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第十二話 幻惑の森 その四

 入り口から出てみれば、ヘレウルフと思われる魔物が四体いた。

 赤と黒の波状柄が凛々しい、狼のような魔物だ


「ヴァルハイト、相手は素早いが……四体もさばけるか?」


 動きが愚鈍な魔物であれば、僕の魔法も撃ちやすい。

 ただ、素早い魔物となれば攻撃の手を緩めることになる。


「おーー、風の魔石のおかげか調子イイんだよなぁ。イケるイケる♪」

「そうか、頼む」

「お任せあれ」


 口調はふざけているが、眼光は鋭く獲物を捕らえていた。


「行くぜ? ──おらよっと」


 小川を挟んだ対岸に二匹、目の前に二匹。


 まずは目の前のヘレウルフにヴァルハイトが斬りかかった。

 風の魔法で太刀筋も見えないほど速くなっていたが、すんでの所で避けられた。


『グルルル……』


 中からする香ばしいかおりに、ヘレウルフも興奮しているようだ。

 お腹が空いているのだろう。


 まずは、どの程度僕の風魔法が通用するか確認したい。

 対岸の二体は水が苦手だからだろうか、渡ってくる様子はない。


「ヴァルハイト──、上手く避けろよ!」

「お、おお?」

「蹴散らせ────、烈風(シュトルム・ヴィント)!」


 少しだけ範囲の大きい魔法を唱えた。

 ヴァルハイトは跳躍してこちら側に戻ってくる。


「うーん、体が軽い♪」


 本当に緊張感のない奴だ……。


『グオオォ!』


 唸り声をあげるヘレウルフには、多少効いているようだった。

 だが、止めを刺すには至らない。


「魔法耐性が高いのか……?」


 他の魔法耐性が高い代わりに、水魔法にだけは特別弱いということなのだろうか。


「オレの番~!」


 動きの鈍ったヘレウルフに斬りかかる。

 横一閃に断ち切られ、今度こそ一体仕留めた。


「あー。マズいなぁ」


 そう思っているのか怪しいほど軽薄な感じでヴァルハイトが遠くを見た。


「他の仲間も集まってきたか」


 僕の風魔法で動きを鈍らせ、ヴァルハイトが仕留めることは容易だ。

 だが、それは数が少ないからこそ出来る。

 二体程度なら僕でもどうにかなるが、これ以上増えるとなると魔法を撃つ暇すら与えてもらえそうにない。


「こんなコトもあろうかと~~♪」


 何やら効果音が付きそうな勢いで、懐から小瓶を取り出した。


「……?」

「そおれ!」


 小瓶の栓をきゅっと開け、ぞろぞろと合流した他のヘレウルフに中身をぶちまけた。

 むせ返るような花の香り──薔薇の香油だった。


『グガアアア!』


 嗅覚が鋭いヘレウルフにとって、香水ではなく香油の状態の薔薇の香りは、酔いしれる程の効果をもたらすだろう。

 想像しただけで頭が痛くなってきた。


「ルカちゃん、今だ!」


 もう一体、最初からいたヘレウルフを倒しながらヴァルハイトが言う。


「──烈風(シュトルム・ヴィント)!」


 香りに酔いしれたヘレウルフ六体に、風魔法が直撃した。

 ヴァルハイトが全てを倒すまでに、体勢を整えられたら面倒だ。

 僕も『風の槍』で援護することにした。


 その時だ。


 洞窟奥より香り立つ肉の存在に興奮した、対岸の二体が驚異的な脚力で飛び越えようとしていた。

 既に地面を蹴った後の二体は、弧を描いてこちらに到達しようとしていた。


「──、ルカちゃん!」


 どうする。

 こちらに来た二体をいなすのは風の魔石のおかげで容易い。


 だがそれでは、ヴァルハイトの方の六体から目を逸らすことになる。

 彼の負担が大きい。


 そうこう考えを巡らせる内、二体がこちら側へ到達した。

 かなり興奮している。

 今にも飛び掛かりそうだ。


 その間もヴァルハイトはヘレウルフを二体倒していた。

 あちらには四体。

 だが、それも徐々に体勢を整えつつあった。

 四体の内いずれかが、ヴァルハイトの隙をついて洞窟へ侵入しないとも限らない。


 もっとも効率の良い方法。

 ────それは。


「ヴァルハイト! 跳べ!」

「!」


 掛け声と共に彼はすぐ跳躍した。

 風の魔石のおかげで普段よりかなり飛んでいる。


拡散せよ(シュトゥルム)水の槍(ヴァッサー・ランツェ)!」


 自分を中心に据え、そこから円形に拡散するように風魔法を唱え。

 それに乗せるように()()()を重ね掛けした。


 繰り出された水の槍は、僕の位置から勢い良く発射された計六本。

 六体に目掛けそれぞれが的中した。

 最大の弱点である水魔法を受けたヘレウルフは、雄叫びをあげた後、皆静かに地面へと倒れた。


「おーー! やるねぇ」


 普段よりも高い位置から難なく降りてきたヴァルハイトは、楽しそうに言う。


「ルカちゃんって本当器用♪ ちがう属性の魔法を同時に扱えるなんてなぁ」


 僕が水魔法を使うことに関しては、それほど驚いていないようだった。

 それはそうだ。

 僕は一言も単属性(シングル)とは言っていない。


「そうか……? まぁ、魔法の研究が僕の旅の目的だからな」

「なるほど~~」


 やはり緊張感のない様子でヴァルハイトは言った。

 あれだけ多くの魔物と間近で対峙しておいて、大した精神の持ち主だ。



ご覧いただきありがとうございます。


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