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第十四話 魔石の加工

 ヘレウルフは持ち帰られること自体稀で、希少だそうだ。

 特に素材を受け取らず全て換金した。

 火の魔石はあいにく出なかったらしい。


「ふぁ~~、今日は疲れたなぁ。まだなんかするの~~?」


 朝出発し、幻惑の森より帰還したのはお昼過ぎ。

 ギルドの運営する食堂が併設されていたため昼食を終えて、ヴァルハイトに問いかけられた。

 ちなみに日替わり定食は、グリュンバードの唐揚げがメイン。

 美味。


「そうだな、とりあえず下見というか……。風の魔石を魔道具として加工してもらえるか、聞きに行こうと思っている」

「あー、そうか。原石のままだもんなぁ。オレは良いけど……」

「持ちづらいだろう? 加工しておくに越したことはない」


 ヴァルハイトはよほど疲れたのか、机に顎を乗せながら言う。

 どちらかといえば、セネルに対する精神的な疲れだろう。


「宿も明日の夜まで取ってあるし……。今日はそれだけ確認すれば良いと思っている。──ヴァルハイトは用事ないのか?」

「ん~~~~。そうだなぁ」


 ヴァルハイトはあまり、どこそこ行きたいという主張がなかった。

 街中で出歩くのは好きではないのだろうか?

 それにしては薬屋や屋台では目を輝かせていたが。


「特にないし、着いていくかなー」

「そうか、何かあれば言ってくれ。僕も同行する」

「…………えーー!? ルカちゃんから、同行する。って聞けるなんて!」


 確かに最初の散策は一人で行くとずっと言っていたからな。

 しかし、いつも付き合ってもらってばかりでは、さすがに僕も気が引ける。


「とりあえずは、魔道具屋へ行くか」

「おうおう」



 ◇



 大通りに面した、洒落た外観のお店。

 店の中には大小様々な魔道具が並んでいる。

 一般的に魔道具はポーション類よりも高価なため、以前立ち寄った薬屋の二倍ほどの広さがありそうだ。

 生活に根差した魔道具もあるので、需要は冒険者をふくむ全ての人にある。


「おおーー。広いなぁ」


 店内へと入れば、煌びやかというよりは品揃えが豊富で、多種多様と言ったところだ。


 火をおこす魔道具もあれば、水を出す魔道具。

 加工されていない魔石や、まだ魔力の込められていない鉱石等、さまざまだ。


 こういったお店は、大抵魔石を持ち込めば既に彫金されている腕輪や指輪などに魔石を宛がうことで、魔道具として設えてくれる。


 土台の料金と加工費で済むため、魔石分の料金が節約出来るのだ。

 ただし、凝った造りにしたり、合う大きさがなければ土台も一から作るので、その限りではないが。


「いらっしゃいま────、あれれ」


 店の者だろうか。

 眼鏡を掛けた四十歳ほどの男性がひょこっと現れた。


「? どうかしたか」


 まじまじと顔を見つめられ、何やら観察されているようだ。


「双黒の魔術師様に赤髪の剣士さん……むむむ!」


 昨日の救出劇で、僕の存在は少なくともこの街の大半の冒険者には知れ渡った。

 今更フードを被ったところでどうにもならないと判断し、今日は隠すことなく出歩いている。

 不要なトラブルを避けるための措置なので、常日頃からする必要もない。


 しかし、彼はヴァルハイトにも覚えがあるようだ。

 やはり昨日の件で──。


「もしや……、グリュンバードを納品してくださった方々かな!?」

「んーー? そうだけど、誰だ?」


 そっちなのか。

 だが、依頼主はグリュンバードの羽根を工芸品として扱う者だったはずだが。


「あの依頼をしたのは私なんだ! 魔道具を扱うこのお店と、もう一店舗経営していてね」

「おお、その節はどうも~~♪」

「こちらこそ、一度の依頼であんなに沢山の綺麗な羽根が手に入ったのは初めてだよ! ギルドの方に、思わず依頼を受けた冒険者のことも教えてもらったんだ! 改めて、礼を言う。……それで、今日はどういったご用件で?」


 なるほど、合点がいった。

 仕事振りが良かったので、受注した冒険者のことも気になったようだ。

 あれはほぼヴァルハイトのお手柄ではあるが。


「実は、そのグリュンバードから手に入った風の魔石を魔道具にしてもらいたくてな。出来れば土台のある腕輪に合うよう加工してもらいたいのだが。今のところ滞在は明日の晩までの予定なんだ」

