思わぬ事が起きた
曹昂が許昌への帰還の準備を行っている頃。
揚州豫章郡柴桑県。
城内にある部屋にて、孫権は政務を行っていた。
曹操が撤退したのだが、家中の者達はもう抗戦を訴える者は居ないので、臣従の準備を進めている様なものであった。
その一環として、大喬と小喬の二人の元に薬師を派遣していた。
許昌に送るので身体の健康状態を確認する為にだ。
孫権が政務を終えて一息ついていると、護衛の兵が部屋に入って来た。
兵は二喬の元に送った薬師が帰って来たというのを聞いて、直ぐに部屋に通す様に命じた。
少しして、兵が薬師を連れて来て一礼して部屋を出た。
「ご苦労であった。二人の様子はどうであった?」
「・・・は、はぁ、御二人の身体に病などはありません」
「そうか」
薬師が二人の健康に問題ないと言うのを聞き、孫権は安堵した。
だが、薬師の顔が暗かった。
「どうした? 何かあるのか?」
「・・・・・・実は小喬様の脈を診た所、どうやら懐妊している様です」
口籠った後、薬師は答えた。
孫権は暫しその言葉の意味を理解するのに時間が掛った。
「・・・・・・・・・・・・はぁっ⁉ 懐妊した⁉」
小喬が懐妊したと聞いて、孫権は耳目を驚かしていた。
本来であれば、周瑜の妻である小喬が懐妊したと聞けば喜ぶべき事であった。
だが、臣従の証しとして許昌に送る者が懐妊したとなれば、問題としか言えなかった。
子が生まれるまで、許昌に送る事は出来なくなる。
大喬だけ送っても曹操が難癖つけて何をするか分からなかった。
どうしたものかと悩んだが、これは誰かに相談した方が良いなと思い、孫権は薬師を下がらせて程普と魯粛を呼んだ。
孫権に呼ばれた程普達が部屋に入ると、孫権は直ぐに呼んだ理由を述べた。
「なんと、周瑜の子が」
「これは驚きましたな」
話を聞いた程普達は立ちすくんでいた。
そして、直ぐに唸りだした。
周瑜の子が出来た事を喜ぶべきなのだが、二人は今の状況の悪さに何も言えなかった。
「殿、曹操は二喬にご執心と聞いております。大喬様だけ送れば、かえって怒りを買うかも知れません」
「ぬぅ、何とも間が悪い事よ。こうなりますと、大喬様だけ先に送り小喬様は子を産んだ後に送るか。それとも、小喬様が子を産んだ後にお二人を送るのどちらにするかという事となりますな」
「程普の言う通りだな。どうするべきか」
孫権は溜息を吐きながら頭を抱えていた。
その後、三人頭を突き合わせてどうするか話し合ったが、良い案が浮かばなかった。
仕方がないので、同じ女性という事で呉夫人に相談する事となった。
孫権達が呉夫人の元に訪れると、小喬が懐妊した事を告げた。
「話は分かりました。此処は正直に曹操にこの事実を伝えるべきです。その時に、大喬だけ先に送るか小喬が子を産んだ後に一緒に送るか、どちらにするか決めて貰うとしましょう」
「ぬぅ、それが妥当ですな」
呉夫人の提案を聞いて、孫権達は納得するのであった。
その後、許昌に誰を送るか話し合った。




