非常に気になっていた
曹昂は襄陽にて年を越した。
情勢も落ち着きだしたので、そろそろ陳留に帰るべきだと思い、曹仁に帰還する旨を告げた。
曹仁も問題ないと言うので、帰還の準備を整えた。
その最中、曹昂はある事を思い出した。
(そう言えば、諸葛亮の奥さんと会ってないな)
結婚の話を聞いた時から、どのような女性なのか気になっていたので、諸葛亮に会えるかどうか訊ねる事にした。
翌日。
諸葛亮に妻に一目会いたい言うと、快く承諾してくれた。
用意されている屋敷に赴くと、使用人が居なかったが女性が出迎えてくれた。
年齢は二十代ぐらいであった。
肌は日に焼けた様に小麦色で、髪色は赤かった。
顔立ちは、綺麗とは言えないが醜くもないという平凡な顔つきであった。
身長も女性にしては高く、七尺五寸はあった。
諸葛亮も身長が高いので、二人が並ぶと身長差が無かった。
「お、お初にお目にかかります。諸葛亮の妻の黄月英と申します」
女性はそう名乗り頭を下げた。
「おお、あなたが奥方か。初めてお会いする」
女性こと黄月英が挨拶するのを聞いて、曹昂も返礼する。
(醜女でも無く綺麗とは言わないが、普通の女性だな)
これでも、この時代の価値観で言えば黄月英は醜女に入るのであった。
この時代の女性の綺麗の基準は、色白で髪は黒であった。
肌は小麦色で赤毛なので、この時代では美人とは言えなかった。
曹昂がジッと黄月英を見ていると、当の本人は身体を震わせていた。
その震える姿は、まるで栗鼠の様であった。
「申し訳ありません。妻は人見知りですので」
諸葛亮は黄月英の傍に来ると、肩に優しく手を置いて述べた。
「そうか。では仕方がないな」
黄月英の反応を見ても、曹昂は気にした素振りを見せなかった。
その後、屋敷に休憩させてもらった。
屋敷に入ると、茶を飲みつつ雑談に興じていた。
長く話していたのだが、不意に腹の虫が鳴りだした。
「むっ、もう昼か」
「これは気付くのが遅れてしまい申し訳ありません」
「良い。では、これで」
「お、お待ちを」
曹昂は席を立とうとした所で、雑談に興じている間、黙っていた黄月英が口を開いた。
「直ぐに用意しますので、す、少しお待ちください」
「そうか。では」
用意すると言うのを聞いて曹昂は座り直すと、黄月英が部屋を後にした。
四半刻後。
「お、お待たせしました」
黄月英が盆に乗せて来たのは、深い器であった。
それを曹昂と諸葛亮の前に置いた事で、器の中に何が入っているか分かった。
湯気が立つ透明な液体の中にあるのは、雪の様に白く小指ぐらいに太く長い物であった。
「これは饂飩か」
「思っていたよりも、早く出てきましたな」
曹昂達はもう少し時間が掛るだろうと思っていたので、思っていたよりも早く出来て少々面食らっていた。
湯気が立っているので、早速頂こうと思い用意された箸を取り饂飩を掴む前に、器を持ち液体を啜った。
「・・・・・・美味しい湯だな。肉で取ったのだな」
味付けは塩味であったが、その分スープの味が良く分かった。
肉を良く煮込む事で味に深みを出していた。
湯を十分に味わった後、曹昂は箸で饂飩を掴み口に運び咀嚼すると、この饂飩は腰があるなと思っていた。
(歯ごたえがあるな。でも、美味いな)
黄月英は思っていたよりも料理上手なのだなと思いつつ、饂飩を味わっていた。
やがて、器の中にあった饂飩を全て平らげてしまった。
「済まぬが。お代わりを貰いたい」
「は、はい。ただいま」
曹昂はお代わりを所望すると、黄月英はお盆に器を乗せて部屋を後にした。
お代わりを待っていると、諸葛亮が席を立った。
「どうしたのだ?」
「厠に」
そう言って諸葛亮が部屋を後にすると、少しして戻って来た。
戻ってくるなり、何かに納得したような顔をしていた。
「どうかしたのか?」
「いえ、気になさらずに」
曹昂の問いに諸葛亮は微笑んでいた。
その後、黄月英が饂飩のお代わりを持ってきてくれた。
昼食を食べた後、曹昂は屋敷を後にした。
曹昂を見送ると、諸葛亮は傍にいる黄月英を見た。
「饂飩の作り置きなど用意してないのに、饂飩が出てきたので驚いたが、まさかあのような方法で作るとは」
「や、屋敷にお招きした客人に何もせず帰すのは、失礼ですから。急な来客が来た時に作れるようにしました」
そう述べる黄月英に諸葛亮は微笑んだ。
「貴方を妻に迎える事が出来て、わたしは嬉しく思う」
「あ、ありがとうございます」
諸葛亮の顔を見て、黄月英は頬を赤く染めるのであった。




