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第八話 風の魔石と救援

「ルカちゃん、おっはよーー!」

「あ、あぁ……おはよう」


 ニコニコと、まるで大輪のような笑顔を向けられ、たじろいだ。

 朝から元気だな、と感心しつつ僕らはそれぞれ朝食を終え宿前で合流した。


 今日はギルドで納品した際に見付かる可能性のある、風の魔石が獲れたかどうか確認しに行くところだ。

 そのついでに、今後の旅費を稼ぐための依頼も見繕う予定。

 ギルドの受付に行けば分かるようにしておくというので、慣れたように目的の場所に到着した。


「魔石、あると良いねぇ♪」

「あぁ、そうだな」


 手慣れたように扉を開けると、何だかギルド内が騒がしかった。


「……?」

「なんだろうねぇ」


 入ってきた僕らには一瞥もせず、皆互いに何かを話し合っていた。


「何かあったのか?」


 受付には誰もおらず、すんなりと係りの者と話せた。


「あ、ルカさん、それにヴァルハイトさんも! 丁度良い所にいらっしゃいました──」


 僕らを見付けた昨日と同じ受付の女性は一瞬驚き、そして真剣な表情を見せた。


「──実は、昨日の朝からダンジョンに入ったパーティーが、まだ帰還していないんです。……あのダンジョンには一夜明かすような安全な場所はなく、入場の際にはその旨もお伝えしているのですが……」


 ギルドによって数種類の魔物の生息が確認され、冒険者のように戦いの術を持つ者以外は立ち入りが禁止されている場所をダンジョンと呼んだ。


 人の住む街からは離れた場所にあり、そこには多くの魔物だけでなく、珍しい動植物や鉱石、魔物が集めた財宝があるとされた。


 そして一番の特徴は、そのダンジョンの主。

 そこで一番強いとされる魔物の存在だ。


 資源が豊富なため、ダンジョンの主が倒されるとギルドが調査に入り、一般の者にも冒険者の護衛付きが条件で入場することも出来るようになる。


 冒険者が受託する依頼で、多くの割合を占めるのも護衛の依頼だ。

 だが、この近辺のダンジョンはそう多く解放はされていなかった。


「昨日の朝か……。僕が到着前となると、一日は経過したな」

「はい、そうなんです。もしかすると、帰還しようにも迷ってしまったかもしれないので、心配です……」


 ギルドが朝一からざわついているのは、そういう理由でのようだ。


「……ルカちゃん、助けに行かない?」

「理由は?」


 正直、僕ら以外にも冒険者はいる。

 もちろん心配ではあるが見ず知らずの他人の救援に、すぐさま手を挙げる理由もない。


「あー……。なんか、心配だし?」

「お前がそう言うとは思わなかったな」


 ヴァルハイトはチャラい。

 しかしそう言った見た目とは裏腹に、冒険者としての心得もしっかりとあれば、腕も立つ。


 いつもヘラヘラとはしているが、正義感に溢れる青年なのだろう。

 見た目で判断していけないというのは僕にも覚えがあるので、彼の意志を尊重はしてやりたかった。


「うーん。ていうかオレら以外ですぐ行けそうな……、メンバーが揃ってそうなパーティー見当たらないしなぁ」

「それは……、確かに」


 皆思い思いに話をしてはいるが、依頼書を既に握りしめている者もいれば、椅子に腰掛け他のメンバーを待っている様子の者も。

 適任者がいないようではあった。


「お二人が行ってくださるのでしたら、こちらとしてもありがたいのですが……」

「ちなみにそのダンジョンの推奨パーティー人数は?」

「三人相当です。ちなみに戻らないパーティーは三人で向かわれてます。──ダンジョンの攻略が目的ではないので、納品係に伺った昨日のお二人の手際であれば……」

「なるほど」


 驕りがあるわけではないが、三人相当であれば僕とヴァルハイトなら問題ないと思う。


「ルカちゃん……お願い!」


 うるうると瞳を潤ませ、お願いをしてきた。

 こうなる事を予想していたわけではないが、確かに救援に向かう事で僕の目的の一つが達成される可能性がある。


「その前に、風の魔石の件を聞きたいのだが」

「あ、はい。ルカさんがお見えの際、お渡しするよう伺ってました! こちらです」


 そう言いながら受付の女性は、革製の袋を取り出し、中身を掌へと解放した。

 ころん、と出てきたのは二つ。

 二つの風の魔石が獲れたようだ。


「二つか……」


 欲を言えば四つ欲しかったのだが、仕方ない。


「八体の内二つでしたら、グリュンバードにしては良い方だと思いますよ!」


 そういうものなのか。

 しかし、二つならば目的も達することが出来そうだ。


「ヴァルハイト、──行くか」

「! ルカちゃん、ありがとー!」

「お二人とも、助かります! 件のダンジョンはここから一番近い、幻惑の森です。ルートがあるにはあるのですが、奥に行くと景色が変わり映えせず、迷う人も多いためそう呼ばれています」

「幻惑の森……。ちなみにパーティーメンバーの特徴は?」

「あ、はい。名簿を確認しますね……。えーーっと、あった。昨日入場の申告があったのは、剣士、回復術師、双剣使い、の三名ですね。リーダーの方は、セネルさんという方です」



 あいつかーーーー!!!!



「ルカちゃん、どうしたの?」

「いや…………、何でもない」


 まさか剣士のトラウマを植え付けられた人物、とは剣士のヴァルハイトには言えない。


 僕はこの街へ向かう途中、薬草採集をしたり、魔法の訓練をしたりと、のんびりとした旅程だった。

 セネル達は先にこの街へ到着していたようだ。

 次の目的地が同じとは知らなかったが。


 双剣使いの三人目は知らないが、おそらく補充されたメンバーだろう。


「なるべく早く向かった方が良いな……、ルカ・アステル・グランツ名義で入場を申請したい」

「は、はい! かしこまりました。今回は攻略ではないので、どうか無理せず……」


アステル()……」

「何だ?」

「いや~~、さすがルカちゃんだなって」

「? 何がだ」

「こっちの話♪」


 ヴァルハイトが何やら意味深な笑みを浮かべているが、放っておこう。


「彼らの体力も心配だな。ポーションとマジックポーションの予備はある。僕はすぐ食糧を買ってくるから、ヴァルハイトはギルドで森の情報を聞いててくれないか? ルートの目印だとか」

「ルカちゃん、用意が良いね~。任された!」


 セネルがダンジョンに向かうために、入念な用意をしているとは到底思えない。

 だが、回復術師がいるパーティーは基本的に生存率が大幅に上がる。


 生き長らえていることを信じて、救援に向かう準備に取り掛かった。



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