改めて見ても、圧倒的な情勢なのだが
数日後。
曹操は鄴へと発った。
発つ前に、許昌に夏侯淵に兵を出す上奏をした。
これで、宋建は程なく討たれると分かった。
其処で曹昂は腹心達を集めて、評議を開いていた。
「徐州、青州、豫洲、兗州、冀州、并州、幽州、荊州、司隷は完全に支配下に入り、雍州と涼州はほぼ制圧。交州は我らに反抗する気概も無い。残るは揚州と益州のみですな」
「と言っても、益州の漢中を支配している張魯はこちらの軍門に下っているので、漢中も支配下に入っていると見ても良い」
「残るは揚州だけですな」
「と言っても、九江郡と呉郡は我らの支配下に入っているな」
地図を見つつ、現状について話していた。
地図の大部分が曹操の支配下を示すという意味で赤く塗られていた。
そうしてみると、国内の殆どが赤く染められていた。
「・・・・・・最早天下の七割いえ八割が支配下に入っておりますな」
「この状況で反抗する者など、余程の反骨心を持つか馬鹿ですな」
「確かに」
家臣達が嗤っている中、諸葛亮だけは冷静に地図を見ていた。
「孔明先生。何か気になる事でも?」
「この様な状況であっても劉備は降伏しない所を見ますと、何をするつもりなのか考えておりました」
諸葛亮がそう言うと、司馬懿が口を出してきた。
「最早、逃げる事も出来ないので、城を枕に討ち死にするつもりであろう」
「もしくは、孫権と戦い敗れるかであろうな」
「両者が共倒れしてくれれば、こちらとしては統治が楽になるのだがな」
法正や趙儼などは、そうであれば良いと思いを込めて述べた。
「それはどうでしょうな。わたしが使者として赴いた時、劉備の顔を見ましたがあれは尋常な者ではありません。ですので、枕で討ち死にするなど、余程追い詰められていなければしないでしょうね」
「ふむ。つまり先生は劉備は最期まで足掻くと?」
「はい。加えて言えば、何処かに逃げるかも知れません」
諸葛亮の口から出た言葉に、曹昂を含めた皆衝撃を受けていた。
「逃げるだとっ⁉」
「確かに、城を枕に討ち死にするよりかは良いかもしれませんが。何処に逃げるというのですか?」
劉巴は逃げるにしても、何処に逃げるのか気になり訊ねた。
劉備が居る丹陽郡は揚州の真ん中と言える土地であった。
その様な土地な為、逃げるとすれば曹操か孫権の支配圏に入る。
だから、逃げるとしたらどちらかと戦うという事になる。
戦いながら逃げるのは、あまりに難しいと言えた。
「そうですね。劉備の状況から考えて、荊州か交州のどちらかですな」
劉巴の問いに、諸葛亮は指さしながら答えた。
「荊州ですか?」
「交州ならば分かる。州牧の士燮は何を考えているのか分からない男だ。劉備を懐に入れて、我らに対抗するかもしれん」
「だが、荊州はもう我らの支配下です。逃げ込んだ所で追われて討たれるだけでは?」
諸葛亮の意見に、皆荊州はないだろうと述べた。
「孔明。何故、そう思ったのだ?」
其処に龐統が尋ねて来た。
「劉備が荊州に逃げ込むのは、あくまでも通るだけだ」
「通る? 何処に逃げ込むのだ?」
「益州」
諸葛亮が端的に言うのを聞いて、皆衝撃を受けていた。
「益州か。成程な有り得るな」
話を聞いた曹昂はそういう可能性もあるのかと思った。
現在益州を治めている劉璋は優柔不断な所があった。
もし、劉備が益州に逃げ込んできたら助けるかもしれなかった。
「益州に逃げ込むか。常人では思いつきもせんな」
「だが、益州に逃げ込まれれば今の様に容易に討てぬな」
龐統と趙儼は逃亡先としては、交州よりも良いので悪くないなと思った。
「だが、荊州は州牧や刺史こそいないが。襄陽には曹子孝殿がおられる。如何に劉備といえど曹将軍の軍勢の前には敵わんだろう」
「逃げるだけであれば戦う必要もないであろう。劉備の逃げ足は天下一品。何せ、丞相ですら取り逃がしているのだからな」
「流石に益州に着く前に捕らえるかも知れないが・・・・・・あっ⁉」
話していた曹昂がある事を思い出した。
それは、数日前までいた曹操と話していた事であった。
『休も太守としての経験も積んだであろう。そろそろ任を解こうと思う』
『もう天下は定まっているのですから、数年太守をさせても良いと思いますが』
『というよりも、そろそろ韓嵩を才に見合った役職を与えたい」
『成程。韓嵩を召し上げるついでに、休の職を解くのですね。という事は、関将軍も引き上げさせるのですか?』
『うむ。そろそろ、関羽と話をしたいと思っていてな』
『父上がそう決めているのであれば、後任は決まっているのですか?』
『南陽郡は完全に儂の支配下に入っているからな。誰でも良いだろう』
と話していたのだ。
「どうかしましたか?」
「父上が休の南陽郡の太守の任を解くと言っていた事を思い出してな」
「何とっ、そうなりますと後任がどのような者か気になりますな」
「確か、夏侯淵殿に文を出すついでに、任を解く上奏をすると言っていたな。という事は、もう上奏されて後任が選ばれて引継ぎされているかもしれないな」
誰だが知らないが、曹昂はもし劉備が逃げてきた時対抗できる人物である事を祈った。