「おお、そういう事でしたら是非お任せください! お二人のためなら徹夜も辞しません!」

「い、いや。無理はしなくていいんだが……」

「ねぇねぇ、それってこの首飾りにも合わせられるーー?」


 ヴァルハイトは店に並べられている、魔道具用の土台を指差していた。


「ええ、もちろんです。シンプルな造りですので、研磨して爪に嵌め込めばすぐにお渡し出来ますよ」

「おーー。やっぱ剣を振るうから、こっちのが良いかな♪」

「それもそうだな」


 勝手に魔道具のイメージが師匠の着用していた腕輪だったので、僕もそう言ってしまったが。

 ヴァルハイトのように、戦闘で武器を扱う者は特に首飾りの方が邪魔にならなくて良いかもしれない。


「なら、僕はこれにしよう」


 これまたシンプルな造りの腕輪。

 一か所魔石をはめ込む部分だけが未完成のそれは、風の魔石の大きさに適していた。


「では、私が大きさをお調べ致しましょう」


 腕の大きさに合わせれるよう、同じ造りで少しずつ大きさが異なるものが用意してあり、それを次々腕にはめていく。


「うーん、こちらはどうでしょうか」

「ふむ……」


 一つ、丁度良い大きさのものがあり、それを着けながら腕をぶんぶんと振り回してみた。


「これなら問題ないな」

「かしこまりました、では風の魔石も見せて頂けますか?」

「ヴァルハイト」

「はいはーい」


 それぞれ持っていた魔石を手渡した。


「大きさもそれほど差異がないですし、この後他に持ち込みのご注文もありませんので明日にはご用意出来ますよ!」


 たまたま僕らのような持ち込みの依頼がなく、すぐに専門の細工師が作業に取り掛かれるようだ。

 運が良かった。


「ルカちゃん、良かったね♪」

「ああ、そうだな」

「お二人のお役に立てて何よりです!」

「代金はどうするんだ?」


「そうですね、取り急ぎ手付金として土台の料金は頂きます。明日は実際どのくらいで仕上がったかで、加工費を別途頂戴致します。明細も記載しておきますね」


「分かった、よろしく頼む」


 魔石代が浮いていたため、それほど多くの出費にはならなそうだ。

 土台が五千メール。

 加工費は恐らく八千メール前後とのこと。

 セネル達と組んだ時の資金はそろそろなくなりそうだが、納品依頼の分がまだ残っている。

 もう少し資金は余裕がある。


「明日のお昼頃にはお渡し出来るかと思います、またお越しください!」

「助かる」

「また明日~~♪」


 明日受け取ることを約束し、前金だけを支払って店を後にする。

 

「いやーー、魔道具って出来上がってるものしか買ったことないから、新鮮だなぁ!」

「確かに、冒険者ならではだな」


 既に魔石を含めて出来上がっている既製品を買うのが一般的だ。

 このように材料を持ち込みして作成してもらうのは、冒険者特有の経験だと言える。


「……、そういえばヴァルハイトはどうして冒険者になったんだ?」

「っ、えーー? なになに? お兄さんのこと気になるの~~?」

「バカを言うな」


 実際、僕は魔法学校を卒業し、師匠の勧めもあって冒険者となった。

 誰かに専属に仕える魔術師には性格的に到底なれそうになかったし、知らない土地や見たことのない薬草など、冒険者でなら経験出来るのも魅力的に感じたからだ。


 ヴァルハイトはどうだろう。


 飄々とはしているが、剣の腕は確かで。火の魔法の扱いは精密だった。

 それこそ魔法を専門的に習う魔法学校の出なのかと思うほど。


 実は育ちも良いのではないかと思わせる節もある。

 そんな彼が冒険者を志すのには何か理由があったに違いない。


「うーん、ルカちゃんは魔法の研究が目的って言ってたもんなぁ。オレは……、そうだなぁ。世界が見たかった、それだけだよ」


 いつもの明るさを含んだ笑みではなく、どこか力無く笑っていた。


「……そうか。確かに色々な街に滞在しながら仕事が出来るのは、冒険者の利点だな」

「そうそう! オレはこっちで登録したけど、冒険者ギルドは世界共通だからなぁ。色んな所を見て回りながら、お金も稼げてまさにオレのためにあるって感じ!」


 好奇心が旺盛なのは普段から感じてはいたが、それほど『旅』というのに魅力を感じていたのだろうか。

 実力があるだけなら、国を守る騎士団等もあるし、冒険者だけが選択肢ではなかったはずだ。


「……、特にアテがあったわけじゃないけどさぁ。ルカちゃんとこうして出会えて、一緒に旅出来て良かったよ」


 それはお世辞でもなく、心から思っている様子だった。

 いつもの、ふざけた表情ではない。


「────そうか。それは良かったな」

「うんっ♪ 本当、ラッキーって感じ!」

「はぁ」


 またいつもの調子に戻る。

 そこまで付き合いが長い訳ではないが、時折見せるヴァルハイトの表情は、何か重いものを抱えているようだった。

 普段の軽薄さは、それに関係があるのだろうか。


「あ、オレあと一泊延泊しなきゃだなぁ。今日の夕食は宿でとらない?」

「そうだな、今日は朝から動いたしそうしよう」

「おー!」


 僕もまだ、ヴァルハイトに全てをさらけ出したわけではない。

 それでもどこか、セネル達には抱かなかった『信頼』とも言える何かは、感じているのだろう。

 抱えている何かを、いつか話してくれる。


 僕はそう信じて待つことにした。

 


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