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【後編】2人の恋の行方

【1/4 あとがきに追記しました】

 

 

 ――まだ仕事中だった

 

 私は一旦落ちた気持ちを立て直し、隣室へと足を向けた。ローズちゃんと王太子様に見合いの件と、後任者が必要な旨を伝えるためだ。

 

 2人とも思いのほか惜しんでくれ、こんな仕事でも人間関係が築けていたのだと、少しだけ気持ちが浮上した。

  

 

 ――この勢いで彼にも伝えよう。大丈夫。嫌われてはいないはずだから、少しは惜しんでくれるはず。


 私は自分に言い聞かせるように彼の来訪を待った。

 だが、あとで来ると言った魔術師様は、その日待機部屋に来なかった。



 *  *  *



 今日は水曜日なのでハーレム部屋も一応休みなので、お見合いにはちょうどよかった。見合いの場所もリンフー家だから宮殿から近い。


 私は水色のワンピースに髪をおろしただけの、見合いとは思えない格好のまま、姿見の前に立つ。


 ――逃げたい

 

 

 私が何度目かの深呼吸をした時、突然扉が開けられ、昨日待てども現れなかった主が顔を出した。


「ちょっと……」

 

 ――今さらなんなの


 彼はズカズカと部屋に入ってくると、私の目の前に立った。


「なんですか、女性の部屋をノックもせず開けるなんて」

 

「なんだ、見合いだというのに、宝石の一つも身につけないのか」

「……ローズ様に聞いたのですね」

「ローズではなく王太子様からだ」

「どちらでもいいです。それなら私から話すこともありませんし、そろそろここを出ますから……」


「何かつけた方がいいな。これを身につけるといい」

 

 そう言って魔術師様が差し出したのはアレだった。婚約破棄した女性に渡すつもりだった、薄紫色の……彼の瞳の色のイヤリング。


 私の見合い相手の瞳の色は緑色だ。


「そんなもの身に付けたらまとまるものもまとまりませんよ」

「……まとまりたいのか?」

「こればかりは家からの命令ですし、逆らう理由もありませんので。約束の時間に間に合わないのでもうよろしいですか?」


「リンフー家の長男は女遊びが盛んだという噂だが」

「全て承知の上です」

「ではなぜ今にも泣きそうな顔をしている」


 ――ほんと鈍い。なんでこんな人を好きになったんだろ。これ以上長引いたら行きたくなくなるからさっさと切り上げよう


「先方に気に入られるか不安だからです。このように可愛げのない女ですから」

「不安か……」

「もう、いいですか」


「それなら、なおさらイヤリングを身につけた方がいい。わたしがずっとそばにいると思えば多少は不安もなくなるだろう?」

「自分が何を言っているか分かってます?」

「何だ急に」

「……なんでもありません!」

 

 魔術師様は「なにをプリプリしている」と首を傾げている。


 ――それ、本気で言ってる? 鈍いのもそこまでいくとわざとなんじゃないの!?


「名案がある。この案なら見合いをする必要もなくなる」

「それはどういった案ですか」


 ――また何かろくでもないことを思いついたよ、この人は


「わたしと婚約したことにしよう」

「はい?」

「したことにしようでは駄目か。正式に婚約しよう」


「……は?」

「わたしと婚約しようと言ったのだが」


「思いつきでそういうことを言うのはやめてください。イヤに決まってるでしょう」


 ――しかも笑えない冗談。


「なぜ。わたしは君を好ましいと思っているし、君もわたしを嫌いではないだろう」

「だから……」

 ――やめてよ、あなたとは好きの種類が違うんだって。


「君がいなくなるかもしれないと知った時、自分の気持ちに気がついたんだ。君とずっといるためには婚約すべきだろう?」

 

 と、魔術師様はそっと私の髪を撫で、穏やかな目をして私と視線を合わせる。


 それはまるで、これからキスをするような雰囲気で――


 ――ちょっ、ちょっ、ちょっと待った! 展開についていけないんだけど! なんで急にこんなゲロ甘展開になってるの!?


「い……いやです」


 ブレークブレーク、私は思わず一歩下がる。


 ――時間を稼ごう……無理だ、心臓の音がうるさくて考える声が聞こえない! これじゃ冷静に考えられない。この人はハーレムメンバーハーレムメンバー 勘違いするな勘違いするな


「だからなぜ」


 魔術師様が追いかけるように私の方へと歩みを進めた。


「よ、夜に、あなた行ってらっしゃいってハーレム行きを見送るなんてみじめすぎます」

 

 華奢だと思っていたが肩幅は思ったより広いなと関係のないことを考えたせいか、思わず素直な気持ちを口にしてしまった。


「君は思ったより鈍くて阿呆だな」

 

 ――え? それをあなたに言われちゃう?


「だから、このイヤリングを受け取ってくれないか」

 彼が再びイヤリングを取り出す。

「ちょっと……」

 

 そのイヤリングはダメでしょう、と笑って言おうとして気がついた。


 表情は穏やかだが、彼の手がかすかに震えていることに。

 


 

 ……もしかして、本気なの? 


 彼が私を好き? そんな都合のいい話ある? 


 でも彼がもし本気ならば私が笑ってごまかしてはダメだ。


 私は小さく深呼吸をし、呼吸を整える。



「わ、私は、浮気を許す女ではありません」

「わかっている」

「あなたの気持ちもまだ信じられません」

「わかっている」

「でも私は……私もあなたが好きです。」


 彼は無言で私の手を取り、イヤリングを握らせた。


「では、これからもずっと君のそばにいさせてくれ」

  

 ――ほんと、決める時に決める人だわ。


「承知いたしました。そのかわり、ハーレムは抜けてくださいね」

「君は本当に……」


 彼はとっくに抜けていたのだと、あとから教えてくれた。私といる方が楽しいからだと。


 それでも私を好きだと気づかなかったなんて鈍すぎると彼に伝えると、「君も」と私の手をとり指先にキスをしたから、何も言えなくなってしまった。


 ……バカップル? 異世界に来て初めての恋なんだから大目にみてください。


 こんな感じで、私たちは両想いになりました。


 そういえば、リンフー家はなぜか辺境の地に飛ばされ、農地を開拓しているそう。

 これに関してはハーレムメンバーのパパたちが気にせずともよいと言うので気にしないことにした。

 

 


 婚約者となった魔術師様は、ハーレム部屋の担当を早く後任者に引き継げと毎日うるさい。

 

 

 気持ちはわかるけれど、最近は少しやめるのが惜しい気もします。


 なぜって、やっぱり刺激的で楽しい仕事でしたから。


 


 

 



とにかく両想いにしたかっただけです。

細かいことは気にしないでください  


【1/4追記】

読んでいただいた方、ポイントを入れてくれた方、ブックマークまでしてくれた方ありがとうございます!


ハーレムメンバーと前世がおばちゃんのカップルなんて誰得?みたいな二人で申し訳ありせん。


一つ大事な場面を書き漏らしていました。


前編で魔術師は壁ドン状態の侍女を放置して出ていったようですが、ドアの向こうでは、何かあったらすぐ飛び込めるよう聞き耳を立てていました。

侍女のポーカーフェイスから助けを求められているか判断できず、一旦引いてしまった感じです。


見合い相手と睨み合うシーンまで考えていたのに、完全にすっ飛ばしてしまいました(^^;)


改稿して書こうか迷いましたが、繋ぎがあまりうまく考えられなかったので、あとがきに書きました。


最後に、今までのシリーズを読んだ方からすると、思ったのと違うとガッカリさせてしまったかもしれません。ガッカリされた方、申し訳ありません。


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