第十三話 幻惑の森 帰還
「終わったのか……?」
恐る恐る洞窟よりこちらの様子を伺っているセネルは、僕らに問いかけた。
「あぁ、ルカちゃんが、ぜーーーんぶやっつけてくれました! 誰かさんとは大違いだなぁ!」
さすがに全部ではないのだが。
「う、うるせぇ! 俺らだってちゃんと準備していれば──」
「は? いま、命があるからそんなこと言えるんだろうが。事前の準備や魔物の情報は、冒険者の基本。それを怠った時点でお前に冒険者の資格はない。とっとと廃業するんだな」
やはりセネルに対しては突き放す物言いをする。
よほど気に入らない様子だ。
「──っ! 大体、魔術師のお前が抜けるからバランスが悪くなったんだろうが!」
「はぁ……」
追放したのはどこの誰なんだ。
「ルカちゃん……、こいつ、ヤっていい?」
ヴァルハイトの我慢は限界のようであった。
額には青筋が浮かんでいる。
当事者の僕より怒っているのは何でだ。
「やめておけ。ヴァルハイトの手を汚すまでもない。……このまま旅を続けていればいずれ勝手に果てるさ」
「な、何だと……!」
「る、ルカさん! ヴァルハイトさん! この度は……、ありがとうございます」
セネルを制し、奥から出てきたイレーズが、今までで一番大きな声でお礼を言ってくれた。
「セネル……、私たちは、助けられたんだよ? どうしてお礼言えないの?」
少女ならではの無垢な疑問だった。
だがそれは、セネルよりよほど大人びて見えた。
「……!」
「セネル、今回は紛れもなく助けられたわ。彼女の言う通りよ。……ルカ、ありがとう」
少し照れくさそうに、リーべが言った。
あの彼女すら素直になるくらいだ。
相当ここで心細い思いをしていたのだろう。
「いや~~、どこのパーティーもご婦人方はしっかりしてるなぁ!」
「?」
「いやいや、こっちの話♪」
元のパーティーの話だろうか。
「セネルさん、これだけは言わせてもらう。自分の思い描いた現実と違う時。己の力量不足を感じた時。まずは、素直にそれを認めること。受け入れること。────それが、強さってもんだぜ?」
いつかギルドで感じたような殺気を放ち、冷ややかな笑みを浮かべヴァルハイトは言った。
「~~~~!! ちっ」
セネルは歯痒い面持ちで、地面へと視線を落とした。
そして、真っ直ぐに僕を見据える。
「…………、ルカ。助かった。礼を言う」
言うと同時にすぐ顔を背けた。
あのセネルがここまで言うとは、成長だ。
それを引き出したヴァルハイトも、相当だ。
僕はといえば……。セネルはどうせこうだから、と諦めていたが。
諦めず、根気よく対話していればもっと早くにセネルは素直になれたのだろうか。
こういうところは、ヴァルハイトを見習わなければならないと思った。
「いや、無事で良かった。よく耐えてくれたな」
「ふんっ」
「さ、早いところ危険な場所とはオサラバして、帰ろうぜ~~」
「そうだな、早く帰ろう」
念のためヘレウルフの死骸を収納魔法へと入れ、その場を後にした。
◇
「────! ルカさん、セネルさん!」
ギルドへと全員で帰還した。
受付へと向かえば、こちらから声を掛けるより先に応えてくれる。
「全員無事だったぜ! ルカちゃんお手柄~~♪」
「何を言ってるんだ、お前もだろ」
「皆さん、無事で良かった……! 見たところ大きな怪我もなさそうで、安心しました!」
やはりリーべがいるおかげなのか、全員ほぼ外傷はなかった。
「…………、迷惑を掛けた」
「え? いえいえ、初心者には良くあることですから!」
「~~?!?!」
セネルは僕と組んだ時点ですでに何件かは依頼をこなしたこともあり、初心者ではない。
だが基本を守らず、リーべの回復魔法に頼り切りでがむしゃらに突っ走っていただけだった。
「ぶははーっ、初心者だって~~!」
「うるさいぞ!」
「あれ……、違ったんでしょうか?」
「いや、気にしなくていい」
さすがにセネルはギルドの職員に逆らうことも出来ず、その様子は何だか僕までおかしくなった。
久しぶりに笑った気がする。
「あ、そういえばヘレウルフって需要あるかなーー?」
「え!?」
「あぁ、ついでに持ってきたんだが」
「つ、ついでって……。さすがに二人で狩るには難しい相手では……。ちなみに何体ですか?」
ヴァルハイトが倒した個体は損傷が激しく、他の魔物を寄せ付けないためにも、ヴァルハイトが火の魔法でその場で燃やした。
僕が仕留めた、六体だけを持って帰ってきた。
「倒したのは十体だったか? そのうち六体だけ持ち帰った」
「ええええええ!? ふ、二人だけで十体……」
卒倒しそうな勢いで驚かれた。
「ほとんどルカちゃんが倒したんだぜーー」
「お前だって四体仕留めただろ」
「お二人とも、ランクはいくつですか……?」
「Eだな」
「Eだったけ~~」
「な、なんで……!?」
まぁ旅銀を稼ぐためだけに依頼を受けていたので、そこまで難しい依頼も受けていない。
ランクは一番下のEのままだ。
ダンジョンは今回初めて訪れた。
「ヘレウルフはCランク相当の魔物です! Eランクなら二人掛かりで一体相手出来る強さですよ!」
「へぇ、そうなのか」
「もっと驚いてくださーーーーい!!」
驚くと言っても自分のことなので、基準が良く分からない。
「先日のグリュンバードといい、さすがに今回は救援要請にもきっちり応じていただいたので、ランクアップです! 決定事項です!」
「おー、やったねルカちゃん♪」
受付の人が独断で決めていいのだろうか。
そんな疑問も虚しく、僕らのギルドカードにはDという文字が追加された。
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