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第七話 プラハトの街を散策

 依頼を達成し、報酬金を得たところで夕方になっていた。

 街を散策がてら旅の準備をして、今晩のご飯を見繕いたいところだ。


「ねぇねぇ、ルカちゃん。このあと、どうする~?」


 不本意ながら、しばらくはこの赤髪の魔法剣士──ヴァルハイトと組むことになった。

 だが、依頼を受けていない時間まで一緒に行動する必要もあるまい。


「僕は街を散策して、準備するつもりだ。店の場所もあまり把握していないからな」


 冒険者にとって必須とも言える武具屋や薬屋、その他屋台の料理などを見て回るのは一種の趣味。

 楽しみの一つだ。


「ふ~~ん、オレも一緒に行っていい?」

「はぁ? 一人で行けばいいだろう」

「だって寂しいんだもーん」


 何がだもーん、だ。

 良い大人が何を言う。


「ヴァルハイトは武具屋に行くのが先決だろう。僕は薬屋の方をじっくり見たい。別々で行動をした方がいいと思うのだが」

「えー。今のところ手入れは大丈夫そうだし、ついて行きたーい」

「はぁ……」


 要は、自分は特に用事がないので、散策ついでに着いてくるということか。

 ……仕方ない。


「分かった……。邪魔だけはするなよ」

「やったーー!」


 どうも僕の方が年上のような錯覚に陥るのは気のせいだろうか。


「まずは薬屋だ。さっき聞いたところだと一番近い場所にある」


 さきほど納品ついでに、場所を聞いておいた。


「そこの角を曲がって、すぐ左だっけ」

「そうだ」

「じゃあ、早速レッツゴー♪」

「はぁ」



 ◇



 目的の薬屋に到着。

 石造りの建物に、木製の扉はシンプルな造りだ。

 だが、店内に入った瞬間、印象ががらりと変わった。


「お~~~~。キレイだ」


 中は美を体現しているかとでもいうほど、美しい内装をしていた。


 天井には絵画の如く絵が描かれ、壁際には彫刻や高価な調合器具など、絢爛といった感じだ。

 だが、他の街同様、薬屋としての機能もきちんとしていた。


 ハーブや草花を元に作られた薬湯の素、ハーブウォーター、ソープ、ポプリの他、香水などもあった。

 これらはどちらかと言えば、身を清潔に保ったり、肌を潤したり、……体を元気にするための予防の効果だ。


 そして、特に魔力を込められた水薬(みずぐすり)をポーションと呼んでいる。

 僕達のような冒険者は、主にこちらを買い求める。


「いらっしゃいませ、魔術師殿。何をお探しかな」


 店主であろう、髭を生やした白髪の男性が声を掛けてきた。


風待草(かぜまちそう)のマジック・ポーションはあるか?」

「それでしたら、こちらに」


 体の治癒能力を高めるポーションと、魔力を回復させるマジック・ポーションは冒険者に必須とも言える物。


 パーティーに回復術師がいれば、マジック・ポーションをメインに持ち歩くことだろう。


 全ての属性に万遍なく効くものもあれば、特に属性に応じて良く効くポーションがあり、それは材料に由来する。


 この街周辺で獲れる風待草は、風魔法を扱う者に効果が倍増する。


「ふむ。一ついくらだ?」

「そちらですと数が限られますので……、一つ六千メールでございます」

「なかなか高価だな」

「左様でございます。風待草の花を付ける時期は限られますので、希少価値があるのです」

「なるほど。……では、三つもらおう」

「ありがとうございます!」


 ヴァルハイトはといえば、香水や肌を潤すハーブウォーターを云々言いながら見て回っている。

 

 良い買い物が出来た。

 主に風魔法を使って旅をしているため、風待草のマジック・ポーションと僕は相性がいい。

 依頼の帰り道に材料も入手したところで、しばらくはこれで持つだろう。


「ルカちゃん、なに買ったの?」

「マジック・ポーションだ」

「ほうほう、大事だもんね!」


 自分はポーションを買うべきではないのか?

