機嫌直しに
ようやく、丁薔の説教から解放された曹親子はぐったりとしていた。
「どうして、あやつは儂の妾に関して、ああも口を出すのだろうな」
「父上が人妻ばかり妾にするからでしょう」
曹操の呟きに、曹昂は呆れつつ答えた。
現に荊州で侍女にした王瑛に関しては、丁薔は何も言わなかった。
未婚で若い事に加えて、侍女に迎えた経緯も話した事からか、その身上を哀れんだのかも知れなかった。
その後、二人は碁をしながら雑談に興じていた。
「考えてみれば、義母上はどうして父上が人妻を娶る事に嫌がっているのでしょうね?」
もうそういう好みだから、諦めた方が楽なのではと思い口にした曹昂に、曹操があっさりと答えた。
「儂が若い頃、人妻に手を出して沢山面倒を掛けたからな。しまいには、死んだ爺様に仲裁して貰ったな。懐かしいな」
そう言って曹操は笑い出した。
笑う曹操を見て、それが原因だと分かった曹昂は溜息を吐いた。
「義母上は機嫌直したでしょうか?」
「あれだけ言ったのだから、もう大丈夫だと思うぞ」
曹操はもう安心と思っていたが、曹昂は気になっていた。
碁を終えた後に、屋敷によって様子を見る事にした。
丞相府を後にした曹昂は曹操の屋敷に赴き、丁薔の部屋へ向かった。
「子脩。何か用かしら?」
部屋に入れてくれた丁薔であったが、不機嫌な顔をしていた。
これは、まだ怒っているなと察した曹昂は頭を下げる。
「先ほどは挨拶らしい挨拶が出来ませんでしたので、改めてご挨拶に参りました」
「そう。それで、旦那様に何か言われてきたの?」
丁薔は此処に来た目的は分かっているとばかりに、目を細める。
曹昂はそれは違うとばかりに、首を横に振った。
「いえいえ、父上には何も言われておりません。先も言ったように、義母上に挨拶らしい挨拶をしていないと思い参った次第です」
曹昂の答えを聞いて、丁薔はジッと目を見て来た。
暫し見た後、息を吐いた。
「そう。母思いの子を持って嬉しく思うわ」
「当然です。義母上のお陰で、今のわたしが居るのですから」
曹昂は深く頭を下げつつ述べた。
生みの母が亡くなった後、面倒を見てくれた存在であるので本心を込めて言った。
丁薔も曹昂の言葉を聞いて、まんざらでもないのか顔を緩ませていた。
「貴方の言葉を聞いて、母は嬉しく思います。ですが、貴方も旦那様と同じように人妻に手を出しているから、其処だけは残念と思っています」
溜息を吐きつつ言う丁薔に、曹昂は何も言えず苦笑いを浮かべていた。
「まぁ、其処は旦那様の子という事で、納得いたしましょう」
そう言いつつ、丁薔の顔には不本意と書いてあった。
これは機嫌直しに何かしないといけないなと思い、曹昂は口を開いた。
「今日は久しぶりに、親子仲良く食事でもとりませんか」
「・・・・・・良いでしょう。その際に、旦那様も食べた事がない物を食べれば、母は嬉しく思います」
「承知しました」
丁薔が、曹操も食べた事がない物を食べたいと言われた曹昂は頷いた。
これで機嫌が直るのなら安い物だと思ったからだ。




