大人げない
その夜。
曹昂は丁薔と食事を取っていた。
久しぶりに食事を共にとるという事で、丁薔も嬉しいのか顔を綻ばせていた。
そう食事を共にしていると、全て食べ終えて菓子が出て来た。
丁薔の膳に置かれたのは、深い器であった。
その器の中に入っているのは、茶色に焼かれていた。
器からはみ出る程に膨らみ、横の部分は淡く黄色になっていた。
「まぁ、これは」
丁薔はその膨らんだ物を見て、目を丸くしつつ匙で突っついてみた。
匙が突っつくと簡単に膨らんだ物が取れた。
それを口に含むと、丁薔は目を剥いていた。
「~~~、凄いフワフワしているわね。まるで、雲を食べている様な気分だわ」
ふわふわした食感なのだが、少しだけ焼けてカリっとした所があった。
其処に甘味が襲い掛かってきた。
その食感が気に入ったのか、頬を抑えつつ喜んでいた。
「子脩。これは本当に旦那様には出していないの?」
「はい。出していません」
丁薔に返事をしつつ、曹昂は内心で作るのが大変だからそうそう出せないと思っていた。
丁薔が食べているのはスフレであった。
スフレの材料はカスタードとメレンゲであった。
どちらも卵があれば出来るので、作ろうと思えば作れる。
作り方も難しくはない。カスタードとメレンゲを混ぜるだけだ。
だが、この混ぜ方で出来が変わる。
メレンゲの泡を潰さない様に混ぜねば、フワフワとした食感がなくなってしまう。
その上、時間が立つとしぼんでしまうので提供するのが大変であるので、曹操に出さなかったのだ。
「熱いけど、このふわふわとした食感を楽しめると思うと悪くないわね。本当に雲を食べている気分だわ」
丁薔は顔を綻ばせながら、スフレを食べていた。
そう食べていると、丁薔の機嫌が良くなっているのが分かった。
これで何とかなったなと思っていると、其処に使用人が入って来た。
「失礼します。丞相が御戻りですっ」
使用人が慌てた様に言うと、曹昂達は出迎えにいった方が良いと思い席を立とうとしたが、その前に曹操が部屋に入って来た。
「これは父上、お帰りなさいませ」
「旦那様。お帰りなさいませ」
「うむ。・・・むっ?」
曹昂達が席を立ち一礼するのを見た曹操は、丁薔の膳に置かれている物が目に入った。
「何だ。それは?」
「これは舒芙蕾という料理にございます。久しぶりに義母上と食事をしますので特別に作りました」
「ほぅ、そうか。儂の分はあるか?」
「ああ、すみません。義母上の分しか作っておりません」
「何だとっ⁉」
自分の分が無いと聞いて、曹操は不機嫌な顔をしだした。
逆に丁薔は上機嫌な顔をしていた。
「これは、子脩が私の為に作った物です。ですので、残念ですが諦めて下さい」
「ぬううっ、子脩。今すぐに厨房に行き作るがいい」
「それが材料が丁度切れておりまして」
曹昂が首を振りながら述べた。
というのも、このスフレを出す際に試作したのだが、上手く膨らまないという失敗を繰り返していた。
何とか上手く膨らむ様になった時には、卵が底をついてしまった。
「な、なんだとっ」
曹操は衝撃を受けていた。
そして、ジッと丁薔を見た。
一口くれないかと目で伝えたのだが、丁薔はその視線を浴びても素知らぬ顔で食べていた。
「く、くうううううっ」
曹操は悔しそうな顔をしていた。
翌日。
曹操は曹昂に舒芙蕾を作る様に命じるのであった。