 という問いは、胸にしまっておくことにした。


「店主さーーん、オレはこれ欲しいな!」


 そういうヴァルハイトは、薔薇の香油を購入するようだ。

 だからポーションは。


「良い香りだな~」


 それには同意するが。

 冒険者としては、およそ優先度の低い買い物をしているヴァルハイトは謎だ。


 確かに思い返せば、言葉遣いはチャラいが所作が丁寧であったり、剣の太刀筋は我流ではなさそうであった。


 もともと冒険者を目指していたというよりは、名家の出なのであろうか。


「まぁ、これで敵さんの注目を集めれるかな~~」

「……!」


 なるほど、盲点であった。

 薔薇の自生するような場所ならともかく、ふつうであれば香りが強いと魔物が反応する。


 つまりヴァルハイトは、自身がより前衛を務めやすくするために購入したのだ。

 剣士としての自覚は、セネル以上。

 少しチャラいという評価を……見直さねばならない。


「薔薇の香りってモテそうだし!」


 前 言 撤 回 だ。



 ◇



 薬屋を後にして、今度は屋台が多く集まる街の大通りに来た。

 僕が最初に到着した際に、目の前に広がっていた通りだ。

 時刻は夕方というのもあり、ご飯を提供する屋台以外は店を片付け始めていた。


「ルカちゃんご飯~~?」

「あぁ、武具屋の場所はさきほど確認したからな。とりあえず今日のやるべき事はやった」


 薬屋から大通りに向かう途中に、武具屋はあった。

 用事はなかったため、場所さえ分かっていれば良い。


「オレ、あれ食べたい!」


 指を指した方を見れば、確かに美味しそうな料理を提供している屋台が目に入った。

 そこでは細い棒に刺さった、タレに付けられたであろう肉が焼かれている。

 横には飲食出来る場所も備えてある店のため、丁度いい。


「そこにするか」

「やっっったーーー!」


 そんなに嬉しいのか。


「おっちゃーーーん! これとそれ、二つずつ! あと酒!」

「そんなに食べるのか?」

「え、ルカちゃんの分もだよ! お兄さんのおごり」

「それはありがたいが……。僕は酒は遠慮しておく」

「えーー、あ。おっちゃんお酒とお水ね!」

「あいよー! 全部で千二百メールだ!」


 席に持っていくというので、椅子に腰かけて待つことにした。

 それにしてもヴァルハイトは薬屋以上にテンションが上がっている。


「いやー、オレ、こういう料理あんまり食べたことなくてさ! 楽しみ~~♪」


 確かルーシェントの出身であったか。

 彼の国ではあまりこういった屋台はないのであろうか。


 あいにく僕は行ったことがないので分からないが。

 ヴァルハイトが異国の料理を見て楽しそうなのは、冒険者として街での楽しみが増えるという事。

 良いことに違いない。


「お待ちどお! グリュンバードの串焼きだ!」

「おお、さっきのやつか!」


 タレの食欲をそそる香りと、香草で焼かれた独特の香り。

 どちらも美味しそうな代物だ。


「ヴァルハイト、ありがたく頂く」


 何故だか奢られてしまったので、一応礼は言っておく。


「イイってイイって! お礼を兼ねてな!」


 依頼を達成したことになのか、同行を了承したことに対してなのか。

 どちらかは分からないが、ありがたく頂戴することにする。


「う、っまーー!!」


 ヴァルハイトが勢い良く肉にかぶりつくと、それは美味しそうにうっとりとしていた。


「確かに……。これは美味しいな」


 お世辞でもなく、本当に美味しかった。


 素材が獲れる場所も近いためか肉は新鮮で。

 店主特製のタレも甘く美味だ。

 香草焼きも、食べたあとの鼻を抜ける香りが心地良い。


「ギルドのおっちゃんが欲しがるのも分かるな~~」


 確かにギルドの、……自分の勤め先の食堂でこれが出たら真っ先に頼むだろう。

 あのような方法で食材の確保が出来るのは、ギルドならではだ。



 ◇


 

 夕方から夜に差し掛かり、飲食店以外のお店はほとんど閉まりかけていた。

 夕食も終え、僕は宿に戻り鞄の整理や服の手入れをしたかった。


「ヴァルハイトの宿はどこなんだ?」

「ん? あぁ、多分ルカちゃんの宿と一緒かな? オレも到着したばっかりだったからギルドの人に聞いたし」

「そうか」


 帰路まで一緒とは、今日一日の大半をヴァルハイトと過ごしてしまった。

 あまり経験がないので慣れないが、不思議と嫌な気分ではなかった。


 宿の予約はとりあえず三泊にしている。

 前金制とのことで、宿泊費も支払い済み。朝食代も込みだ。

 また滞在が延びる際は、申し出て支払えば良いとのこと。


「んじゃールカちゃん、また明日! おやすみ~~」

「あぁ」


 明日、魔石をギルドへ受け取りに行くついでに一緒に依頼を見に行くことになった。

 宿も同じと判明したため、朝食を終えたら九時に集合だ。


 自室へと帰還した僕は、水と火の魔石を組み合わせ温水が出る仕組みである、シャワーを浴びて一息ついた。


 今日一日着ていた服は、桶にソープと一緒に漬け込む。


 収納魔法(マジック・バッグ)から明日着る予定の服を取り出し、備え付けられた衣類掛けに用意しておく。


「魔石が幾つか手に入ればいいが……」


 風の魔石が手に入れば、試したいことがある。

 明日の成果に期待して、ベッドの上で眠りについた。


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