閑話 そんな〇〇〇
曹昂が襄陽に駐屯し、それなりの日が経った。
荊州の情勢は徐々にだが落ち着きを取り戻していった。
(まだ完全に落ち着いていないが、暫くすれば落ち着くだろう)
その頃には、許昌を経由して陳留に帰還する事に決めた曹昂は用意されている部屋で寛いでいた。
久しぶりに長閑な日だと思っていると、部屋の外に護衛としている趙雲が入って来た。
「失礼します。曹将軍がお呼びとの事です」
「子孝殿が?」
何用だろうと思いつつ、曹昂は部屋を出て曹仁の元に向った。
廊下を歩き、曹仁が居る部屋に着き挨拶をして呼んだ理由を尋ねると。
「何か、交州に居る士燮が朝廷に送る使者と共に貢納物を持ってきたのだ。それとは別に、こちらに果物を送って来たぞ」
曹仁はそう言って部屋にある卓の上に置かれている物を指差した。
それは、一つの房に緑がかった黄色の湾曲した物が幾つも繋がり、中太の大きさで、長さは八寸ぐらいはあった。
曹昂は一目見て、これバナナだと思いつつ、曹仁に訊ねた。
「これは芭蕉ですね」
「おお、知っていたか。食えるらしいが、どう食べるか分かるか?」
「はい。これをこうやって」
曹昂はバナナを一本手に取り、皮を剥いた。
そして、皮を剥かれて出て来た身を口の中に入れると、歯に固い何かが当たった。
「むっ? これは」
曹昂は口の中を動かして、掌に口の中にある固い物を出した。
「これは、種ですね。大きいな、豆ぐらいはありそうだな。しかも沢山ある」
曹昂は掌にある種の大きさと、その数の多さを見て目を剥いた。
記憶の中にあるバナナはこんなに大きい種など入っても居なかった。その上、味も違っていた。
「味はどうだ?」
「甘いですけど、酸味もありますね」
味は其処まで悪くないが、種が大きい上に多いので食べ辛いと言えた。
「そうか。まぁ、まずくないのであればいいか」
曹仁はそう言って、一本手に取り口の中に入れて咀嚼した後、適当にある壺に種を出していた。
「味は悪くないが、種が多いのは難点だな」
「ですね。種が無いのを探して貰い、送ってもらう様にしてもらいますか?」
曹昂も味はともかく、種が多いのは何とかして貰いたいと思い口にしたが、曹仁は嫌そうな顔をしていた。
「種が無いのか。味が良くても流石に食べる気になれんな」
「何故ですか?」
「そんなの決まっている。種が無いからだ」
曹仁は何故、そんな事を聞くのだという顔をしつつ言うのを聞いた曹昂は少しだけ言葉の意味が分からなかったが、直ぐに意味を察した。
(ああ、そうか。種が無いのを食べたら子供が出来なくなるかも知れないと思っているのか)
この時代の人の感覚ではそう思う人が多いのだろうなと思い、曹昂は納得するのであった。




