは薬草を扱う店が、直接魔術師に依頼して大量に生産しているので、冒険者にとっても、一般の者にとっても、一番安く仕入れられる場所だからだ。
その店のポーション、効果は高くないだろうが……。魔法の類には興味がある。
興味をそそる情報を後に持ってくるとは、中々交渉術にも長けているらしい。
「…………、お酒は、入ってないんだろうな?」
「色々あるらしいから大丈夫だよ♪」
「…………、はぁ。なら、行こう。フードは被っておくか」
「やったあああああ! ルカちゃんありがとう!」
仕方がない。
魔法の研究は僕の最優先事項だ。
そう自分に言い聞かせて、ヴァルハイトが女の人とやらに聞いたらしいカフェを探して歩いた。
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