第十三話【別視点】剣士の心情
プラハトの街を初めて散策することになった。
他でパーティーを組んだ時は誰かと出歩くなんて、考えもしなかった。
──己の事情に、巻き込んでしまうかもしれない。
他国でそんな心配はないのかもしれないが、念には念を入れる必要がある。
どうやらルカは、薬屋に行きたいらしい。
こちらの事情を知らないルカが行きたいというのなら、ぜひ着いて行くしかない。
ポーションは常に一つは持ち歩いているが、あまり使う機会がない。
普段なら薬屋に立ち寄ることもそうなかった。
昔はどちらかと言えば、自宅に外商担当の者が来ていたからだ。
店に入る、という機会も乏しかった。
気になる点があれば、魔法の専門家である彼が何か言ってくれるだろう。
『良い香りだな~~』
想像と違った店内はとても綺麗で。
色々な種類の商品があり、見ているだけで楽しかった。
だが、そこは己の性からなのか……。
後衛であるルカを守れるよう、戦闘に役立ちそうな商品をいくつか見繕った。
その中でも戦闘に使えそうで、且つ好きな香りである薔薇の香油を手に入れた。
屋台が並んでいる大通りへと来ると、ルカは夕飯を探しているようだった。
初めて目にする料理に、思わず飛びついてしまった。
うん、美味しい。
外で食べる機会もあまりなかった。
旅の醍醐味が味わえるのは心地良い。
宿も一緒だというので、一日の大半をルカと過ごしていた。
正直、何かあっても対処出来る実力者であるルカだからこそ出来る事だ。
まだ実力の片鱗しか見ていないが、予想は間違っていないだろう。
◇
次の日、魔石の結果を聞きに行くと、ダンジョンから帰還しないパーティーがいるらしくギルドがざわついていた。
どこの馬鹿だ、と思いつつもルカの実力を測れる機会でもあったので、助けに行くことを提案した。
もちろん、困っている者を見捨てることが出来ない。
そういう思いもあったが。
出立前の準備も手際良く、オレに対しても的確に指示をしていた。
うーん、旅慣れた冒険者って感じだ。
おまけに前回体が軽く感じられた、風の魔法を付与した魔石ももらった。
普通に買えば、何万メールなんだ……。恐ろしい子。
ありがたく頂戴し、現地へと赴いた。
そして、そこで出会ったルカの元パーティーメンバーだとかいう奴が最悪だった。
『────、は?』
『何言ってんのあんたら? ……話にならねぇ。行こうぜルカ』
『それが人にものを頼む態度か? あんたら自分で蒔いた種だろう、それだけ元気なら自分でどうにかしたらどうだ』
おちゃらける暇もないほど、苛立った。
自分の命を預ける者同士、一時とはいえ旅の仲間であった者に対する態度ではなかった。
そしてルカは、そんなセネルの態度に慣れており、また全てを諦めた様子だった。
結果として、ルカがやはり二属性以上なのは判明した。
まぁ、さすがにソロをやるというくらいだから、当然だろう。
やはりルカとは組み易い。
改めてそう感じた。
オレの怒りは昇華されることなく、セネルへ説教をした後も中々おさまらなかった。
そんなオレを見かねて、ルカは言った。
『ヴァルハイト、何をそんなに怒っているんだ?』
正気か。
マジで分かってない。
ルカは自分の実力は良く分かっているはずで、自身を過小評価している訳ではない。
だが、オレが怒っている理由が、心底不思議な様子だった。
『あのなぁーー、ルカちゃん』
『何だ?』
『いくらオレが優しくてイイ男だからって──、旅の仲間を馬鹿にされて、黙ってられるはずないだろ?』
『……! そういう、ものなのか?』
『そーいうものなの!』
恐らくルカは、他者との距離感を一定に保ちたいタイプだ。
皆すべからく同様の存在で、大切な者というのは恐らく師匠と言っていた人物だけだろう。
セネルへの諦めの態度で、よく分かった。
何だろうなー。
それも良いんだけど、ルカとは、本当の意味で仲間になりたい。
互いを信頼し合える、友で在りたい。
オレだって、大切な存在を作るのは怖い。
それが弱点となるからだ。
だが、弱点にならないほど、強い魔術師様なんだから、……歩み寄ってもいいはずだよな?
セネルがギルドの受付嬢に初心者と言われ、ルカは少し笑っていた。
あぁ、初めて見たなぁ。
セネルに対して、ルカなりに少しだけ歩み寄ったんだろう。
笑うということは、無関心ではないからだ。
誰かを大切に思えるように、自分もまた大切に思われてもいいのだと。
そう、気付いてもらえたらいいなぁ。