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第十一話 幻惑の森 その三

「──!? ルカ、ルカか?」

「嘘でしょ……、ルカが来るなんて」

「……?」


 火を起こす魔道具だろうか。

 囲う様にして三人が座っていた。

 そういえば先程の土壁は一番上だけ妙に隙間が空いていた。


「やっぱ知り合いなんだねー。……セネルさん? 初めまして、オレはヴァルハイト。今のルカのパートナーだよん」


 パートナーとやらになった覚えはないが。


「あぁ? ルカと組んでるのか。……それはそれは可哀想にな、やりづれぇだろ?」



「────、は?」



 先程までにこやかに会話していたヴァルハイトは、途端に冷めた顔をした。


「そうよ、素敵な剣士さん。そんな危険な魔術師より……、私たちと一緒に組みましょう?」


 ヴァルハイトの見目麗しさにリーべもすっかり魅了された様子。

 そうなんだ、こいつは黙っていれば顔がいいのだ。


 もう一人の双剣使いは、女性……というよりは少女というべきか。

 僕よりも年若い女の人だった。

 今一つ状況が呑み込めておらず、事態をじっと見守っている。


「なに言ってんのあんたら? ……話にならねぇ。行こうぜルカ」

「え」


 普段はあんなにおちゃらけているのに、急に真顔で話すもんだから思考が付いていかない。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 二人とも、ギルドの依頼で来たんでしょ? 私達ここから動けないの! 助けてよ!」

「それが人にモノを頼む態度か? あんたら自分で蒔いた種だろう、それだけ元気なら自分でどうにかしたらどうだ」


 もともと救援に乗り気だったヴァルハイトは、どういう訳か急にキレた様子で口調が変わる。


「そもそもお前ら、ここに良く来れたなぁ? 外に獣の魔物がいただろ」

「いや……僕らが来た時にはいなかったが」

「マジか? ……何でだ」

「というワケで、もう三人で帰れるだろう。さっさと行こうぜ」

「ちょ、ヴァルハイト」


 さっきから何でキレてるんだ。


「その前に、ルカ! 何か食糧ねぇか!? 腹が減って死にそうなんだ!」


 目の前に小川があったためか、水には困っていなそうであった。

 元々リーべの水魔法もあるため、飲み水の予備は少ししか持ってきておらず、代わりに食糧は多く持ってきていた。


「あるにはあるが……。今いなかったとはいえ、また魔物が来ないとも限らない。帰還してからの方が無難だ」

「私たち、もう、……動けないのよぉ。マジック・ポーションもあればちょ~だい?」


 後ろでわなわなと震えているヴァルハイトに、目で「絶対渡すなよ?」と訴えられている。

 さすがにこの二人の横柄さには我慢ならないらしい。


「はぁ……」


 確かに助ける気力も失くすが、ギルドからの要請もあるし、腐っても元のパーティーメンバーだ。

 見捨てるわけにもいかない。


風待草(かぜまちそう)のマジック・ポーションだが、一級品だ。すぐ回復するだろう」

「きゃぁ! さすがルカね!」


 僕の手から奪い取り、すぐさま飲み干した。


「あーん、美味しくなぁい」

「そらそうだろ……」


 美味しさを追求する代物でもない。

 多少は我慢して欲しいものだ。


「おい、食べ物はねぇのか!!」

「干し肉でいいか?」

「ちっ。それで我慢してやる。よこせ」


 何で上から目線なんだ?

 というのはもはや諦めているので、何も言わず手渡した。


 本当は他にも食糧はあるのだが……。

 かじると甘い香りの漂う果実や味の付いた物で、恐らくヘレウルフであろう魔物に匂いが伝わるとも限らない。


「こんな物で申し訳ないが、帰還まで我慢してくれ」


 ずっと事態を見守っていた少女にも手渡した。

 ヴァルハイトは諦めて入り口で見張り役をしているようだった。


「あ、ありがとう」

「僕はルカ。君は?」

「イレーズ……」

「イレーズか、僕はセネル……さん達とパーティーを組んだことがあって知り合い同士なんだ。よろしく」

「よ、よろしく」


 セネルやリーべとは違い、自己主張が控えめで謙虚な少女だった。

 なんだかアコールの事が思い出され、懐かしい気持ちになった。

 元気にしているだろうか。


「ちっ……。やっぱ温めた方が旨いな」


 少しセネルから目を離したのがいけなかった。

 それが美味しいかどうかは知らないが、干した肉を火の魔道具で炙ろうとしていた。


「ばか、やめろ!!」


 もはや言葉も選ばず制止したが、時既に遅しだ。

 僕のお腹も鳴きそうな、香ばしい香りが広がった。


「あら、美味しそう──」


 リーべも真似をしようとした時だ。


「──ルカ!」


 案の定、入り口まで漂った香りに気付いたヴァルハイトが周辺の異変を察知した。

 ヘレウルフは、嗅覚が鋭い。

 そう。美味しそうな香りに引き寄せられるのは、なにも人間だけではないのだ。


「ばっっっかやろうが! ヘレウルフに追われてた奴が何やってんだ!」

「あぁ!? うるせえな、一晩何も食べてねぇんだ、温かい食べ物が欲しくなるのは仕方ねぇだろ!」


 逆ギレが出来るセネルは、本当に逞しい。


「せ、セネル。ヘレウルフは嗅覚が鋭いのよ……」


 おずおずと双剣使いのイレーズが声を掛けた。

 そうか。


「あれか……? 一晩無事だったのは、いつもの香るソープを使ってないからか」


 何だか合点がいった。


「る、……ルカちゃん。なんか、納得してるところワルいけど、一緒に来て~~」


 がくっと拍子抜けして脱力したヴァルハイトは、いつもの調子に戻った。

 こちらの方が、しっくりくる。


「な、なんだ」

「お前が肉なんて炙りだすもんだから、周りにヘレウルフが集まってるんだろうが」


 全然元に戻っていなかった。

 セネルに対しては辛辣だ。


「ル、ルカ! 何とかしろ!!」

「はいはい……」


 ヴァルハイトが何か言いたそうにしているが、今はやるべき事をやる時だ。


「リーべ、魔力は戻りそうか」

「え、えぇ。さっきよりは回復してるわ」

「万が一こちらに魔物が来たら、対処しろよ?」

「……分かったわ」


 一先ず後ろのことは気にせず戦えそうだった。

 それだけで、十分だ。


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